第28話猟師救出2

 どうやらここで狩った獲物を荷づくりし、奴隷達に魔境の外へ運ばせるようだ。

 さて、爺はここでどう判断する。

 荷役の奴隷達が狩りの獲物を持って徐々に魔境外に戻り、猟師・冒険者・下役人だけになったところを襲うのか?

それとも今全員を拉致するのか?

「奴隷の中に王家王国に民が含まれているかもしれない。ここは全員助けるぞ」

「「「は」」」

 余達三人が小声で返事したと同時に、疾風迅雷の速さで攻撃を開始した。

「麻痺」

「麻痺」

 余と爺は銀級の麻痺魔法を放った。

 銀級の魔物百匹を同時に麻痺させられるくらいの強さと範囲がある魔法だ。

 それを五十人の相手にかけたのだが、奴隷猟師と奴隷冒険者の中に金級以上の実力者がいれば、抵抗される可能性がある。

 案の定三人の猟師が抵抗して麻痺に耐えた。

 だが五人の下役人はだらしなく倒れている。

「強盗か? 悪いことは言わん、止めておけ。こいつらは公爵家の下役人だ、下手な事をすると追討軍が送られてくるぞ」

「心配しなくて大丈夫だ。我々は公爵家の暴政から民を解放するために立ち上がったのだ。だから今更公爵家の追討など恐れはしない」

「民を暴政から解放する気持ちで立ち上がったのならなおさら止めてくれ。俺達が帰らないと家族が殺されてしまうのだ」

「それは困ったな」

 矢張り公爵家は碌なことをしない。

 少々の労働力が失われることになっても、見せしめの方を優先するだろうから、猟師の言う通り家族が殺されてしまうだろう。

 ここはどうすべきだろう?

「それは困ったことだな。だが幻覚魔法を使うから大丈夫だ」

 なるほど。

 幻覚魔法を使って下役人を騙せば、家族が処罰されないようにして、徐々に猟師を解放できる可能性がある。

「幻覚魔法だと? 下役人を騙そうと言うのか? 駄目だ、駄目だ、そんな事が成功するはずがない。少しでも疑われたら、それが事実ではなくても、見せしめに家族が殺されてしまう。そんな危険な事をさせる心算か?!」

「そうだ。我々も表に出てきてしまった以上、もう後には引けない」

「身勝手な! それでは公爵家と同じではないか」

「強引な事は否定せんよ。だが一人でも二人でも助けなければならん」

「だったら売春宿で無理矢理働かされている女房と娘から助けてやってくれ!」

「そうだ、妹から助けてやってくれ!」

「俺もだ。俺は殺されてもいいから、妹を助けてくれ」

 なるほど、いい漢達だな。

「分かった。だが家族が捕らわれている場所や、働かされている場所が分からねば助けようがない」

「分かった。詳し場所を教えよう」

 三人の猟師は自分の家族が捕らえられている売春宿の詳しい場所を説明した。

「他にも家族を奴隷にされている者がいるのだが、そいつらの家族も助けてやってくれるのか?」

「任せろ。ここにいる四人以外にも仲間はいる。その者達に連絡して助け出そう」

「売春宿は一カ所ではなく、公爵領に点在しているが、それでも大丈夫なのか」

「連絡と移動、準備と救出、魔境までの移動を考えると、二日は時間が必要だ。二日あれば助けてここまで連れてこられる」

「余りに荒唐無稽な話に思えるが、俺達を揶揄っている訳ではないだろうな!」

「俺達四人の内三人は身体強化魔法と支援魔法が使える。御前達の家族を助け出した後で、身体強化魔法をかけてここまで移動させる」

「四人中三人も魔法使いだというのか!?」

「御前達に魔法をかけたのは既に理解しているのだろう」

「あたりまえだ! だが後ろにいる魔法使いの女がかけたのだと思った」

「彼女達は捕虜だ」

「なんだって?」

「ブラッディベアーに襲われているのを見過ごせなくて助けたが、公爵家や冒険者ギルドに通報されては困るので、御前達を助け出すまでは拘束している」

「さっきは公爵家の暴政から民を解放すると言っていたが、今は俺達を助けるという。だが俺達は公爵家の民ではなく、王国領から騙されて連れてこられた王国民だ。それでもいいのか」

 いい漢だ!

 黙っていれば優先的に助けてもらえるかもしれないのに、自分達が公爵家の領民ではないと正直に話す良心がある。

「それは大丈夫だ。公爵も元からの領民より先に、他の領地から騙して連れてきた奴隷を見捨てるだろう。最初に助けるのは奴隷からと決めていた」

「そうか、だったらあんた達が麻痺させた奴隷達を治してやってくれ」

「アーサー殿」

「分かった」

 余は下役人以外の奴隷達に回復魔法をかけて、麻痺状態から元に戻した。

 眠り魔法とは違い、余達と三人の会話が聞こえているので、麻痺から回復しても慌てることも逃げようとすることもなかった。

 むしろ我勝ちに、家族が奴隷として酷使されている場所を伝えようと必死だった。

 だが半数の奴隷達から話を聞いたところで、強大な気配が二つ近づいてきた!

「爺」

「リントヴルムでしょうな」

「ドリス、下手に動かないように指示してくれ」

「分かった」

 女黒人族戦士のドリスが堂々と請け負ってくれた。

 余達の強さを信頼してくれているのだろう」

「「「「「ギャ~」」」」」

 だが運搬役の奴隷達には、まだ信頼されていないから、絶叫をあげて逃げだそうとする者、身体が凍り付いてその場に立ち竦む者、ガタガタ震えながらも武器を構える者、それぞれの胆力に応じた対応をしようとしたが、逃げようとした者だけは、余が麻痺魔法で動けなくした。

 だがまあ仕方がない。

 奴隷達から見れば、絶対に勝てない強大ボス級魔獣、リントヴルムが二匹も揃って現れたのだから。

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