第15話 先生の優しさ。

「どうだ? 組合組の様子は」


時折水晶を見ながら事務仕事をするリリアに、アーサーが後ろから声をかける。

いくら命の危険はない仮想世界とはいえ、痛みも感じるし全く危険がないわけではない。

万が一に備えて、主にリリアの仕事ではあるが、交代で組合組の監視をしている。


「ぼちぼち、かな。仕切り屋も出てきたし、仲間意識もだいぶ出てきたかな。現時点ではレベル2」

「仲間意識が出てきただけで上等じゃねえか。自分にしか興味ないやつばっかりだったからな」

「レベル1の魔物に苦戦したのもショックだったみたいね」

「あー、あれな。アレお前、レベル操作しただろう? いくらポンコツ集団でもあの人数でレベル1にあそこまで苦戦するわけねえし」

「あはは。バレた?」

「バレるわ。まあ、あいつらは一生気づかないだろうけどな。実際のところはレベル3ってとこか?」

「ご名答。だからパーティレベル上がるの早かったでしょ?」

「まあ、な。いくら勉強しても実戦に勝る経験はないからな」

「真面目に受けてくれてたらここまでしなかったんだけどね。荒療治かもだけど、あの子達には必要なことだと思ったのよね。魔界の動きも気になるし、魔王の倅だかなんだか知らないけど、私の生徒を無駄死にさせるわけにはいかないわ」

「お前、意外と仕事熱心なんだな」

「あら? 私は昔から仕事に真摯に向き合ってましたけど?」

「はは、違いねえ」


熱心に仕事に向き合ってなかったら世界最強勇者になってなどいない。

昔から中途半端に手を抜くことが嫌いでできない性分だった。

ふと時間を確認すると、そろそろ子どものお迎えの時間だった。

リリアは机の上の書類を手早く纏めると、自身の机の引き出しに入れ、魔法で鍵をかける。普通の鍵と違って、無理にこじ開けようとすると、トラップが発動し痛い目に遭うと同時に、警邏隊へ連絡が入る。ちょっとした泥棒対策だ。

水晶を確認すると、各々買い物を楽しんでいる。今日はこのまま何事もないだろう。


「じゃあ、後はよろしくね」

「おう。気をつけて帰れよ」

「やあね、誰に言ってるの?」


リリアは笑って手を振ると部屋を出て行った。

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