終章 ボクは


「で?何でしたって?」


「け、腱板断裂…」


「はぁ…バカね…一人ですっ転んで、どこをどうやったらそんなケガするんだか…」


ギンギツネがこちらには目もくれずにパソコンを弄っている。

俺は首から包帯で腕をぶら下げていた。


「どうせ酔っ払ってたんでしょ」


ギンギツネがenterのキーを強く弾いて言う。


「シラフだよ…」


「まあでも良かったじゃないですか、他にはケガも無いし、頭を打たなかっただけ…」


コトリとアカギツネがお茶を置いていく。

いつも通り、旅館で出しているのと全く同じ風味のお茶だ。

茶柱が一本立っている。




まだ体の中に、お茶の暖かさが残る間に外へ出た。

斜面はパウダースノーで覆われていて、スキーをするには最高のコンディションだろう。

アイゼンがついた靴でゆっくりゆっくりと坂道を下っていく。


しばらくすると、雪が避けられて平面になっているところに出た。

そこには給湯器がある。湯の花は詰まっていないようだ。


なんだかそこには誰かがいるような気がしていた。

でももういなくなったんだ。


「キタキツネ…どういたしまして」


ボソリとそう呟いた後で、なんだかとんでもない奇行に走っているような気がして。

俺は急いで元きた道を戻ろうとする。


誰かが俺に笑いかけていてくれている。

そんな気がした。




「ただいまー」


「お帰りなさい」


何気なくギンギツネが俺に返してくれる。


「お茶入れましょうか!」


何気なくアカギツネが気遣ってくれる。


「カンタ…おかえり」


何気なく君が生きていてくれている。


それだけでもう十分じゃないか。


「キタキツネ」


「…どうしたのカンタ?」


いざとなると言葉は出なかった。


この気持ちを表しようが無くなってしまった。


でも


君からはこれからもっと沢山の幸せを貰えるから。


ニヤッと笑っていられる。


「ありがとう」


「…本当にどうしたのカンタ」


キタキツネが少々引いた顔で言う。


これからどんなに辛い出来事が待ち受けてても、神戸ならヘラヘラ笑っていられる気がするから。


君は君らしくていいよ、「 」

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