第12話 新婚の同期の家へ招待された!

9月に入って、社員食堂で遅い昼食をとっていると、小森君が隣に座った。小森君は僕の同期入社で事務系だった。研修期間に同室になって2か月過ごした。


彼は有名国立大学の出身でいかにも頭が良さそうだった。地方大学出身の僕は引け目を感じていたが、彼は僕を見下すようなこともなく同期として対等に接してくれた。


なぜか二人は馬が合った。研修中の休みの日には二人とも経験がないことが分かったので、相談して風俗にも行ってみた。また、よく飲みにも行った。


研修が終わってそれぞれ別の部門に配属されたが、仕事で困ったことや悩み事があったときにはお互いに相談し合っていた。僕は理系なので張り合うこともなかったのだと思う。彼は事務系の同期はお互いにライバル意識が強くて仲がよくないので頼りにならないとよく愚痴っていた。


今は企画部にいたはずだ。まあ、エリートコースを歩いていると言っても良いと思う。2か月前くらいに結婚したと聞いていた。結婚式は内輪だけで済ませたようで、式に招待されることもなかった。


このごろはこういう結婚が増えているようだ。式も挙げないで婚姻届けだけ出したという話をよく聞く。確かに招待されればご祝儀も必要なので余計な出費になる。独身の部下が多くいる上司は大変だろう。親しくない人の結婚式に義理で招待されるのは迷惑以外のなにものでもない。


「お久ぶり、忙しそうだね」


「ああ、いくつも案件を抱えていて、結構忙しい」


「結婚したと聞いたけど」


「2か月前に両家族だけ集まって内輪で結婚式を挙げた。それから籍を入れて、会社には事後報告にした」


「新婚旅行には行かなかったのか?」


「ああ、仕事が立て混んでいてね。夏休みに新婚旅行を兼ねて海外へ行こうと計画しているところだ」


「奥さんはそれで良いと言っているのか?」


「彼女の方からそうした方が良いと言ってくれた」


「良い奥さんだな」


「ああ、彼女はいろいろと苦労しているから、僕と結婚できたのでそれで十分と言っている」


「のろけるなよ。どこで知り合ったんだ?」


「今年になってすぐだった。関連会社の経営状況を1か月ほど調査に行った時に、そこの幹部が気をつかって彼女をアシスタントにつけてくれた」


「企画部だとやっぱり待遇が違うね。どうせ親会社風を吹かせて、彼女をいいようにしたんじゃないのか?」


「僕がそういうことをしないことは植田君が一番知っていると思うけど」


「ごめん、冗談だ。うらやましくてね。小森君が見初めたのだからいい娘なんだろう」


「ああ、地方の国立大学を出て情報関係の会社に就職していたのだそうだけど、セクハラで会社を辞めて、その関連会社に派遣社員として勤めていた。可愛いし気が利くし頭もいいので気に入って交際を申し込んだ。それで4か月ほどでプロポーズして2か月前に式を挙げて入籍した」


「それって、やっぱり交際を強いるセクハラじゃないのか?」


「そんなことは絶対にない。僕はその心配があったので、何度も仕事とは関係ないと念を押した」


「でもよく結婚を決心したね」


「この人以外にはいないと思った」


「そうか、やっぱりこの人しかいないと思うのか。僕はここのところお見合いを何度かしたけど、うまくいっていない。僕が優柔不断なのか、その決心ができていない」


「今週の土曜日に僕の家へ来ないか? 披露宴もしていないし、丁度、嫁の親友が遊びに来ることになっている。紹介してやるよ。彼女は嫁と同じ派遣社員として同じ会社で働いているそうだ。いろいろ悩みを打ち分け合って僕との交際についても相談していたと言うから。もちろん独身だ。歳も嫁と同じくらいと言っていたから」


「まあ、その人のことはともかく、小森君がどういう人を選んだか知りたいので、ご招待に預かるよ。何時に行けばいい?」


「4時ごろに来てくれればいい。3時にその友人が来て一緒に料理を作るそうだ」


「分かった。今の住所を教えてほしい」


小森君がどんな結婚相手を選んだのか楽しみだった。

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