第10話 奈緒を思い出した!

その破談からしばらくは合コンに誘われることもあったが、とても行く気になれないので断っていた。


一人でいる寂しさはある。僕は手っ取り早い風俗に月1でまた通うようになっていた。これがとりあえず心と身体を満たしてくれている。


小山部長からももう縁談の話はない。部長もあの一件で懲りたみたいだ。まあ、その方が部下としては気が楽だ。


あの時はなぜか話がもつれた。僕はきちんと付き合っていた。歯車があっていなかったと言うか、ボタンの掛け違えと言ってもいいだろう。うまくいかないときはそういうものだと思っている。


飯塚奈緒はどうしているだろう? どういう訳か少し気になった。今思うと良い娘だった。僕の気持ちを理解しようとしてくれていた。


彼女のことを考えると、どうしても様子を聞いて見たくなった。未練がある? いや断ったはずだ。でもだめもとで電話してみる気になった。


昼休みに消さずに残っていた携帯の番号に電話を入れてみた。出た!


「植田健二です。その節は失礼しました」


「こちらこそ、ご縁がありませんでしたね。どうされました?」


「その後、どうしているかと思って、気になったから。突然で申し訳ないが、もし今、誰とも付き合っていないのだったら、僕ともう一度付き合ってみてくれませんか?」


成り行きというか、彼女の声を聞いたら、交際を申し込んでいた。僕らしくない。断った相手に未練がましいし、常識的に考えてもおかしい。


「君も一度断った。僕も一度断った。お相子でもう一度考えてみてくれませんか?」


「私自身はお断りしていませんでした。せっかくですが、今、交際している人がいますので、お受けできません」


「そうでしたか。申し訳なかった。突然電話してしかも不躾な申し出をして。忘れて下さい。じゃあ」


まずい。僕らしくない。何でそんなことを言ったのだろう。本当に未練がましくて恥ずかしい。また、気が滅入ってきた。でも逃がした魚はデカかった?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る