第40話 エントランス
「「――はぁ、はぁ……」」
ダンジョンボードの前、俺とシュルヒはくたくたになってお互いに膝に手を当てていた。
今まで追手を撒く行動をしつつ、このダンジョン入り口まで走ってきたからな。【神速】でスピードが上がるのはいいんだが、気持ちがいい上に前へとどんどん進むもんだから余計に走ってしまって体力をかなり消耗した形だ。
気付いたときにはもう、周囲は赤く染まりつつあった。しばらく休憩したらダンジョンへ……って、待てよ。そういや俺たちは既に《エンペラー》所属じゃないんだよな。
「シュルヒ、ここまで来ちゃったけど街に戻ろうか。俺たちパーティー追放されてるし、ダンジョンに潜るにはギルドでパーティーボード作らなきゃ……」
「いや、ウォールどの、自分たちはまだ《エンペラー》に所属している」
「……え? あ……」
そうだった。《エンペラー》のパーティーボードに触れてないからな。あれに二回触ると脱退することができるんだ。
「でもあれって、リーダーが自分の意思でリセットできなかったっけ?」
「一度解散して組み直すことはできるが、それをやるには日付をまたがなければならないのだ。今すぐ追放したい場合、追いかけてきて自分たちにパーティーボードを触らせれば可能だが……それはおそらくしないだろう」
「どういうこと? あいつら、あれだけ俺たちのことを疎んでた感じなのに」
「例の無差別殺戮犯によって、自分たちがまとめて始末されればいいという考えではないだろうか」
「なるほど……よーし、じゃあ俺とシュルヒでそれに乗っかってやるか」
「うむ」
《エンペラー》のままなら、新たにパーティーを組んで一階層から攻略する手間がごっそり省けるわけだからな。
「……あ、でもリーダーがいないと入れないんじゃ?」
「いや、パーティーさえ組んでいる状態であれば、最初に石板を踏んだ者がリーダーだと認識される」
「なるほど……って、シュルヒ?」
シュルヒが先にダンジョンボードを踏んでしまった。
「自分がリーダーになれば仕様上、もし死んでしまってもウォールどのだけはダンジョン外に弾き出されるので助かる」
「シュルヒ、そんな悲しいこと言わないでくれよ……」
「ふふ……もちろん自分も死ぬつもりはない、ウォールどの。最悪の場合を想定しただけだ」
彼女が見せた笑顔で少し救われたような気がした……って、笑ってる? あの悲劇的な事件で感情が凍り付いていたはずのシュルヒが……。
「シュルヒ、笑ってるよ」
「……え? あっ……」
シュルヒが自身の頬に触れてはっとした顔になる中、視界は徐々に変わっていった。
※※※
「「「はぁ、はぁ……」」」
山頂にあるダンジョンボード前にて、ダリル、リリア、ロッカの三人が一様に疲れ切った表情で座り込んでいた。
「ふぅ、ふぅ……ウォールのやつ、いくらなんでも速すぎよ。なんなの……」
「だ、だねぇ……」
「ふぇ、ふぇぇ……」
「てかダリル……ホントにあいつが向かったのはこっちなわけ?」
「ほんとぉ?」
「間違いない。ああいう追手を撒くような動き方をする場合、ちゃんとした目的地があるはずなんだ。真面目なウォール君が行く場所は、発作が起きてるわけでもないならダンジョン以外には考えられない」
「でも、どうして二人でダンジョンへ行くのよ……?」
「なんでぇ?」
「んー……多分だけど、パーティー内で意見が割れてる可能性があるんじゃないかな。あの窓際の光景がいい証拠さ」
「あんなの、どうせラブラブデートの一部でしょ!」
「ふぇぇ、リリアの顔怖いよぉ……」
「ロッカ、脱がすわよ!」
「ひぅ……」
「まったく……デートとかそういうものじゃないと僕は思うんだけどなあ」
「ダリルには危機感が足りないだけよ。ウォールのことだし、あの女騎士に誘惑されて脳がイッちゃったに決まってるわ!」
「だから、ほかに何か理由があるはずだって……あっ……」
苦笑を浮かべていたダリルが急にはっとした顔になる。
「ウォール君と女騎士がダンジョンへ向かった理由、わかったかもしれない……」
「「……え?」」
「最近、《エンペラー》にはよくない噂もあるんだ。ダンジョンの四階層で最近頻繁に起きてる無差別殺人の犯人が元メンバーだって言われてる……」
「あ、あの殺人鬼が《エンペラー》の元メンバーなの……?」
「怖いよぉ……」
四階層に出現する殺人鬼については、既にリリアとロッカの耳にも入るほど有名になっていたが、《エンペラー》の元メンバーであることは初耳だった。
「本当に犯人だっていう確証はないけど、一部で疑われ出してるのは事実だよ。四階層で《エンペラー》の元メンバーが頻繁に目撃されてることも追い風になってるらしい」
「ってことは、まさかウォールは……」
「ウォールお兄ちゃん……」
「ようやくわかったみたいだね」
「うん……真犯人をやっつけて《エンペラー》の疑いを晴らして、女騎士を口説くためね!」
「「はあ……」」
ダリルとロッカは呆れ顔で両手を左右に広げるのだった……。
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