第31話 跡


「では、改めて最深部の三一階層へと参りましょうか。まだ誰も攻略していない階層へ!」


 石板――ダンジョンボード――の中央に《エンペラー》のリーダーであるバジルが乗ると、周囲の景色が目まぐるしく変わっていった。


 あれから色んなことがあったせいか、ダンジョンに潜ること自体久々だと感じる。《エンペラー》が三十階層まで行ってたのは知ってたが、もう三一階層まで到達してたんだな。どんなところか楽しみだ――


「――あっ……」


 気が付くと俺たちは砂漠の上にいた。近くには入口のない小さな塔があって、あとは見渡す限りの青空と肌色の地面が広がっている。ここが人類が未だ攻略できてない三一階層ってわけか……。


「ウォールさん、頼りにしていますよ」

「……え?」


 バジルから意外な言葉をかけられる。パーティーに入ったばかりの俺を頼りに……?


「実はですねえ、ここは一度攻略しようと挑んだのですが失敗に終わっているのです」

「え……あの《エンペラー》が……?」

「おいおいウォール、おめーもその《エンペラー》の一員だろ!」

「あ……」


 そうだった。ついつい舞い上がってたな……。


「みんなつええけど、いきなりギミックを解けるほどダンジョンは甘くねーよ」

「なるほど……」


 俺はエドナーに相槌を打つ。そういやそういう仕組みだったな。強力なモンスターを倒すだけならこのパーティーであればいくらでもできそうだが、ギミックとなると話は別らしい。それも三十階層以降となれば浅い階層と比べて相当に難しくなってそうだ。


「シュルヒさん、攻略を始める前に出現モンスターについてウォールさんに説明してあげてください」

「了解」


 出現モンスターか。一応冒険者ギルドでも調べることはできるんだが、誰かが攻略したあとじゃないと各階層の情報が見られるメモリアルボードには載らないし、実際に潜った人から聞くしかないんだよな。


「――と、こういうわけだ、ウォールどの」

「なるほど……」


 俺はシュルヒからモンスターについて教わった。数で攻めてくる砂の人間サンドマン、少数だがタフなデザートスコーピオン、一匹しかいないものの知能が高く狡猾に隙を窺うクローキングメイジ。


 特にクローキングメイジは厄介らしくて、普段は隠れていて冒険者が余所見したり単独行動したりするときに現れることが多く、しかも遠距離から攻撃してくるので最も注意が必要なのだそうだ。


 ただ、俺はモンスターとの交戦に関してはとりあえず様子見ということでいいらしい。まあみんな強くて経験豊富だし、新人の俺が出しゃばると邪魔になる気しかしないが。


「ふっ……厄介なギミックさせ解けばクリアできたも同然なのだが……」


 レギンスが言うようにかなり厄介な仕掛けらしいし、一度目は誰も攻略できなくて戻ってきたならそれなりに苦労しそうだな。


「ウォールさん、そこまで思いつめた顔をしなくても大丈夫ですよ。今日がダメでも明日がありますから」

「は、はあ……」


 とはいえ、流れ的にはギミックに関して俺がなんとかするべきって感じなんだよな。モンスターとの交戦も免除されてるようなもんだし。俺としても早くみんなの役に立ちたいと思うので挑戦していきたいところだ。


「さて、とりあえず出発しましょうか。ギミックを解くにしても、どういう内容か知らなければなりません」


 バジルの宣言によって俺たちは塔から離れることになったわけだが、まもなくみんな足元を見ていることに気付いた。


 ……足跡だ。それも、俺たちの誰でもないことがわかる巨人のような大きな足跡。それが歩くたびに出現し、足の先が示す方向へと全員が進んでいた。


『『『――グガアアァァッ!』』』

「なっ……」


 急な出来事で心臓に悪かった。砂で出来たような人間――サンドマン――が複数飛び掛かってきたと思ったら悲鳴とともにペシャンコになったんだ。これはシュルヒのアビリティ【軌跡】のおかげだろう。さらにバジルの【王手】によってモンスターたちが明らかに弱ってるのがわかるし、タフと言われていたデザートスコーピオンでさえも刃の結界に何度かぶつかるだけで散ってしまうほどだった。


「おー、いっぱい来たなあ!」


 囮役として先頭にいるエドナーにサンドマンが異常なほど集まっていたが、やはり当たる気配もなく離れた場所からレギンスがまとめて倒してしまっていた。何もしてない俺はさながら高みの見物役といったところか。その分、ギミックをなるべく早く解きたいと焦ってしまうが。


 やがて例の足跡が方向を変えたので、俺たちはかなりズレてはいるが反対側に戻ることになった。ちょうどジグザグに進むような格好だ。


 そういや、クローキングメイジとかいう賢いモンスターだけはまだ出てこない。どこかで隙を窺ってるんだろうか? それが出てこられないほど俺たちが完璧な動き方をしてるってことなのかもしれない。俺は何もしてないが、今はまだ余計なことをしないほうが賢明だろう。


 ――移動、戦闘を繰り返すうち、俺たちはやがて最初の塔まで戻ってきた。だが、何も起きる気配もなくみんなの表情もどこか冴えない。もうどれだけ塔の周りをうろついても大きな足跡が出てこないし、ここからギミックをどう解いていけばわからないといったところか。


 何かいい考えはないかな……って、待てよ? そうだ、ならいけるかもしれない……。

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