ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する
名無し
第一章 隠者の目覚め
第1話 洗礼
待ちに待った16歳の誕生日。
朝陽を背負った教会が近付いてきて緊張する。仲間とともに宿舎を発ってからずっと、俺の脳裏の片隅に浮かぶのはアビリティの文字。
16歳になったら誰もが神父による洗礼で一つだけ体内に宿すことができるアビリティ。ただのスキルとは違って、その人独自の強力なスキルのことだ。ランクはCからSまであるといわれる。どんな効果なのかはそのときにならないとわからないっていうから緊張しないほうがおかしい。
遂に今日、俺は夢にまで見たアビリティを手に入れるんだ。そして仲間とともにダンジョンワールドを攻略するつもりだ。
思えばここまで長かった。みんなと家出同然にエイムトンの村を飛び出したのは一年くらい前だったかな。
王都ファライスでみんなとバイトして、ようやく貯まったお金で近くの山に宿舎を建てたんだ。その天辺にある、古代の魔術師たちが作ったって言われてるダンジョンを攻略するために……。
高揚感で心臓が口から飛び出しそうだった。低ランクのアビリティだったらどうしよう……。Cランクだとしても、ただのスキルよりは一線を画するくらい強いらしいけど、確認されてないだけでもっと低いのもあるかもしれないし不安は拭えない。
どんな外れのアビリティがついたとしても、俺たちはずっと一緒だって約束してくれた仲間が側にいるのは心強いとはいえ、なるべく迷惑をかけたくないからな。
なんせ俺たち《ラバーズ》はただのパーティーじゃない。その強化版で、出身地の幼馴染とかで構成されたファミリーのようなパーティーだから結束も強いんだ。
最強パーティーの《エンペラー》は違うようだが、ダンジョン攻略で名を馳せてるパーティーのほとんどが幼馴染や古い友人同士で構成されているのも偶然じゃないはず。連帯感は大きな武器ってことだ。ただそれでも、やっぱり高ランクのアビリティは欲しい。
「ウォール、足震えてるぞ。心配しすぎだろ……」
「そうよ。ウォールならきっといいアビリティが手に入るよ!」
「う、うん……」
幼馴染のセインとルーネが元気づけてくれて少し楽になった。
「セイン、ルーネ、ありがとう」
「いいってことよ」
「ほら、元気出しなさいってばー!」
「いたっ……!」
ルーネに背中を叩かれて俺は顔をしかめた。相変わらず強い力だ……。
「おー、怖え怖え」
「セイン、何が―?」
「な、なんでもねえよ……」
セインがルーネに睨まれて青くなってる。彼らのことは昔から俺が一番よく知ってる。もし外れだったとしても絶対に裏切らないっていうのも。
「もし外れアビリティだったとしても安心しろ。俺がウォールの面倒見てやっからな!」
「……セイン、それ、ぜんっぜんフォローになってない!」
「そうか?」
意外そうな顔をするセイン。こいつ本気だったのか……。セインに介護されるなんて絶対嫌だ。ルーネもだけど。二人とも洗礼でAランクのアビリティを既に貰ってるだけに、自分だけ外れだったときのショックは大きそうだ。
ルーネが【撃砕】っていう、使用すると物理攻撃力が上昇するアビリティで、セインが【鈍化】とかいう相手のスピードやパワーを鈍らせることができるアビリティだったか。
【撃砕】は体力の消耗が増すし【鈍化】は視野が狭くなるっていうデメリットがあるそうだけど、それでも羨ましい。どうか、どうか俺にも良いアビリティをください、神様!
「――あ……」
気が付けばもう教会は目と鼻の先だった。
※※※
「これにてアビリティ授与の儀式を始める」
神父の穏やかな声が響く。
教会の奥、祭壇の上に置かれた小箱は赤色の液体で満たされていた。どう見ても生贄かなんかの血だし不気味だけど……ルーネもセインも通った道だ。
振り返ると二人とも笑顔で手を振ってきた。俺も手を振りながら笑おうとしたけど……笑えない。こんなこと初めてだ。
「さあ、ウォール君。右手をつけなさい」
「は、はい」
思い切って右手を沈ませる。
「え、なにこれ。熱っ……」
「我慢しなさい」
「う……」
神父に睨まれて耐える。右手が熱くて痛い。錯覚なのかもしれないけどこんなに熱いなんて思わなかった。セインもルーネもちょっと熱かったけど大したことないって言ってたのに……。個人差があるのかな。段々感覚がなくなってきて不安になる。ん? 泡立ってきた。
「――よし、右手を上げなさい」
急いで右手を上げて裏表ともに確認したけど、火傷とかまったくしてなかった。不思議だ。
「……さて、ウォール君のアビリティは……ん?」
神父が俺の右手の掌を見るなり目を丸くした。
「こ、これは……」
「し、神父さん……?」
まさか、とんでもない高ランクのアビリティだったとか? 緊張で息が詰まりそうだ。
「……ない……」
「え……?」
「何もない……」
「……え? え?」
わけがわからない。そんなことってあるのか……。
「それって、どういう……」
「そのまんまだ。何もない……残念ながら……ノーアビリティだ」
神父がいかにも残念そうに首を横に振ってる。
え? 今なんて言った? ノーアビリティ? 嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ……。
「――ウォール……? ノーアビリティって何? 初めて聞いたけど……どういうことなの……?」
いつの間にか俺のすぐ背後にルーネとセインがいた。ルーネはわけわからなそうに目が泳いでて、セインは気まずそうに顔を背けていた。
「……俺もわけがわからなくて……外れの外れってことかな、これって……」
「……外れの外れ? で、でも、アビリティなんかなくても一緒にダンジョンに行けるよね?」
「そ、それは……」
どうなんだ? そもそもアビリティのないやつがダンジョンに行くなんて聞いたこともないが……。
「なわけないだろ、ルーネ」
「「セイン?」」
俺とルーネの声が重なる。
「ノーアビリティの場合、16歳未満だと判断されてダンジョンの入り口で弾かれるらしいし……冒険を続けたいなら一緒にいられないに決まってるだろ」
「嘘……嘘だよ……」
ルーネが崩れ落ちるように座り込む。今のセインの言葉で俺の心もぽっきりと折れたような気がした。
「ウォール。そういうわけだ……。残念ながらこれでお別れだ」
「そんな……! セイン、なんてこと言うの!?」
「じゃあほかになんて言えばいい!? ガキの頃から夢だった、ダンジョンに行くのをウォールのために諦めるって言えばいいのか? それでこいつは喜ぶのかよ!」
「……」
それはそれで惨めな未来しか見えない。そんなんで今までのような関係が続くとも思えない。どっちにしろ終わりってことだ。俺たちは……。しばらくルーネの押し殺すような泣き声が頭にこびりついて離れなかった。
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