第64話 ノスタルジア


10月初め。


はると達はパリのヴェルサイユ宮殿前の大駐車場の一角に、3台のGJ450とともにいた。


「ヴェルサイユ宮殿前からスタートか。やっぱり、これをやらないと、パリダカって感じがしないよな。」


昌樹は傍らのみずきに話しかける。


「そうですね。あたしも、ずっと見てたパリダカのイメージは、ここに集結した、三菱、プジョー、カジバエレファント、NXR・・・。」


「ダフトラックに、BMWのガストンライエ・・・。」


「そうそう!それから・・・。」


「マニアックな会話はいいからさ、そろそろ出発だ。2人とも、着替えて準備をしてくれ。」


いつまでも、パリダカオタクトークが止まらない2人に耐えかね、はるとが準備開始を促す。


「わかった。」

「は~い!」


2人はサポートカーに入り、準備にかかる。


今回のアフリカ・エコ・レースのスタート地点はモナコだが、〈パリダカ〉のイメージを持つ顧客層へのアピールのため、GJ450のプロモーションをと、ターゲット層であるパリダカにノスタルジーを感じる世代に訴えるため、80年代のパリダカにならい、はると達はヴェルサイユ宮殿前からスタートすることにしたのだ。


「どうした?せっかくスタートなのに、元気ないな?」


フランス国内での、プロモーション映像の撮影部門のリーダーになっている柴田氏が、はるとに声をかけてきた。


「そうですね・・・、でも、今まで、みずきとやってきたラリーにくらべると、いまひとつテンションあがらないんですよ。」


柴田はヴェルサイユ宮殿を眺め、はしゃぐ2人を見つつ、はるとに問いかける。


「まあね。あっちのパリダカオタク2人は盛り上がってるみたいだけどね。」


「正直、僕がラリーに関わって知ったのは、南米のレースとしてのダカールラリーが始まりだったんで、いわゆるパリダカについては、知識としてあるだけで、よくわかってないんですよね。なんで、あの人たちは、そんなに<パリダカ>にこだわるのか・・・。」


そんな会話をしていると、観光客らしい壮年の夫婦が2人に話しかけてきた。


「君たちは<パリダカ>に出るのかい?」


いきなりの問いかけに、はるとは戸惑いつつ、答える。


「いえ、<アフリカエコレース>です。ここから、モナコまであのマシンで走って、スタートで・・・。」


「すごいわね!やっぱり、パリダカはアフリカよ!スタートもパリから始めるべきなのよ!最近はパリからスタートしないから、寂しかったのよね!」


「あのマシンは見たことないけど、ヤマハか?最近はKTMばっかりが勝つから、かつてのパリダカの覇者にはもっと頑張ってほしいんだがな!」


ひとしきり、はると達と話した後、


BonneChance幸運を!!」


と言い残して、夫婦は去っていった。


その後も、同様に「パリダカか?」と話しかけてくる人々の多さに、はるとは驚く。


「パリダカって、まだまだ人気あるんですね。こっちでは。」


「そうみたいだね、俺達にはわからない、ノスタルジーなだけじゃない魅力がまだまだあるかもしれないな。」


「俺が初めて、モンゴルで感じたような何かを、ゴールしたら、君もわかるかもしれないさ。」


ヴェルサイユ宮殿の前で、集まってきた人たちの質問攻めと、マシンの撮影大会に付き合っている、みずきと昌樹を見ながら、はるとは柴田の言葉を聞いていた。


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パリから車検が行われる、マントンまでは1000キロほど。

一気に走ってしまえば、1日の行程だが、2日間かけて向かうスケジュールだ。

マシンにはトレールタイヤを履かせて、フランスの有料道路を走る。


「どう?はると?はじめてのヨーロッパの道は?」


ヘルメットに取り付けてある〈B+com〉から、みずきの声が聞こえてきた。


「快適だね。まあ、450だから、もう少しパワーがあるといいけどね。」


GJ450は、フルカウルのマシンだが、高速道路を定速で巡航するような走りでは、やはり、大排気量のアドベンチャーモデルに比べると、快適性には劣る。


「まあ、時間は十分あるんだから、のんびり行こう。」


ライダー3人と、後方を走るサポートカーの4機で通話設定しているので、昌樹も会話にはいってきた。

それに呼応するように、サポートカーから、いくつか段取りの確認の通話が入り、昌樹がそれに答える。

そんな昌樹の声に、はるとは若干の苛立ちを覚える。


このアフリカエコレース参加は、元々は、はるとみずきのプロジェクトだったはずなのに、いつのまにか、昌樹がリーダーのようなポジションになってしまっている。

今までのラリー参戦は、手越に手伝ってもらったところもあるが、あくまで、プロジェクトを仕切っていたのは、はるとだ。それが、今回はマシン段取りから、各所の交渉、みずきをはじめとした、スケジュール計画まで、昌樹がやってしまっている。


はるとは、雑務をちょっと手伝ったくらいしか作業をしていない。


「あと、1キロで出口です。右車線を進んでください・・・。」


右側通行のフランスでも、しっかりナビしてくれる、googlemapが、有料道路の出口が近いことを知らせる。


はるとは、自分の存在を精一杯アピールするように、2台を追い越し、先頭で右車線へ移動する。









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