あたしをダカールにつれてって!

高杢匠

フエイズ0

プロローグ


日本からのクライアントとの商談が終り、「イワイザケダ!」とどこで覚えたかわからない怪しげな一言を残して、地元ニューヨーカーと観光客がごった返すラウンジの喧騒に身を投じた相棒の背中を見送って、スマホの電源を入れ、動画配信アプリを起動する。


そこには茶褐色の津波のような美しい砂丘が映し出されていた。

 

ドローンではなく、ヘリコプターから撮影した映像らしく、砂丘には機体の影が映り込んでいる。


砂丘の情景を一通り撮影した後、カメラは砂丘の壁にアングルを移す。

 

そこには絹のようにきめ細かい砂で形成された美しい砂丘の表面がいく筋もの「わだち」で汚された砂丘の壁の情景が映し出される。

その砂丘の表面をさらに汚すように、いくつもの点が砂丘のにへばりつくように止まっていた。


カメラがズームしていくと、それが〈カミオン〉とよばれる巨大なトラックや、強力なエンジンパワーを秘めた4輪の車体。

2輪のモトラッドバイクであることがわかる。


さまざまな種類の車体が砂丘の壁にへばりつているが、それらに共通しているのは、その駆動輪が砂に埋もれ、砂丘を上ることができなくなっていることだ。


4輪のドライバーは、ラダーと呼ばれる板をタイヤの下に潜り込ませようと砂を掘ったり、排気ガスを充填させることで、風船のように膨らむエアジャッキを車体の下に設置して、窮地を脱出しようとしている。


あるモトラッドバイクパイロットライダーは、車体の半分ほども埋まってしまった車体をなんとか掘り起こそうと、ヘルメットを外し、必死に砂を掻いている。

 

ヘリの画像が切り替わり、地上のカメラが映し出す情景には、車体の半分以上が砂に飲み込まれた、赤い車体の脇に、汗だくになってへたり込む、白人のライダーを映し出していた。

彼の国籍、ゼッケンナンバーがテロップとして、映し出される。


彼にインタビューをしようとしたのか、カメラが移動を始めたところで、低音のくぐもったような4ストロークエンジンの爆音が響き、カメラがそちらを向いた。

砂丘を超えてきたライダーの乗るバイクは、途方に暮れているライダーと同じくらいのサイズであるにもかかわらず、彼の半分ほどしかないようなきゃしゃな体格で、女性ライダーということがわかる。


カメラの前で、一時停止したはレポーターに、少しでも堅い路面はどこか聞いているようだが、彼は両手を挙げ、。のジェスチャーをする。


ミラーレンズが装着されているゴーグル越しのの表情は見えないが、「ち!つかえねーなこいつ!」。という、いつかと変わらぬ悪態が僕には聞こえたような気がした。


しばらく戸惑ったように、砂丘の壁に視線をさまよわせただったが、意を決したように、愛車・・・〈KTM450RALLY〉のスロットルを引き絞り、津波のような砂丘に挑んでいった。


青いヘルメットに書かれた赤い牛のマークが徐々に遠ざかり、砂煙をあげつつ、彼女はになっていく。


スキーのシュプールのようなわだちを残しつつ、青い車体はどんどん砂丘を上っていき、カメラはそれを追い続ける。


「・・・行け!ためらわずに行くんだ!スロットルを戻すな・・・・!」


僕は柔らかすぎるソファーから腰を浮かせ、彼女に声援を送る。


「haruto!what are you looking at?」(はると!何見てるんだ?)

戻ってきた相棒の言葉に、僕は南米の砂漠からマンハッタンの日常へ引き戻された。

「nothing.isn,t there anything?」(なんでもないさ。いい娘はいたのかい?)


スマホをしまいこみ、相棒に答える。


「yes! It seems she came from Tokyo」(いたさ。彼女たちは、東京から来たそうだ)


相棒の指し示すほうを見ると、といった〈こぎれいな〉風体の若い女の子2人がこちらを恥ずかしげにみていた。

僕と視線が会うと、こちらに軽く会釈をする。


僕はスマホをしまうと、ネクタイをゆるめ、相棒とともに彼女達に手を振った。


※このお話しに登場するイベントや社会背景は、2013年~2022年のものをフォーマットとしています。

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