絵に描くようにコンテスト
「
その話は
『Toshimaイラストコンテスト』
僕と佐藤が居住する豊島区が主宰の比較的小規模な絵のコンテストだった。
テーマは自由。描く方法も油絵でも水彩画でもアプリを使ってもなんでもOK。イラスト、と見做せるものならば豊島区の住人だろうが北海道だろうが沖縄の地元民だろうが応募できる。
大賞受賞者には賞金50万円と、Iヶ月間池袋のサンシャイン通りにパネル展示されるという、非常に魅力的なものだった。
「そうだなあ・・・」
「あ。評価されるのが怖いんだな?」
「そうじゃないけど・・・」
なんだかコンテストに参加することが、自分の中での分水嶺になってしまうような気がするんだ。
モラトリアムの決断を先延ばしにしている状態から、絵描きを目指すか諦めるかのオール・オア・ナッシングの選択をつきつけられるような気がするんだ。
東京の一行政区のコンテストではあるけれどもSNSの世界でもそれなりに話題になっている。僕のアカウントのフォロワーさんたちからも応募されないんですか?というコメントがいくつもあった。
決断は、どうしてかやっぱり佐藤の一言だった。
「絵、描きなよ」
今までがいい加減だったわけじゃないけど、僕は制作に取り掛かった。テーマを選ぶというよりも、とにかくもファースト・タッチを紙の上に触れることによっておのずと導かれると思った。そして、構想や製作過程をリアルタイムでSNSにアップした。
Mid:皆さん、何の絵かお分かりですか?
最初にラフ画を載せた。鉛筆で重ねるように線を何度もなぞって輪郭を描き、ぼやけたような全体像をまずはご覧いただいた。
それから少しずつ背景の色を塗っていく。
A4のケント紙を使った。
水彩画にした。
『水彩だけど、濃く、描こう』
それは僕の意思だった。
高校の時以来のタッチとは違ったものになっていく。
輪郭のイメージは実はあった。
それは僕の故郷の、『阿弥陀如来の化身』と年寄りたちが呼ばわっていた屏風絵のように広がる連峰。
その連峰の背後から朝陽が昇る瞬間に、逆光によってその稜線が極限までに濃く太い黒の線になる、そういうはっきりした色彩と絵の力強さを本来は淡いはずの水彩画に求めた。
僕の、挑戦だった。
徐々に描かれていく絵に
Happy:ステキな絵です。まるでわたしたちが初めて出会った時のような、あなたの濃く深い黒目の輝きのような
嬉しかった。
サイズの小さなたった一枚の水彩画を描くために僕はまるまる1週間を費やして更に第2週目に入るところだった。僕のアカウントの固定ツイートは毎日作業が進むごとにその絵の具が新しく重ねられた絵に差し替えられて、コメントも日々変わる。
大勢のひとたち。
ライブハウスで女子3人と僕とで記念撮影した写真をイラストに移し替えた僕の作風を愛してくれていた方たちも、僕のこの地道な創作過程をずっとフォローして応援してくださっている。
絵には力がある。
それは観る人を引き摺り込むようなそういう強引なものではなく、ヒタヒタと潮が満ちてくるように、僕たちの体を潤わせ、思考を潤わせ、感性を、そして一番大切なもの・・・
ココロ潤わせる。
そういう力。
Mid: 完成しました。どうぞご覧ください
僕が書き上げたのは、灯台の絵。
丘の上、雪の中、白の灯台と白の結晶とで見分けがつかないような風景だけれども、僕はそのはっきりした輪郭を、濃い白で創り出した。
多分、静かに人々の心に流れ込むはずだ。
Mid: いけないことかもしれませんが作者自ら解説いたします。これは水彩画で使用している絵の具で、ごく一般的な小学生や中学生が美術の授業で使うようなありふれたものです。
そして使っている色の8割がたが白色です。
わたしはその白色の絵の具を、ほんのごく少量の水だけで溶かして、そしてその濃度も描き進めるごとに濃くし、何度も何度も重ねて描き塗ることで灯台の形を作り出しました。それから雪の吹雪く丘の情景を生み出しました。
吹雪いていますが、天気は晴れです。
天気雨ならぬ天気雪。
天気雨が狐の嫁入りというならばこれはなんと呼べばよいでしょう?
紙が破れないように時間をかけて作業を進めていきました。
・・・僕はそこまで一気に文章をタイピングして、それから締め括りにかかった・・・
Mid: 灯台の麓に立っている少女の顔はとても微妙な表情に見えるでしょう。
敢えて表現するとしたら泣いて笑っているような、あるいは笑って泣いているような。
言ってみればこの天気雪のような表情でしょう。
そしてコンテストにたった今エントリーいたしました。
願わくばサンシャインの煌めくような賑やかさのそのストリートにこの絵を掲げてみたい・・・応援くださると嬉しいです・・・・・・
少女の顔は、誰にも似ていない。
ただ、彼女は、ひよこ色のセーターを着ている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます