絵に描くようにコメディを
コメディが好きだ。
ドラマならばアメリカあたりののホーム・ドラマ。
たとえばシングルファザーの家庭に三姉妹が居て一番下の女の子が同居する年上の従兄弟になついていて。
サマーキャンプやクリスマスやなんでもないような日常を笑いを交えて演じて、そしてどうしてかそっと泣きたくなるシーンがある。
出演者たちが何年か後に同窓会のように再会する動画が投稿されていたりすると本当に感慨深くなる。思わず笑顔になってしまう。
「では・・・クリスマス兼ちょっと早い忘年会兼記念すべき『第一回Midさんの絵を応援する会』の大宴会を開催します・・・」
「いいぞー!Girlちゃん!」
きっと慣れないだろうにGirlちゃんは僕の絵描きとしてのアカウントに集うハンドルネームたちを代表して場を仕切ってくれている。
かわいい、と思う。
「では。乾杯の音頭を我らがその絵と人柄を敬慕する主役のMidさんにお願いします」
「人柄までは慕ってないぞー!」
「うるさいよ、Sugar」
僕は
「皆さん、こんばんは」
「わははは!こんばんは!」
「僕の絵のアカウントはまあきっかけ程度のものでここに集ったみなさんは縁あってこの楽しいグループの一員となったわけです。順不同で、Ageさん、Teruさん、Evilさん、Sugar、Happyさん、Girlちゃん」
Girlちゃんの女子高の実習統括女性教諭であるEvilさんがクレームした。
「明らかに年齢の高い順じゃない!」
佐藤もクレームする。
「どうしてわたしだけ呼び捨て!?」
僕はにっこり笑ってトークを続けた。
「乾杯の前に今日は皆さんに僕からクリスマスプレゼントがあります」
そう言ってトートバッグから小さな額を6つ取り出す。イタリア料理店のワイングラスが置かれたその隙間にみんなの方に向けて綺麗に並べた。
「わあ・・・」
「おお!」
「かわいい!♡」
ああ・・・この反応堪らないな。
頑張って描いて良かった。
「みなさんの肖像です。バストアップですけど一生懸命描きました。多少デフォルメしてますけどリアルタッチです。高校時代、美術部ではこんな感じで描いてました。もらってやってください」
「ありがとう!」
それぞれが小さな額を掲げてワイングラスをチィン、と触れ合わせた。もちろんGirlちゃんはノンアルコール。
「Ageさん、おしゃれなお店をご存知なんですね」
「孫娘がやっぱりイタリア料理店で働いててね。それで詳しいんですよ」
「お孫さんのお店じゃなくて?」
「こっちの方がおいしいそうです」
僕がAgeさんとやりとりすると軽く笑いが起こる。Teruさんがしみじみと言う。
「いやー。こんな楽しい師走は始めてだよ。毎年12月は仕事が終わっても飲み会も何もなくって毎晩コンビニでレモンサワーかなんか買ってカップ焼きそばを肴に飲むなんて感じで」
「不健康極まりないわね」
「や。Evilさんにそう言われるとちょっと生活改善しようかな、なんて」
「Girlちゃん、司会進行お疲れ様」
「ありがとうございます、Happyさん。あまり上手にできませんでした」
「ふふ。そんなことないよ。とても心が込もってたと思うよ」
「こらあ、二人とも」
なぜか佐藤がその間に割り込む。
「美人さん同士でヒソヒソ話さないで。不美人はいらぬ僻みを持ってしまうじゃない」
「あら。Sugarさんはきれいよ」
「またまたあ」
「ほんとよ。ね、Girlちゃん」
「はい。Sugarさんはきれいです」
「わ、わ、わ。そんな真顔で言われたら本気にしちゃうよ?」
少女、とまだ呼べそうな3人が寄り集まっていると花が会話してるみたいだ。もうひとりの女子であるEvilさんは男子グループに絡んできた。
「んで?みんなの恋愛経験は?はい、Teruさんから!」
「え、え、え」
「拒否権なし!」
「はい・・・じゃあ」
僕も興味がある。
「一応、初恋、の相手です」
「おー」
Teruさんの照れながらの『告白』に一同笑顔になる。
「まあ、わたしの場合は特殊で初恋が30歳過ぎてからでした。相手も同い年で」
「ほう!興味深い。それで?」
「三度目の転職した職場の同僚で彼女も途中入社組でした。わたしより半年ほど後に入社してきたかな。まあ、わたしにとっては綺麗な人でした」
「なら、美人なんだ」
「はい。そう思っています。生まれて初めて女性をデートに誘いました。未だにどうしてなのか謎ですが彼女がOKしてくれたんです」
「やるねー」
「Evilさん、合いの手はいいですから」
僕がそう言うとTeruさんは一気に語り出した。
「デートの場所は豊島園です。彼女ははしゃぎながら絶叫系の乗り物に次々とわたしを誘いました。はっきり言ってわたしはジェットコースターとかとても苦手で。でも彼女を楽しませたいと頑張っていくつも乗りました。そしたら酔ってふらふらになったんです」
Teruさんの感覚だが豊島園は大人のカップルが多かったという。地域がらというか地方出身者だったりディズニーランドにはちょっと行きづらいような落ち着いた雰囲気の大人たちが意外とここをデートスポットにするのではないかと。
そういう場所で少女のように笑いながらはしゃぐ大人の女性。
きっと、絵になる。
「まあヘトヘトのわたしに彼女がコーラを買ってきてくれたり濡らしたハンカチを額に当てがってくれてパンフレットで仰いでくれたり。女性男性通じて誰かにそんな風に優しくされたのが生まれて初めてだったかもしれない。幸せでした」
僕らも幸せな気分になった。
でも、ハッピーエンドとはいかなかった。
「翌日出勤するとね。アラフィフの女性社員が彼女に言ったらしいんだ。『あの人はキモいから付き合わない方がいいわ』って」
「ひどい」
「まあ、でも常識的にはそう見えるんでしょうね。彼女ならばわたしなんかよりいい男といくらでも付き合えたはずだから。それでその後も何回かデートしたけど女子社員の間で嫌な雰囲気になったんでしょうね。それからしばらくして彼女は会社を辞めてしまいました」
「その後は」
「それっきりです」
「・・・次!Ageさん!」
切り上げの速さはEvilさんの優しさだろう。
「わたしはつまらんですよ。後にも先にも見合い結婚した女房だけですよ」
「素敵です。奥さんは今は?」
「他界しました。3年になります」
「すみません・・・」
「いいんです。孫娘が見合い写真の女房とそっくりでね。わたしが若ければもう一度連れ添いを求めたかもしれない」
Ageさんの優しいジョークに場が和んだ。だがEvilさんは終わりにしてくれなかった。
「じゃあ、次!Midさん!」
「はい・・・僕は・・・」
「Midさん!」
澄んだ声に振り替えるとGirlちゃんが幸田さんと佐藤に背中を押されて直立不動、って感じで立っていた。因みに幸田さんも佐藤も酔っているのがありありだった。
「ほら、Girlちゃん、勇気出して!」
「Midなんかにゃ勿体ないけどGirlちゃんの本心なら仕方ない!行っちゃいな!」
「はい。Midさん!」
「は、はい!」
思わず敬語で返事する。Girlちゃんまでワインを飲んだのではないかという風に首筋から上が赤く火照っている。彼女はかわいく怒鳴るように声を上げた。
「好きですっ!わたしもエントリーします!」
なんのエントリーだ。
どうしろというんだ。
誰か・・・そうだ、佐藤。
助けてくれ佐藤。
「ほぉおおおー!パチパチパチ!」
全員、ふざけてる。
出会ってからこれまでのGirlちゃんの雰囲気や素振りでよく分かる。
この子は、とても真面目だ。
だから僕もふざけるわけにはいかない。
「時間が、欲しい」
そう言うと残り二人のギリギリ少女がそれぞれ異なる反応を示す。
「よかったね、Girlちゃん」
これは幸田さん。
「ちょちょちょ!は、犯罪だよ、ま・・・じゃない、Mid!不純異性交友だよっ!」
「違うぞSugarちゃん。青少年保護育成条例違反だよ」
Evilさんが面白がって場をさらに混沌とさせる。
ああ。
また人生の難問が増えてしまった。
パーティーは楽しく更けていく・・・
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