第436話 揺るがぬ指針の、その先に

 一方その頃、魔王の体内を掘り進んでいる望子たちは。


「──ふむ、もう間もなく辿り着きそうであるな」

『え、もう? まだそんなにあるいてないよ?』


 ローアによると、そう時を置かずして望子たちにとっての最終目的地である〝心臓部〟へと到達し得るらしいのだが。


 望子の言う通り、まだ三人は十数分程度しか歩みを進めておらず、言うまでもなく到着が早ければ早い程この戦いを早く終わらせられるとはいえ、いくら何でもと幼い──今の外見はともかく精神的には幼い望子でさえ疑問に思うのは致し方がない事であろうものの、ローアはそれでも平静な様子。


「本来ならば永久に彷徨い続ける程の迷宮であるがな。 在処を把握しておる我輩からすれば一本道も同然であるがゆえ」


 何しろローアからしてみれば、ゴールの場所もそこへの道筋も最初から分かっている状態での迷路遊びメイズに興じている様なものであり、複雑という表現でも足りない程の迷宮であっても心臓部ゴールへ短時間で辿り着けてしまうという事らしいが。


「……どこにあるの? その、心臓部って……」

『そういえば、おしえてもらってないね』


 そもそもの話、魔王の心臓が体内のどこに位置するのかを聞いていないと気づいたカナタの問いかけで望子も同様の疑問を抱き、もう教えてくれてもよくないかと尋ねてみる。


 勿論カナタや望子は一般的な人族ヒューマン亜人族デミと同様に、種族ごとの差異があるとはいえ余程の事でもない限り、いわゆる胸部付近にある筈だと考えていたものの。


「そも、魔王様の〝真価〟とは何ぞや? 聖女カナタ」

「え? えぇと……〝精神への干渉〟……よね?」


 実際にローアから返ってきたのは全く要領を得ない質問であり、質問に質問で返されたという事実に新たな疑念を抱きながらも、ほぼ理解していないも同然の解答で返すカナタ。


 どうせ聞いても理解し切れないだろうし、そもそも魔王の事など理解したくもない様だが、それはさておき。


「然り。 魔王様の魔力や神力は〝脳〟を働かせる事に大部分を割かれている。 そして魔力や神力を隙間なく全身へ送り込む為の器官、〝心臓〟も並の魔族と違い脳に限りなく近い部位に存在する。 循環の効率を最良の状態に保ち続ける為に」

「ッ、それじゃあ私たちは今……!」


 望んだ答えが返ってきてご満悦なローア曰く、コアノルの〝脳〟はともすれば〝心臓〟よりも重要な器官であるらしく、その脳を最大限に活かす為に喞筒ポンプとなる心臓を近くに移動させたのだという。


 そして、それを聞き終えたカナタは即座に察する。


「直進している様に思えども、歩みを進め始めた瞬間から我らは心臓部の存在する〝頭部〟を目指しているのである」

『そうだったんだ……』


 ローアが言った様に、最初から脳の位置する頭部だけを目指して上へ上へと進んでいたのだという事を。


 望子にもカナタにもその自覚がないのは、どう捉えても直進している様にしか思えなかったからだが、それこそが〝外〟に力を割きつつも魔王が仕掛けた罠であり。


 本来ならば上下左右前後、どの方向へ進もうと望む目的地へは辿り着けず、延々と同じ経路だけを彷徨い続ける様に仕組まれていた筈であるものの、それもローアの存在一つで台無しとされてしまった以上、最早コアノルに期待出来るのは。


「そして、これより我らの眼前に姿を現すものこそ──」


 およそ二十分程の時間をかけて掘り進めた先に現れた。


「恐るべき魔王、コアノル=エルテンス様の心臓である」

「『……ッ!!』」


 心臓の破壊を、望子たちが失敗する事のみである。

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