第七章
第154話 聖女が最も畏怖するもの
聖女カナタの行使した禁断の秘術、
現在、同じく異世界へ召喚されてしまった三人の仲間……もとい、三体の
鬱蒼とした山の中で、中々討伐対象の魔獣に出会す事が叶わずしゅんとしていたものの、何とか発見し、無事に討伐を成功させた望子だったが――。
偶然にも望子たちの討伐対象だった魔獣、
「……それにしてもミコ様。 魔獣討伐、お見事でしたが……一体いつ何処であの様な御力を?」
未だに望子の前に片膝をついたまま、先程目の当たりにした勇者の力について至って丁寧に問いかける。
一方、望子が行使したのは、風を司る邪神ストラから受け取った力だったのだが、
「え? あー、えっと……これのなかにね? まじゅつをこめてもらったの。 いろんなひとに」
これはなしていいのかな、と考えた望子はとりあえず、細い首に下げた望子自身の触媒、
するとレプターは疑問符を浮かべながらもそれを覗きこむと、何やら心当たりがあるのかハッとなり、
「これは……
少し前に自分たちが訪れ、また、望子たちも訪れた事のあるドルーカの町にて魔具士をやっていた
「! おししょーさまにあったの!? もしかして、うさぎさんとあどさんにも!? げんきだった!?」
「み、ミコ様っ」
切羽詰まった表情でグイグイと質問攻めしてくる望子に、されどレプターは何故か顔を赤らめていた。
「え、えぇ、ピアンとアドも、勿論リエナも元気そうでしたよ。 貴女によろしく伝えてほしいと」
明らかに主従を超えた感情を持ってしまっている事には自覚の無いまま、今までの法則通りなら『うさぎさん』はリエナの元にいた魔具士見習いの
翻って、彼女の言葉を受けた望子は、心からの安堵と共に深く深く息を吐いてからこう呟く。
「……そっか、よかった」
それも無理はない、何せドルーカの町で領主から指名された
(おししょーさまなら、だいじょうぶだろうけど……)
師匠としても一人の魔術師としても、リエナの事を信頼していた望子ではあったが、町が襲われたりしてないだろうか、とずっと心配していたのだから。
「そうだ、ろーちゃん。 このおねえさんはね……」
レプターとの話が一段落ついた頃、そういえば、と後ろに控えたローアに紹介しなきゃと話を振ると、
「……ウル嬢たちが言っていたいずれ仲間になる
ローアは軽く手で制しつつ望子の言葉を遮って、既にスクッと立ち上がっていたレプターに問いかける。
一方、緩みきっていたその顔を、漸く元の凛々しい表情に戻す事に成功していたレプターは、
「ん? そうだが……そういう君はドルーカで新たに加入したとかの、ミコ様の
ドルーカの冒険者ギルドのギルドマスターの、
するとローアはうむうむと頷きながら、
「我輩の名はローア。 冒険者であり、見ての通り研究者でもある。 以後よしなに」
「既に聞いている様だが、一応名乗らせて貰う。 私はレプター=カンタレス。 こちらこそよろしく頼むぞ」
魔族である事を告げるべきかどうかは後で判断しても良かろう、と考えて自己紹介すると、レプターはその小さな手を取って淡々と自らの名を告げる。
「……それで? 後ろに控えたその神官と
そしてその手を離すやいなや、ローアが少しだけ身体を傾けて、レプターの背後……というには離れすぎているカナタとその肩に乗る
それを受けたレプターは、目の前の少女から漂う妙に場慣れした様子に違和感を覚えながらも、
「……? あぁ……ほら、二人とも」
軽く後ろを振り向いて、紹介するからこっちへ来いとばかりにクイクイと人差し指を動かすと、
「……えぇ、今行くわ」
『きゅ〜……?』
カナタは事が事であるからか極めて神妙な表情で頷き、いつもと違う様子の彼女を不思議に感じたキューは、こてんと首をかしげて一鳴きする。
その時、そこで初めてカナタの存在を視認した望子が、薄い唇に人差し指を当て、んー、と小さく唸り、
「……どこかで、あったような……?」
つい最近、彼女の事を思い出す機会もあったが、顔までハッキリと覚えてはいなかった為そう呟くと、
「……っ! わ、私、は……」
カナタとしても覚悟を決めてはいたものの、やはり強い罪悪感からか図らずも言葉に詰まってしまう。
「あぁミコ様、おそらく一度は会っている筈ですよ。 何故なら彼女は――」
そんな彼女を見かねたレプターが、望子とカナタの間に入って代わりに紹介しようとしたその時。
「――聖女サマ、だから?」
「「!?」」
突然山の奥から彼女たちの耳に届いた、澄んでいながらもどこか静かな怒気を含んだその声に、二人は思わず目を見開いてバッと声のした方を向くと、
「え、いるかさん?」
そこには何故か、望子たちとは別行動をとり、港町ショストにて海賊討伐の
その姿を視認した……いや、視認してしまったカナタの表情は一瞬にしてサッと青ざめる。
(……ぁ、あぁ……あの、
劇毒を放つ
「久しぶり。 カナタ……だっけ」
「っ、ぁ、ぅ……」
これまでの経験のお陰で、リエナの時の様に意識を手放してしまうといった事は無かったが、それでもフィンに名を呼ばれた彼女の身体は震え、声にならない掠れた声が僅かに漏れ出るだけだった。
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