第129話 謝罪する勇者一行

 ウル、ハピ、そしてローアが門に辿り着いた時、望子は普段見せない表情で……具体的には、可愛らしく頬をぷくっと膨らませた状態でフィンを拙い口調で怒鳴りつけており、その一方で望子を溺愛しているフィンは、何故自分が望子に怒られているのか分かっていない様子を見せていたのだが――。


 ここでは何ですしどうぞ中でお話しを、と門兵に言われて案内された屯所にて、望子だけでなくウルたちにも散々説教されたフィンはといえば、

「すみませんでした……」

 未だかつてない程に落ち込みっぷりを見せ、椅子に座ったまま上体ごと頭を下げて謝罪していた。

 

「もぅ! だからちょっとまってっていったのに! いるかさんなんてしらない!」


 そんな彼女へ追い討ちをかける様にぷんぷんと怒りを露わにして、目を合わせようともしない望子に、

「うぅ……みこぉ……ごめんってぇ……」

 フィンは目に涙をいっぱいに溜め、望子の小さな身体に抱きつき許しを乞おうとする。


 彼女にとってはウルたちや門兵に注意された事実よりも、こんな些事で望子との仲に亀裂が入ってしまう事の方が余程重大で深刻な問題なのであった。


 それを見ていた門兵の一人、リアムと名乗った細身の青年が苦笑しながらも、

「い、いや、こちらも早合点してしまいましたし、そちらが一方的に悪いという訳でも……」

 明らかに年下の少女に縋りつく亜人族デミを見かねたのか、控えめな口調でそう告げたはいいが、

「……遠くに見えた青くて綺麗な海がとっても魅力的で……自分を抑えきれなくてぇ……」

 それでもフィンは望子に抱きついたまま、涙声で彼女なりの言い訳を口にし続けている。


「まぁ仕方ないさ、あんた、人魚マーメイドだろう? ましてやリフィユざんを越えて来たというなら、しばらく大きな水場なんて無かったんじゃないか?」


 そんな折、ここまで黙って話を聞いていたもう一人の門兵、リアムとは対照的に体格の良い男性のオーウェンは、グズグズと泣くフィンに向けてそう言うと、彼女はチラッとオーウェンの方を向いて、

「……」

 その通りだと言わんばかりにこくんと頷き、再び望子に覆い被さる形で抱きついた。


「じゃあ、今回はお互い様だって事で。 次からは気をつけてくれるとありがたい。 それと、お仲間もな」


 それを見た彼はうんうんと首を縦に振って、話を一段落つける為に手をパンッと叩きそう言って、

「ごめんなさい……」

「悪ぃなほんと、この馬鹿が迷惑かけてよ」

「私たちからも言い聞かせておくから」

 彼の言葉を受けた望子がペコっと頭を下げて謝罪し、それに続く様に二人の亜人ぬいぐるみも、それぞれフィンの頭と肩に手を置いて同じく頭を下げる。


「くはは、形無しであるなぁフィン嬢」


 その一方、正真正銘の魔族であるローアだけは、望子たち以外に頭を下げたくは無いのか茶化すかの如くそう口にしてフィンを無駄に煽り、当のフィンはそんな彼女を涙目で睨みつつぐぬぬと唸っていた。


「それであんたらは……冒険者って事だったが、ひとまず免許ライセンスの提示を頼めるか? 本来順序は逆なんだが」


 ここで漸く本題に入れそうだと判断したオーウェンが、先に名前と職業を聞いてしまった事実を口にしつつも手を伸ばし、免許ライセンスの提示を要求すると、

「あぁ、ほらフィン。 いつまでも凹んでねぇでとっとと免許ライセンス出せっての。 お前以外は全員準備してんだぞ」

 ウルがそう声を上げたのを皮切りに、望子たちはあらかじめ用意していた免許ライセンスを彼に手渡し、

「……はぁい」

 フィンだけは海に意識が持っていかれていた為、緩慢とした動作でゴソゴソと革袋を漁り、他の四人より少し遅れて免許ライセンスを提示した。


「それじゃ失礼して……ん?」


 オーウェンが彼女たちから受け取ったそれを確認しようとした瞬間、何故か淡く光を放つ免許ライセンスを凝視し、

「……何か不備でも?」

 それを不思議に感じたハピが、出されていたお茶から口を離してそう問いかけると、

「いやそういう訳じゃ無いが……これは……」

 オーウェンは唖然とした表情のまま、手元の免許ライセンスと彼女たちとを交互に見遣ってそう呟き、

「先輩? どうしました……え、これ……」

 後ろで控えていた、オーウェンの後輩にあたるリアムが覗きこんで心配そうに声をかけたが、彼も同じ様に視線を止めて固まってしまう。


 そんな二人の門兵に何が起きているのか全く理解出来ず、いい加減やきもきしていたウルが、

「……? 何だ、何かあったのか」

 腕を組み、その腕を指でトントンと叩きながら、怪訝な表情を湛えて尋ねてみたのだが、

「え、あ、えっとですね……」

 それでも尚、煮えきらない様子で返事をしたリアムに、また何かやっちゃったのかなと考えた望子が、

「あの……もしかして、またなにかわたしたちに、その、だめなところが……?」

 自分より遥かに大きな男性二人に対し、おっかなびっくり問いかける。


 するとオーウェンは一呼吸置いてから、そうじゃないとばかりに首を横に振って、

「あんたらは……ドルーカの領主様と懇意なのか?」

 たった一言、確認するかの様にそんな疑問を投げかけつつ、免許ライセンスの内一枚、偶然にも望子のものを彼女たちの前に差し出したものの、

「「「「「……?」」」」」

 質問の意図がいまいち理解出来ない彼女たちは、ほぼ一斉に首をこてんとかしげ、真剣な二人の門兵とは対照的に、きょとんとした表情を浮かべていた。

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