第48話 鋼鉄から瑠璃へ
アドライトとの
そして
「……昇級!? あたしが!?」
「はい、
驚きのあまり前のめりで叫ぶウルに、受付嬢であるエイミーは何食わぬ笑顔で称賛するその一方、
「ふあぁ……良かったねぇ。 まぁボクたちはとっくに
軽く欠伸をしながらそう口にしたフィンの言葉通り、この二日でフィンとハピはウル程壮絶な物では無いにしろ地道に
「どうしたのウル。 嬉しくないのかしら?」
そんな中、何故か昇級を喜ぼうとしないウルに違和感を覚えたハピが、小首をかしげて問いかけると、
「いや嬉しくない事はねぇが……何でだ? あたしはこいつらと違って
カウンターに上体を預けたまま、こなした
「その一つが大きかったからですよ! アドライトさんからご報告いただいた時は本当に驚きました。 まさか群れの
するとエイミーは最初こそ意気揚々とウルの功績を語っていたが、言い終わる頃には自分たちの調査不足を認め、深々と頭を下げて謝罪したのだが、
「……いや、それはいいんだけどよ。 こんな簡単に昇級しちゃっていいのか? あたし的にはちょっとでかくて臭い犬をぶっ飛ばしたー、ぐらいの感覚なんだが」
んな事ぁ気にしちゃいねぇよと付け加えながら、ウルは二日前の激戦を何でもないかの様に語った。
「……本来
一方、命を持たぬ存在であり、多少の痛痒は歯牙にもかけずに命持つ者を貪り喰らわんとする
「
そんなエイミーの言葉を継ぐ様に割って入り、彼女が考えていた事を見抜いてそう告げたのは、先の
「わっ、アドライトさん! お疲れ様です!」
アドライトが女性だと知ってか知らずか、エイミーは思わず顔を赤らめてバッとお辞儀していた。
「お前いつの間に……聞こえてたのか?」
「まぁね、
ウルの問いかけに冗談めいた口調で答えながら、ウルも含めた彼女たち三人へ賛美を贈ると、
「あら、ありがとう。 この街で最上位の冒険者に褒めてもらえるなんて光栄だわ」
「ま、実力だよ実力! ……でもさ、ウルはその何とかいう強い犬を一人で倒したんでしょ? てっきり二つか三つくらい飛ばしちゃうのかと思ってたのに」
ハピが素直に彼女の言葉を受け止め柔和な笑みを見せる一方で、フィンはその豊かな胸を張りつつも、飛び級とか無いの? とエイミーに疑問を投げかける。
「残念ながらそれは出来ません。 決してウルさんの力を疑っている訳では無いのですが、規則ですから」
そんなフィンの問いかけに、それを認めてしまうとギルドの信頼は地に落ちますから、とエイミーは至って真剣な表情でフィンに……そして何より、本来の実力に見合った
「構わねぇよ。 今回だって、昇級目的じゃねぇしな」
翻って、漸くカウンターから上体を起こしたウルがそう言って、何処吹く風と笑っていたのだが、
「代わりといっては何だけど、私から『面白い新人が入ったよ』と伝えておいた。ギルドマスターにね」
「は? ギルドマスター……?」
そんな彼女たちへ水を差す様に、アドライトがウインクしながらそう口にして、何のこっちゃとウルが首をかしげて
「……おぉアド、その者たちかの?」
何処か威厳を感じさせる静かな低い声と共に受付の横にある扉から、ウルたちよりも長身のアドライトより更に背が高く、肩幅も広めな白髪の老爺が現れて、
「あぁバーナードさん、丁度良かった。そうだよ、彼女たちが
バーナードと呼ばれたその男は、思わず彼を見上げて固まってしまう三人の元へゆっくりと歩いてくる。
「そうかそうか……巨大な
「ぅおっ、ど、どーも……」
ほっほっほ、と嗄しゃがれた声で笑いながらバシッと肩に大きな手を置かれた事で、ウルが若干の戸惑いを見せながら返事するその一方で、
(ふぁじあ……? あぁあの
何故かあの時一切戦闘に参加せず、望子を抱っこしていた自分も討伐した事になっている事実を否定すべきか一瞬迷っていたフィンだったがそれは本当に一瞬であり、うんうんと頷きつつ無言を貫く事に決めた。
「……ギルマス、将来有望な新人の方に心躍らせるのはいいですけど、貴方は無駄に力が強いんですから気をつけてと何度も……」
そんな折、どうやらこの下りはいつもの事らしく、呆れた様に溜息をつきながらエイミーが彼を睨むも、
「ん? あぁ、そうじゃったそうじゃった」
「全くもぅ……」
バーナードは全く悪びれておらず、先程と同じくほっほっほと笑っていた為エイミーは再び溜息をつく。
「おっと、自己紹介をせねば。 儂が当冒険者ギルドのギルドマスター、バーナードじゃ。以後よろしくの」
その後、やたら唐突に自己紹介をしつつ、またしても高らかに笑う彼の様子を見ていた三人は、
「「「……よろしくお願いしまーす」」」
「こんなのでも元
エイミーと同じ程に呆れた様子で覇気も無く挨拶を返し、そんな彼女に同情するかの様に小さく呟いたエイミーの言葉に唯一ピクッと反応したフィンは、
(これが? 強そうではあるけど……まぁいいや何でも)
ウルやハピとは違い相手の強さなど分からず、さりとて大して興味も無い為早々に思考を放棄していた。
「……はぁ、バーナードさん。 私たち――」
「おっと、そんな堅苦しい呼び名じゃ無く気軽にバニーさんと呼んでくれぃ。 ほら、髪も白いしの」
白い髪の生えた頭をトントンと指で小突きながらそう言ったバーナードの頭には、ピンと立った兎の耳が突き出ている様に見え……なかった為か、
「は……?」
(ハピの奴、困惑してんな)
(真面目だもんね。 あんな事言われたらそりゃ困るよ)
ハピはここまでの道中で出会った事の無いタイプの人種に開あいた口が塞がらず、フィンとウルは同情の視線をハピに向けつつそんな事を呟き合っている。
「……それで、
最早呆れすら通り越したハピが、当てつけの様に強調して彼の名を呼びそう告げると、
「む、強情じゃのぅ……まぁ良い、折角じゃから儂が直接手渡そう。 エイミー、三人の
歳に似合わず口を尖らせて拗ねながらも、彼はギルドマスター然とした表情でエイミーに指示を出した。
「はい! こちらです!」
既に手元に用意していた、小さな青い宝珠が埋め込まれた三枚の
「……ん? お前らも今日受け取るのか?」
もう昇級済ませてんだろ? と三人分の
「……まぁね」
「……?」
何故かハピがふいっとそっぽを向いた事にウルは更に疑問を持ち、再び問いかけようとしたが――。
「あは、ハピはね? 『どうせあの娘こも昇級するんでしょうし、その時一緒に受け取るわ』って、痛い痛い! もぅ、照れ隠しでお腹
そんな彼女を見遣ってクスクスと笑いながら真相を語るフィンの白いお腹を、可変式の鋭い爪を引っ込めたその手でハピがぎゅーっと
「……余計な事言わないの」
どうやら照れ隠しというのは間違い無かった様で、少しだけ頬を赤らめたままそう言うと、
「へへ、ありがとな」
一方のウルは至って素直に感謝し、当のハピも彼女に応える様に、こくんと頷いていた。
「うむ、では……ハピ、フィン、そしてウル!
先程までとは違い、ギルド中に響く大きな声で三人を祝福するやいなやそこにいた冒険者たちが――。
「昇級か! めでてぇじゃねぇか!」「頑張れよねーちゃんたちー!」「俺らとも組んでくれよー!」「私たちとも冒険に行こー!」「アド様もご一緒にー!」
多少の
「
「別に嬉しかねぇよ、あたしにそういう趣味はねぇ」
一方のアドライトは心からの好意でそう言ったのだが、事実、望子以外の存在に然程興味の無いウルは、ヒラヒラと手を振りながらつっけんどんに呟いた。
「さて、お主たちはこれからどうするのかの? また何か
その後しばらくして、漸くギルド内が落ち着いてきた頃、ふとバーナードがこの後の予定を尋ねると、
「いや、これからリエナんとこで完成した触媒と、もう一人の仲間を引き取りに行かなきゃいけねぇんだ」
ウルは首を横に振りつつそう答えて、扉の方へクイッと親指を向けて外を指し示す。
「もう一人の? 君たち、四人
すると、その発言に真っ先に食いついたのは何故かバーナードでは無く、
「うん、ボクたちの友達で……いや、それ以上に大切な存在、っていった方がいいかな。 そんな子だよ」
問いかけてきた彼女の言葉に、フィンは目を閉じて今ここには居ない望子に想いを馳せてそう語った。
「へぇ、成る程……そうだ、私も同行していいかな? リエナさんへの挨拶も兼ねて」
そんなフィンの嬉しそうな表情を見たアドライトは余計に興味が増したのか、爽やかにそう提案すると、
「……まぁ、あたしはいいけど。 お前らは?」
彼女の人となりは大方理解していた為、問題無いだろうと許可を出したウルが二人に顔を向けると彼女たちは顔を見合わせた後、ご自由にとばかりに頷く。
「じゃ、あたしらは失礼するぜ。
その後、二人とアドライトを連れ立ち、更新された
「はい! また何かありましたら当ギルドまで!」
「うむ、いつでも歓迎するからの」
受付嬢とギルドマスターに笑顔で見送られ、彼女たちはゆっくりと望子の待つ魔道具店へ歩を進めた。
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