愛され人形使い!
天眼鏡
第一章
第1話 お月見からの……
「きれー……」
「ふふ、そうね」
そんな呟きが満天の星空に溶けて、辺りに響いて聞こえる程の静かな夜。
煌々と光り輝く中秋の月を見上げ、二人暮らしとしてはそこそこに広い
休日である今日の朝、テレビを見ていた娘の
「おつきみやりたい!」
満面の笑みでそう言い出したのがきっかけであり、娘が産まれたその瞬間から溺愛している母の
「それじゃあ、お団子作らなきゃね」
望子とは対照的な、どこか妖艶ささえ感じさせる笑顔で返事を返してみせた。
少し作りすぎたかしら、と苦笑いしながら用意したお団子も思いの外早く無くなり緑茶で一息ついていた時、望子がふと柚乃の方に視線をやり、
「……ねぇ、おかあさん」
寝ぼけまなこをコシコシとこすりながら、ふわふわとした口調で声をかける。
「なぁに?」
そんな娘の姿に愛おしさを覚えつつ、柚乃が首をかしげてそんな風に問いかけたのだが、
「おとうさんも、あのおつきさまみてるのかな?」
望子の何気ない疑問を受けた柚乃は、一瞬言葉に詰まってしまったものの、
「……えぇ、きっとね」
崩れていた笑みを何とか戻し、お世辞にも快活とは言えないその声で答えてみせた。
……彼女の夫であり、必然望子の父親に当たる
親としては決して褒められた事ではないのだろうが、彼女はどうしてもその事を娘に言えないでいた。
この子に真実を告げられるのは一体いつになるだろうか、とわずか八歳の愛娘の綺麗な黒髪を撫でながらそう考えていると、望子が控えめに欠伸をする。
「眠い?」
「ぅん……」
呂律の回らない声でそう答えた望子をゆっくり抱きかかえて洗面所へ向かい、歯磨きを済ませたのち、望子の部屋のベッドへそっと横たわらせた。
「今日は、絵本はいいかしら?」
「ぅん、ねむたいから……」
いつも眠る前に読んであげているお気に入りの絵本も、今日の望子には必要ないようだった。
そして、部屋を後にしようとした柚乃に、おかあさん、と小さな声で引き止めて、
「『みんな』は……?」
「……あぁ、ここにいるわ。 はい」
望子がそう尋ねると、柚乃はテーブルに置いてあった三つの動物のぬいぐるみを持ち、望子に手渡した。
「……ぇへへ」
やはり眠気の方が強いのだろうが、それでも心底嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる我が子に笑顔を向けた後、柚乃はパチッと部屋の電気を消し、
「ふふ……おやすみなさい、望子」
「ぅん、おかあさんもおやすみ」
そんな何十回、何百回と繰り返してきた挨拶にも、幸せを感じ、柚乃はふわふわとした気分になる。
――ゆえに、気づかなかった。
……忍び寄っていた異常に。
――ゆえに、後悔する。
……最愛の娘とのそんな当たり前の日常が……今日で最後だった事に。
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