南の空のヒカリから

@korosuke632

第1話 夏の始まり

星が好きだ。

何故かと聞かれると、「綺麗だから」みたいな当たり障りのない受け答えしか出来ない。

だが、星が好きなのだ。

夜空を見上げたとき、空一面に広がる星々が輝いているのを見て口元が緩むくらいには。

彼等に、魅せられているのだ。



この春、晴れて高校生になった。

それが晴々しいものだったかは確かではないが、高校生という肩書きを得たのは紛れも無い事実だ。

実際に高校生になってみれば、大した実感も将来への展望も無いままで自分でも何がしたいのかよく分かっていない。

嗚呼、俺はこのまま、人生の最盛期をすり減らしていくのか。

せめて1度くらい、この代わり映えしない毎日をひっくり返す「何か」があってもいいんじゃないか?

そうだな、例えば...



意識が覚醒する。

そうだ、俺は寝ていたのだった。

真っ先に目に入ってきたのは表紙に「橘光希」と名前だけ書いた小冊子。

確か、夏休みの宿題をさっさと終わらせようと思って取り掛かった矢先に、睡魔に襲われて。

ああ、己の芯の弱さが憎い。

開け放したままの窓からは生温い風が行き来し、沈みかけた太陽が濃いオレンジを部屋に滑り込ませる。

凝り固まった体の節々を伸ばしながら、長めの欠伸をする。

涙がうっすら浮かんだままの霞みかけた目で壁に掛けられた時計を見上げると、5時。

どうやら3時間ほど経っているらしい。

記憶の中ではついさっきまで宿題に目を通している最中だったのだが...


「....おおぅ、まじか...」


思わず嘆く。

しかしまあ、俺の夏休みは始まったばかり。

まだ休みは1ヶ月ばかりある。

最初のうちはこのくらいの粗相は許される筈だ。

…なんて思っていると、去年の様に夏休みの終盤に何徹もする羽目になるだろう。

だから気を抜いてはいられない訳だが...

しかしまあ、こうやる気の起きない時に手をつけても大して進みやしないだろう。

まだ時間も浅いわけだし、何か頭を空にして出来ることを淡々とやって過ごそう。

それで、そのうち何かの間違いでやる気が起きるから、そのタイミングで宿題に取り掛かろう。

よし、これがベストだな。


「ぅっし、気分転換だな。気持ちの切り替えが必要だ」


30分くらい本でも読もうかと思い、本棚へ向かうべく背筋を伸ばしながら不意に窓の外を見る。


「..........!」


思わず二度見、三度見する。

窓の外には、オレンジの空が広がっているのだが...

ここ最近、台風が去った後とあって空模様は乱れ気味だったが、どうやら今日は雲ひとつないようだ。

そんな暮れの空を目にしてしまっては、望遠鏡ケースを背負って部屋を出る他なかった。

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