第1章 エンゼルランプのひかり
知られざる従姉妹の存在
「大地、シャンドフルールって知ってる?」
「え?なにそれ」
「花屋さんなんだけどね、この近くにあるのよ」
「へー、そうなんだ。花とかあんま興味ないから知らなかった。そんな店あんだ」
春。高校3年生となった俺、草壁大地はゴロゴロとソファに転がり暇を持て余していた。世に言う春休みである。
その最中に母親である千鶴からそう言われた俺は、「別に俺には関係ないだろう」と携帯を構いながら片手間にその話を聞いていた。
「そのお店にね、ちょっと手伝いに行って欲しいのよ」
「………は?」
そう言われてはね起きた。
どうやら、俺にとてつもなく関係のある話だったらしい。
「え、手伝いって何すんの?雑用?」
「行きたくない?」
「行きたくないよ出来れば。だってせっかくの春休みだし」
「いいじゃない、アンタどうせロクに宿題もしないでゴロゴロしてるんだから。聞いたわよ?どっさり課題出されたって。そんな状態で春休み明けのテスト大丈夫なの?」
「宿題は明日からやろうとしてましたー」
「今まで何度も聞いてきました、そのセリフは。………単なる手伝いじゃなくて、ちゃんと時給も発生するアルバイトだったとしても行かないのね、分かった」
「そういう事なら行くって。もっと早く言えよ」
「あらそう?なら急だけど今日の内に挨拶に行ってきてくれる?シャンドフルールに」
「急過ぎじゃない?話の展開がさ」
「いいじゃない、人手不足らしいのよ」
「いやいいけど別に………けど、マジで俺花とか何も知らないけどいいのそれ?」
「花の事はまぁ大丈夫でしょ、教えてくれるわよちゃんと」
「てか、そもそも何で俺?花とかもっと女子がやりそうなイメージなんだけど」
「何でって、そりゃシャンドフルールの店長さんがアンタの従姉妹だからよ」
「………え?」
「え、なに?」
「そうなの?て言うか俺、従姉妹とかいたの?」
「いるわよ。でも、そういえばあんまり会わせた事ないわねぇ」
俺の母、千鶴はあまり実家には帰らない。
昔、父親と折り合いが悪く母や妹としか連絡をとらなくなったと聞いた事がある。その2人とも関係は希薄で、連絡はほぼ生存確認のような内容だったとか何とか………。
俺の従姉妹という事は、その妹の子どもだろうか。
「でも歳アンタと近いし、あの子はいい子だから大丈夫よ」
「歳近いって、いくつ?」
「22」
「若くない?それで一人で店経営してんの?」
「そうよ、だから人手不足なんだって。女の子一人じゃ力仕事も難しいしね。男手がいるのよ」
「なるほどね………事情は大体察した」
「詳しい話はまぁ、
「リアン?」
「そう。咲坂莉杏ちゃん。シャンドフルールの店長さんの名前ね」
「分かった」
「お店の場所はここね」
母親がサラサラと描いた地図が示す場所は、家からそう遠くなかった。これなら、自転車で5分とかからない。
こんなに近くに、俺が知らない従姉妹がいたとは。
「もう行くでしょ?あ、これ莉杏に持って行ってあげて。この前お隣さんから貰った桃。もうそろそろ食べ頃のはずだから」
「分かった分かった」
追い立てられるように玄関へと背中を押され、桃の入ったビニール袋を持つ。
あ、この前買ったばっかのハイカットの靴、汚れてるし。マジかよ最悪。
「じゃ、気を付けてねー」
どこか嬉しそうな母の声を背に受けながら、俺は家を出た。
あーあ、せっかくの春休みなのに。まぁ、お金欲しいしそれはいいけど。
ペダルを踏み込む。
切った風は存外に気持ちが良く、空は抜けるように青かった。
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