第17話 サーシャの新生活
龍人の家では一族みんなが出迎えてくれた。
「初めまして、でいいのよね。まあ、とりあえず自己紹介させて頂きます」
一族周知のサーシャではあったが、実際に会うのは初めてだった。
「サーシャと言います。大学在学中はお世話になります。多分その後も、ずっとお世話になります」
一同、その一言でサーシャを気に入った様だ。
いたずらっぽい目で龍人の顔をのぞき込む。
照れて、真っ赤になっている龍人をサーシャの隣にさせ、あたたかい拍手で包み込んだ。
後は実物とイメージを一致させるための、一族全員への個別挨拶のようなものだ。
心を開いてくれれば通じ合える。
一族の全員がサーシャを家族の一員として迎入れてくれたようだった。
サーシャは前々から龍人を優しく、柔らかく暖かい人に育ててくれ、サーシャの心も救ってくれたアンナにも会いたかったが、それが叶うことはもう無い。
「新しいお姉さん、こんにちは。私、あんこ。こっちがりゅうほ」
積極的な杏子に連れられ、龍歩はもじもじしている。
「こんにちは。これからよろしくね」
「龍歩、お姉さんがきれいな人だから照れてるみたい」
「違うよ、これからなんて呼んだらいいか考えていただけだよ」
「そうか、春名さんも愛子ちゃんもお姉さんだものね。二人はなんて呼んでいるの」
「春名お姉ちゃんと愛子お姉ちゃん。呼び捨てにすると怒るから」
春名は叔父の源治とカトリの娘である。
「ふふふ、それじゃあ私はサーシャお姉ちゃんかサーお姉ちゃんでいいわ」
「サーお姉ちゃんがいいわ」
と杏子。
「何で他の二人は名前全部呼びなのにサーシャお姉ちゃんて呼ばないんだよ」
と龍歩。
「二人の呼びたい呼び方でかまわなくてよ」
結局、いつの間にか二人はサーシャのことを、サーちゃんと呼んだ。
龍歩と杏子は十歳。
愛らしくて人なつっこく、すぐに仲良しになれた。
サーシャが初めて龍人と知り合った頃の年令と同じ子供だ。
あの頃の龍人はこんな感じだったのだと感慨深いものがあった。
「サーシャ、部屋、かたづけてあるから荷物置きに行こうか。?何まじまじと僕の顔見てるの」
「龍歩、可愛いね。龍人も十歳の頃はあんな可愛い子だったのかなって」
「もう少し暗かったかな、いろいろあったしね。二人には叔母のカトリと春名が本当によくしてくれるから有り難いよ」
「ごめん、つらいこと思い出させちゃった?」
「つらい思い出じゃないよ。ソフィア母さんはもちろん、アンナ母さんも、母さん以上の母親はいないと思っている」
「そうね、私がこんなに普通でいられるのも、アンナお母様のおかげだもの、その通りだわ」
「僕は貢献していないのかい?」
「もちろん龍人が見守ってくれたことが一番よ。だから部屋に入ったら三つ指ついて、今日からよろしくお願いします、って挨拶するわ」
「どこでそんなこと覚えたんだい?それに僕たちまだ学生だよ。一緒の部屋で暮らすわけじゃないよ」
「これでも文化学部の生徒よ。日本の文化は少しだけど調べてきたわ。何だ、一緒の部屋じゃないのか。残念、これから楽しく暮らせると思ったのに」
「外国から日本に来て、いきなりそれって普通とは言えなく無い?」
「でも、こういうのって、日本じゃラブラブって言うんでしょ」
どうやら二人の主導権はサーシャが握っているらしい。
龍人は理学部に在籍していた。
並行して医師免許を取得するため、医学部の講義と実習にはできる限り出席していたが。
「龍人はどんな研究をしているの?」
「一言で説明するには難しいな。…例えばこうして話が出来るのは大気、空気を振動が伝わって、その振動を人間の脳が言葉と認識出来ているでしょ。じゃあ、宇宙空間を電磁波がどうして伝わるのか?光はなぜ素粒子と波長の二つの性質を持つのか?これまでは何もない空間を一つ一つ区切られてはいても連続した波だからとされているけど何もないのに波がなぜ出来、伝わるのかをを研究している」
「ある程度進んでいるの?」
「うん。宇宙空間には磁力、引力、電荷とか何も持たない何かで満ちていると仮説を立てた。空気もそうだけど均一ではなく濃いところや薄いところはあるけどね。それがあるから伝わるのではないか、俗に言うダークマターがそれではないのかとかね。だけど立証する目処がつかない」
「なんだか文系の私には難しすぎるみたい。早く解明されるといいわね」
「一生かけても出来ないかも、でも、後世の研究者の手がかりでも見つかればと思っているよ」
「頑張ってね」
(実は、僕たちの能力もそれが大きな役割を果たしているんじゃないかと思っている。まだ何の根拠も持てないけど、なぜか確信に近い感覚はある)
(そうだとしたら、すごいことよ。ただ使えるのと理屈を理解して使うとでは天地ほどの違いがあるもの。私も何か手伝えるかしら)
(ごめん、今は何をどうしたら良いか全く判らない。ただの思い込みかも)
(無理しないようにね)
(ありがとう)
「ああ、卒論まとめられるかな。そっちの方が頭が痛いよ」
「無理なら卒業を伸ばしたら。そうしたらもっと龍人と学生生活できるもの」
「それもいいかも。いや、医師免許も取るからどのみちまだ学生のままだ」
「それなら私と同じ時期に卒業になるかもね。よし、頑張れ」
「了解しました」
と敬礼のまねでおどけてみせる。
相変わらず仲の良い二人である。
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