No title.

@breaking_dust

1.

 それは平凡な日に起こった異常な出来事だった。午前八時、学校に向かう途中の通学路にて突如落とし穴に落ちてしまった。これだけでは何かの番組によるドッキリか友人からのいたずらとしか思えないが、大きな異常があった。

 底が見えない。

 ああ、死んだな。今何分経った?何分もないか、何秒か。いやそれでも結構長いな。ああ、この後どうなるんだろうな。

 人は危険な事態を察知すると自分でも驚くほど思考が冷静になる。私の場合冷静というよりも能天気というべきだろうか。

 これ、もう駄目だな。目を瞑っとくか。そう思い目を瞑った瞬間、また異常な出来事が起きた。

 風が頬を伝った。鳥が真横を通り過ぎたのが分かった。瞑った目の暗闇が少し明るくなった。

 違和感を感じ目を開けると、中世の都市と山が下に見えた。上には雲がある。横には何もない。

 なんだ、これ。なんなんだ、これ。え、ていうか、なにこれ。やべぇ。

 焦りや戸惑いでは表しきれない感情が脳に溢れた。

 こういう時こそ落ち着いて今の状況を整理するべきだと私は考え、能天気に今を見つめた。

 私は学校に向かっていて、いつもと同じ通学路を歩いていたら落とし穴に落とされて、何故か落とし穴が終わんなくて目を閉じたら今の状況に至る......と。

 意味が分からない。分からなすぎて脳死しそうだ。いやもうしてるのかもな。ははっ。

「いや笑ってる場合じゃねえよ」

 思わず口に出てしまった。気が付くともう地面はすぐそこだった。あ、やべ、死んだ、と思った。

 私は現実から逃げるようにまた目を瞑ると、案の定落下死していた。

 なぜ落下死したのが分かったかって?自分の死体が目の前にあるからだ。

 原型をとどめてないほどぐちゃぐちゃで、テレビに映したもんなら放送事故って済まないレベルのものがある。

 ここからどうすればいいんだろう。とりあえず私の死体って放置でいいのかな。ていうかやばい、吐きそう。とかそんなことを考えていたら、馬車を引き連れた商人らしき人が遠くで休憩している見えた。

 私は自分の死体をほっぽって焦りと多少の緊張感と少しの希望をもって商人らしき人の元まで走って向かった。

 商人らしき人の元へ近づいてみると、どうやら木陰で寝ているようだった。今なら金品を盗めるかも、と思ったが盗んだところでどうすればいいかわからない。

 ひとまず商人らしき人が起きるまで横でこれからどうするかとかここはどこかとか色々考えることにした。なにせ誰からも何の説明を受けていない。

 さっき空から落ちてくるときに見えたのは中世風の都市だった。まぁ私が落ちた場所は運が悪いのか山の中だったがね!!はっはっは!!......いや、笑えない。

 というか、本当に私はなぜこんなところにいるんだ?意味の分からない落とし穴に落ちてこんな意味の分からない場所に来てしまうなんて本当についてない......

「家に帰りたい」

 何か言葉を発したくなって出た言葉がこれだ。ああ、気のせいか涙も流れてきたきがする。やばい止まんない、どうしよう。

 私がぐずぐず嗚咽を挙げながら泣いていると、隣のおじさんが話しかけてきた。

「おい嬢ちゃん、何泣いてるんだ?迷子か?」

 めっちゃ優しそうなんだけど。え、何この人、惚れそう。ていうか良い声してますね。

「おい......本当に大丈夫か?何に困ってるのか言ってくれねえと俺も何も出来ないんだがな......」

 私は今が好機だと思い、商人らしき人に色々聞いてみることにした。

「え、あっ、大丈夫です......えっと、ここはどこですか?」

「あ?ここは普通の日本だが......なんだ、お前記憶喪失か?」

「えっと、たぶんそうだと思います......あはは......」

 対人が苦手なせいもあって少し言葉がぎこちないが、まぁ恐らく自然とふるまえているはずだ。

「覚えていないとは思うが、ここに来る過程もさっぱりなのか?」

「ええと、まあ、はい......ごめんなさい......」

「別に責めちゃいない。まあ、そうなら話は早い。俺が裾野まで連れて行ってやるよ。ほら、乗れ。俺にできることはそれぐらいしか無いからな」

 商人らしき人がそう言うと荷台に少しスペースを作ってくれた。一言お礼を述べた後、私は大人しく荷台に乗って裾野の村まで連れていかれた。

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