シートに身を沈めて

第1話


深夜勤務の仕事が終わった午前4時、季節は冬に近づき真っ暗だった。


いつものようにバスを待っていると、

パダムが「オンナクドキ二イクヨ!」と僕を誘った。


彼らのお目当ての女の子は、親が夜出歩かせてくれない。

だから彼らの通う東京のクラブは昼にオープンする。

朝、東京に向かい、昼まで寝て過ごすらしい。


いつも断るのだが、11月の今日は寒すぎた。

つきあいで東京まで送ってもらうことにした。

恥ずかしいことを言うが、僕は東京生まれだが勤務地は千葉なのだ。


早朝の人も車も少ない道、パダムは僕をあわせ5人乗せ、車を飛ばした。



「म कपाल धोउन चाहन्छु」


誰かがそう言った。

言い争いの後、車は突然Uターンした。


車は古い団地に到着した。


ここは?


パダムたちの住む団地だった。


「マッテテ!」


パダムたちはなにかを言い、それぞれの団地へ消えていった。

パダムの家に何人かが入って行った。


今までの暖気が暖かく、眠く、夢見心地で車のシートに身を沈めた。


  コンコン。


ガラスを叩く音がした。綺麗なインド人女性が立っていた。


「ゴメンナサイ、ナカデマッテテクダサイ」


笑顔で、そう言われ、案内されるままについて行った。

パダムの家に入った。


「ドウゾ」女性に案内され、狭い台所に案内された。

カレースパイスのにおいがした。


「オハヨウゴザイマス」中年女性に挨拶された。

「おはようございます」僕は言った。


「オハヨウゴザイマス、コーヒーイレマスネ」女性は言った。

「कफीको साथ आमा」


廊下の向こうからパダムたちの笑い声・大声・シャワーの音が聞こえた。

若い女性はパダムの姉で、中年女性はお母さんか。


お母さんはコンビニで売っているようなインスタントコーヒーに湯を注ぎ、

ネパール風のコーヒーカップで出してくれた。


コーヒーの味は普通のインスタントコーヒーそのままだった。


「ドウゾタベテクダサイ」


炒めたジャガイモと平べったい玉子焼きと

コンビニで売っているような食パン、苺ジャム、バターが出された。


炒めたジャガイモはおいしく、スパイスを感じた。初めての味覚だった。

玄関を入った時に感じたにおいはこれだったか。


「शुभ प्रभात」


小さな子供が現れた。その子供は僕のコーヒーを見て、

パダムの母親と姉にねだった。


いや、僕はパダムの給料を知っているが、

インスタントコーヒーが珍しいほど安月給じゃない。


たんにコーヒーが珍しいだけ・・か?


小さな子供はパダムの姉に、マグカップを渡された。

おそらくチャーだった。

小さな子供はうらめしそうに僕を眺めながらチャーを飲んだ。

いや、僕はどちらかといえばチャーを飲んでみたかった。



パダムたちはシャワーが終わり、僕が食べていた食パンに手を伸ばしたが、

母親と姉がどなりつけ、あきらめた。


「ジャ、イキマショー!」



車は再度発進し、街を飛ばした。そのまま首都湾岸線へ。


カーエアコンの暖気とジャガイモのスパイスが僕に沁みた。


首都湾岸線を東京へ。車はスピードを上げ、パダムは音楽をかけた。


パダムたちはほとんど日本語を話せない、母国への反発もあるのか。

音楽はカナダのロック音楽だった。



Everybody needs a second chance, ohhhhhhhhhhhhhhhhh!!





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シートに身を沈めて @heywood

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