【4万PV】下着をください

赤里キツネ

第1話 ぷろろーぐ

「ねえ・・・田中君・・・キミが大変なのは分かっているわ・・・私に何かできない・・・かな?」


委員長──香菜山かなやま詩織しおりが尋ねる。

クラスでも人気の女子・・・今回の召喚でも、聖女の職業を得ている。


彼女なら・・・この窮状を・・・救ってくれる・・・


「委員長・・・御願いがある・・・」


「うん・・・?」


濃い黒の長髪に・・・大きな目。

委員長ではあるが、メガネはしていない。


俺の発言に、耳を傾け・・・小首を傾げる。


「委員長・・・身につけている下着を・・・欲しい」


香菜山かなやまは、笑顔のままで固まり・・・やがて、顔を引きつらせ、


パンッ


俺の頬を思いっきり叩くと、


「・・・最低!」


そう告げると、背を向け・・・まずい・・・何とか・・・何とか・・・


「ま・・・待って欲しい、委員長!」


香菜山かなやまが睨む。

こうなれば・・・勢いだ。


「頼む・・・分かるだろ・・・?俺だって男子なんだ・・・異世界に来て・・・こっちでは、その・・・処理できない・・・俺はみんなと違って、特異能力にも恵まれなかったし・・・だから・・・」


うっわ。

氷点下だ。


香菜山かなやま達だって困るだろ・・・?俺が・・・俺が異世界人を相手に犯罪を犯したら・・・俺達クラスメート全員が・・・白い目で見られる」


「・・・最低・・・ね」


ですよね。


「頼む・・・もう資金も底をついた・・・薬草採取とかで食いつないでいるけど・・・限界がある・・・だから・・・頼む・・・分かるだろ・・・?お前達、恵まれたクラスメートとは・・・違うんだよ」


香菜山かなやまは、大きく溜息をつくと、


「・・・部屋に戻れば、替えの下着があるわ。それをあげます」


「それでは困る・・・洗濯した物だったら意味が無いんだ」


「・・・変態」


人間って、ここまで人をさげすめるんだね!


「着替えてくるわ。今つけているのをあげるから・・・問題は起こさないと約束してくれる?」


「ああ、勿論だよ」


俺だって、問題を起こす気など無い。


凄まじい怒気を纏わせ・・・香菜山かなやまが去って行く。


良かった。

これで・・・なんとか、首の皮が繋がった。


--


クラスごと異世界召喚。

ソレ系の小説はちょくちょく読んでいたが・・・

まさか、自分の身に降りかかるとは思っていなかった。


クラスメート全員が、強力な職業を手にする中・・・

俺に発現した職業は、無職。

一般職に就く事すら許されない、最低な職業。

勿論、ステータスも異世界の一般人以下。

つまり無能者。


無能者だからといって、殺される程酷くはなかった。

でも、支援もしてもらえない。

クラスメート達がカンパしあって、俺に援助してくれる案も出たのだが・・・俺が断った。

冒険者になって、まずは自活してみるよ、と。


冒険者の仕事には、ドブさらいや、薬草採取といったものがある。

そういった仕事なら、上手くやれば無能者でも何とかなる。


強い力を得たクラスメート達が、国の為に特訓をする間・・・

俺は、自由を手に入れたのだ。

そして・・・


支度金で借りた宿屋の一室。

俺は・・・


同じく支度金で買った大量の下着をベッドの上に置くと。


「ガチャ」


スキルを発現。


一つ、黙っていたことがある。

俺には・・・一つだけ、ユニークスキルがあった。


ガチャ。

クレジットを貯めて、回せるらしい。

何が出るかは知らない。

役に立つ能力だったら、自由を奪われる可能性がある。

だから・・・まだ試していないのだ。


一応、表示したステータスのガチャのスキルに意識を集中させると・・・使い方が分かる。

それによると・・・


1.クレジットは、下着を入れる事で、貯まる。

  洗濯してあれば0pt。

2.同じ人物の下着を何度も入れると、

  得られるポイントは低下する。

3.ある程度交流のある人物の場合、

  初回のポイントが2倍からスタートとなる。

4.異なる部位に対する下着は、別種類の扱いとなる。


うん、びっくりするくらい、意味の分からない条件だよね。

レア魔物を倒すとポイントが得られるとか、

レベルが一定ポイントに達する度にポイントが得られるとか・・・

普通そういうのじゃね?


ある意味、能力を正直に言えばまだ動きやすい気がするが・・・

王様とか王女様とか、良い人っぽいとは言え、完全に信用するのは危険だ。

まだ隠しておいた方が良い。


早速下着を脱ぐと、新しい下着を身につけ・・・

投入。

ガチャマシーンの上部が開くようになっていて、そこに入れるようだ。


クレジット:0pt→10pt


これ、0からのスタートってのが厳しすぎる。

尚、単発だと10pt、11連で100ptだ。


再び下着を脱ぎ、新しい下着をつけ・・・

いくら自室とは言え、裸のままでいるのは抵抗がある。


さて・・・どこまで低下するのか・・・


クレジット:10pt→15pt


まさかの半減。

結局、5ptの次は2pt、1pt、0pt、0pt・・・合計18pt。


・・・


--


さてと・・・


店員さんに変な目で見られたが・・・

買ってきたのは、最小サイズのブラジャー。


さて・・・いける・・・か・・・?


クレジット:18pt→28pt


というわけで、無事36ptをゲットした。


これは・・・11連とか言ってられない。

早速回そう。


スキル:

 鑑定→収束されました


スキル:

 隠蔽→新しい能力が発現しました


タロット:

 フライングソード Lv.1 10/10


さっそく、自分に鑑定を使用する。


***************************************


名前:

 田中たな雅司まさし

レベル:

 1

職業:

 無職

ステータス:

 STR 3

 DEX 2

 AGI 1

 VIT 1

 MAG 2

 MEN 2

スキル:

 ガチャ(6pt)

 鑑定 Lv.2

 偽装 Lv.1

タロット:

 フライングソード Lv.1 10/10


***************************************

 

しょぼい・・・


ちなみに、クラスメート達は、成長率アップに成長速度アップに・・・色々ついていたらしい。

というか、異世界転移者で、成長率アップと成長速度アップがない人は、稀らしい。


さて・・・まだ日が高い。

冒険者ギルドに行ってみますか。


--


冒険者ギルドでは、城から連絡が回っていたらしい。

あっさり申請できた。

異世界人でドブさらいというのは前例が無いらしく、苦笑いされたけど。

やっぱり薬草採取にすべきだっただろうか?


ドブさらいは、道路の脇にある溝の掃除・・・下水道の掃除と違い、魔物に襲われる心配もない。

特に危険もなく、夕方までせいをだし、幾ばくかの報酬を受け取った。


うん。


・・・超しょぼい。

宿代にもならない。

明日は・・・薬草採取を受けるか。


--


翌日、薬草採取へと出かける。

適当に鑑定をかけ、指定された薬草を採取・・・まあ、楽だ。


ぐるる・・・


前言撤回。

超危険だ。


森の情報は、事前情報は得ていた。

だが・・・


フォレストウルフが出る、と聞いていたが・・・

でかすぎる。

高さ5メートルくらいあるんじゃね?

鑑定を行使するが・・・鑑定できません、って出るだけ。

使えねえ・・・


「おぬし・・・我を調べようなど・・・死ぬ覚悟はできていような?」


ほらあ。

魔物喋るじゃん。

何が強い魔物いない安全な森だよ。

この世界の人にとっては安全でも、日本人の俺には魔境。

つらい・・・


先手必勝・・・!


「フライングソード!」


タロットを発動。


ザンッ


微動だにしない狼・・・すら満足に倒せず、右足を吹き飛ばしただけで終わる。

やばい、死んだ。


俺は、ばくばくなる心臓の鼓動を抑え、


「今のはわざと外した。次は・・・その首、貰い受けるぞ」


「ぐ・・・があああ・・・?!」


バランスを崩す狼。


「立ち去れ。そうすれば見逃してやる。向かってくるなら・・・その命、ここで散らす事になるぞ?」


「ぬおおおおおお!我を愚弄するかあああ!」


やべ、はったり超効かねえ。


「フライングソード!フライングソード!」


ひたすら連打。

うわ、全然思った方向にいかねえ。

やがて・・・全弾撃ちつくし、何とか倒せた。


いや・・・動いている。


逃げよう。


足早に、その場を立ち去る事にした。


--


***************************************


名前:

 田中たな雅司まさし

レベル:

 31

職業:

 無職

ステータス:

 STR 34

 DEX 33

 AGI 32

 VIT 32

 MAG 33

 MEN 33

スキル:

 ガチャ(6pt)

 鑑定 Lv.2

 偽装 Lv.1

 チャージ Lv1 1/1

タロット:

 フライングソード Lv.1 0/10


***************************************


うっわ、レベルが超上がってる。

成長率増加は無いが・・・恐らく、能力差に応じて成長速度が変わる世界なのだろう。

俺にとっては、修羅の国。

通常なら簡単に倒せるフォレストウルフでも、レベルが上がりまくったのだ。


で。


頼みの綱の、フライングソードが残数0。

きつい。


スキルが増えている。

チャージ?


ふむ・・・使用回数のあるスキルの使用回数を回復させる、か。


タロットもいけるのか?


フライングソード Lv.1 0/10 → 1/10


いけた。


チャージは、1日に1回、回復するらしい。

10日あればフライングソードも回復して・・・


うん、間に合わないよね。

とにかく・・・明日になれば2回まで回復できて・・・

あとは、とにかく敵に会わないように立ち回るしか・・・


--


意外となんとかなった。

フォレストウルフはやばかったが、芋虫みたいな敵や、うさぎみたいな敵は、0.5~1mくらいの背丈。

動きも視認できる程度なので、普通に倒せた。


鑑定で見つけた珍しい薬草を持って行ったら、ぷち騒ぎになったので、冒険者ギルドで売る事ができなくなった。

金貨10枚も貰えたのだけど。

偶然見つけたって言い張るのも限界があるよね。


少しずつ、この世界の事が分かってきた。


まず、鑑定スキルは、意外と知られていないようだ。

異世界転移者の基本スキルなのだが・・・一般には浸透していない。

こういったスキルは、所持を隠すのが基本。

ばれたら、報酬を下げられる可能性があるからだ。

利用しようという輩が来ても困るし。


見つけた珍しい薬草や、高価な素材は、素性を隠して引き取ってくれる怪しい店に卸している。

すっかり常連になってしまった。


問題は。


・・・他人の下着とか、どうやって手に入れれば良いんだ?

お金はあるから、他人から買い取る事はできるだろうが・・・何に使うのかと思われて・・・スキルの事がばれたらやばい。

下着を使うスキル・・・ガチャの存在が知られていれば・・・一発アウトだろう。


同じく日本から来たクラスメートなら・・・俺が特殊性癖を持っている、と告げれば、意外と誤魔化せるんじゃないだろうか?


一応、俺にも友人はいる。

だが・・・同性の下着をそういう事に使う・・・と思われるのはちょっと・・・

まだ、女子に頼んだ方がましだ。


ちなみに、言うまでも無く、女子の友達も彼女もいない。


俺は・・・仄暗い決意を固め、城を訪問する事にした。

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