悪い子は…

いざよい ふたばりー

真夜中の出来事

その男の子はとても乱暴者だった。

歳は小学校中学年位だろうか。友達が遊んでいるおもちゃだって取り上げるし、誰かがブランコに乗っていても後ろから背中を押して乗っ取ってしまう。先生や両親からの言いつけも守らず、自分のしたい事をしたいだけする、そんな子どもだ。

「やい、それをよこせ。」

友達が楽しそうに遊んでいると、すぐに横取りをする。相手も断ると暴力を振るわれるとわかっている為、しぶしぶ渡してしまう。

「ふん、それでいいんだ。」

男の子は満足そうにその場を離れる。

掃除、後片付けなんかは人に押し付け、

「お前、暇そうだな。俺の担当の分も掃除しておけ。」

「でも、今日は僕塾があるから…」

「俺だってみたいテレビがあるんだ。急いでやれば間に合うだろう。しっかりやっておけよ。」

先生が再三注意したところでどこ吹く風、のれんに腕押しである。

「ただいま。」

男の子は学校から帰宅し、おやつを食べながらテレビを観ている。

「こら、手を洗いなさいって何度言えばわかるの。それに、宿題だってまだでしょう。先生から電話で毎日ちゃんと宿題をやらないと言われてるのよ。」

「うるさいなぁ、後でやるよ。」

「いつもそう言ってやらないじゃないの。ああ、お鍋が焦げちゃうわ。いいね、ちゃんと宿題やるのよ。」

お母さんは台所へと急いだ。

お母さんの背中に向けて、

「はいはーい。気が向いたらやりますよー。」

小さい声で悪態をつく。

そのうち晩御飯の時間になり、お風呂に入り、寝る時間となった。

「いつまで遊んでるの。早く寝なさい。」

男の子はずっとゲームをしていて、なかなか布団へ入らない。お母さんは、今まで放置していたわけではなく、時には叱り、時には厳しくしつけをしていた。しかし、男の子には効き目がなく、お母さんがゲームやおもちゃを隠しても鋭く探し出し遊んでしまうのである。

「うるさいなぁ。キリのいいとこで終わるよ。後10分くらいかなー。」

「絶対よ、じゃあおやすみ。」

お母さんは部屋から出て行く。

しばらく遊んでいたが、さすがに睡魔には勝てず、

「眠くなってきたなあ。そろそろ寝るか…。」

男の子はやっと眠った。


その夜……

男の子は妙な夢をみた。

夢の中で、いつもどおり友達から漫画やおもちゃを取り上げ、先生や親の言いつけを守らないでいると、男の子は後ろから声をかけられた。

「ふふふ、キミ…そろそろそういう事、やめた方がいいんじゃないかな。」

「何だお前。みたことないやつだな。」

「ふふふふふ。キミの知らないボクだって、ちゃんとキミを知っている…。」

「気味の悪いやつだな。お前の知った事か。あっちへ行け。」

「ともだち先生お母さん。みんなみんなに嫌われて、キミが気がつくその頃に、ひとりぼっちになるんだよ。」

「だまれ、知るか、うんざりだ。早くあっちに行けったら…。」

「ふふふふふ、いいのかいいのか。そんなこと言ってもいいのかな。忠告したぞ、わかったかい。良い子にならないと…」


「誰にも相手にされなくなるよ。」


その子はニッと笑うと、物陰に消えていった。

翌朝。

「気持ちの悪い夢だったな…。」

男の子は学校へ行く支度をしながら夢の事を思い出していた。しかし、夢は夢だと言い聞かせ、のんびり朝ごはんを食べているうちに、どうでも良いやと開き直りいつもの様にその日を過ごした。

遅刻ギリギリまで家におり、学校ではともだちから遊具やボールを取り上げ、掃除もサボり家に帰る。

その夜。男の子はまた夢をみた。

「ふふふふふ。いーけないんだ、いけないんだ。」

「またお前か。しつこいぞ。」

「昨日、ボクは忠告したからね。したんだからね。だからこれはキミが招いた結果だよ。」

「何のことだ。」

「知ってるけれど、しーらない。教えてあげない、知らせない。知らぬが花、言わぬが仏。キミはただ、これから起こる出来事で、後悔役に立たないって思い知るだろうね、ふふふふふ。」

「鼻につく奴だな。何があっても知ったことか。」

「ふふふふふ。ねえキミ。喉がかわかないかい。」

「え、何だよ急に。」

「たーくさん飲んでいいからね。」

その子は男の子をつかまえ、無理やりに水を飲ませる。そのうち、男の子はトイレに行きたくなり…


目を覚ました。

辺りをキョロキョロと見回すが、まだ外は真っ暗で、静かなものである。

「なんだ、アイツは。嫌な夢だったな。うう、あんな夢を見たせいか、トイレに行きたくなっちやった。」

男の子は部屋から出てトイレに行き、用を足す。

普段はこんな時間に起きることはないし、乱暴者と言ってもやはり子ども。静かで真っ暗で、誰もいない廊下に、おっかなびっくりである。

恐々としながらも、自分の部屋へと向かっていると、

「あれ、変だな。こんな所にドアなんてあったかな。」

廊下の突き当たりに、見慣れぬドアがあった。

ドアの隙間からは薄く光が漏れており、かすかに楽しそうな声が聞こえて来る。

「何だろう。まだ夢の続きかな。」

こわいながらもドアを開け、声に引き込まれる様に中に入る。中はうす暗く、階段になっており、どこまで続いているのだろうか、先が見えない。声は奥から聞こえる様だ。

「何の部屋だろう。うちにこんな部屋なんてなかったはずだぞ。やっぱり夢なんだろうな。」

夢といえど、少し薄気味悪い。戻ろうかなと思い振り向くと……

突然、ドアは音を立てて閉まってしまった。

慌ててドアを開けようとするが、ドアノブがないではないか。

「何だこれは。閉じ込められてしまった。夢なら早く覚めてくれ。」

泣いてもわめいても一向にドアは開かない。半ベソになりながらも階段を上る事にする。

一段、また一段と上る度、ヒヤリとした感覚が足に伝わる。

どれだけ時間が経ったのだろう。相変わらず、かすかに楽しげな声は聞こえるし、階段はうす暗く足元がやっと見えるだけ。階段を上りながら、男の子は違和感を覚えていた。

「変だな。上り続けても声は同じくらいの距離だし、二階がある高さより明らかに高い。それになんだかだんだんせまくなっている様な気がするぞ。」

ついに、男の子は身動きが取れなくなってしまった。その途端、かすかに聞こえていた楽しげな声は聞こえなくなり、足元も見えなくなってしまった。

引き返そうにも身体を動かす様な広さは無く、かと言って前に進もうにも足も動かない。

真っ暗で、何の音もしない空間。

完全な暗闇で、自分の手足さえ見えない。

きゅうくつで、身動きが取れない。

男の子はパニックになりながら、泣き、喚き、叫び、夢なら早く覚めてくれと祈り続けた……


……どのくらい時間がたったのだろうか。

ふと、気がつくと朝になっており、自分の部屋にいた。

「よかった。やっぱり夢だったんだ。それにしても怖い夢だった。」

ほっとひと安心。男の子は台所に向かい、

「おはよう、お母さん。聞いてよ、今日怖い夢を…。」

そう言いかけ、ハッとする。

なぜだ、おかしいぞ。いつも自分が座っている椅子に、自分とそっくりな奴が座っているじゃないか。

「お前は誰だ。なんで俺と同じ格好をしている。お母さん、そいつは偽物だ、ねえ聞いてるの。ねえったら。」

お母さんの耳に、声は届いていないようで、椅子に座っている男の子と楽しげに朝食を取っている。

「でも急にいい子になって、お母さんびっくりしちゃったな。」

何を言っているんだろう。

「いつもは起こしてもなかなか起きて来ないのに、今日は自分から起きてきて、着替えもちゃんとして。」

何言ってるの、俺はここに……。

椅子に座っている方の男の子はニコニコしながら、

「ううん、昨日まで悪い子でごめんね、昨日の夜怖い夢を見て、このままじゃいけないって、良い子になろって決めたんだ。」

「あら、いつまでつづくかしら。でもいい子にしててお母さん嬉しいわ。」

まってよお母さん。俺はこっちで、そいつは偽物で……。

「ごちそうさまでした。歯磨きしてくるね。」

椅子から降りたその子は台所から出て……

男の子と目が合うや、ニッと笑う。

男の子は追いかけるように洗面台に向かうと、歯磨きをしているその子をみてギョッとした。

「俺が鏡にうつっていない。それに、お前は、お前は…。」

鏡の中のそいつは、夢の中のアイツだった。

鏡の中のアイツが言う。

「忠告したよね言ったよね。聞かないキミの招いた結果。誰も知らない知られない。キミはずーっとひとりぼっち。そんなキミでもいなくなったら両親が悲しむけれど。大丈夫、ボクがちゃんと代わりになるよ。」

そしてその子はニッと笑い……

「行ってきまーす。」


誰にも見えない、聞こえない。乱暴者の男の子。

後悔しても役にはたたず、後のお祭り残念無念。


その後…男の子はどうなったんでしょうね。

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悪い子は… いざよい ふたばりー @izayoi_futabariy

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