26 にじむ

親愛なるお父様へ


 この街にやってきて、随分と経ちました。

 お父様へのお手紙も、これで何通目になるでしょうか。

 どんなに優秀な配達員でも、この手紙をお父様の元へ届けることはできませんが、こうして思いを綴っていると、まるでお父様とお話ししている気分になるのです。


 この十二番街はとても小さくて、港町カルディアとは比べものになりませんが、世界樹に一番近いので、梢が風に揺れる音がまるで潮騒のように聞こえます。

 そのせいでしょうか、時折カルディアの夢を見るのです。

 港の見える丘で、お父様とお母様、そして私の三人でピクニックをする夢です。

 丘に咲く花々を摘んで、花冠を編んだり。

 港に出入りする帆船に掲げられた、色とりどりの旗を数えたり。

 アップルパイの最後の一切れを賭けてなぞなぞ勝負をしたり――。

 夢は、いつだって幸せなままで。

 それなのに何故か涙がにじんで、霞む視界の向こう側に、やがてお父様達は消えてしまうのです。

 幸せな夢を見ているはずなのに、不思議です。


 でも最近は、違う夢も見るようになりました。

 ユージーンやオルトと海水浴に行ったり、ノーマさんと魔女さんのおしゃれ対決を手伝ったり、市場でユーディスさんと黒猫を追いかけたり。

 この街で体験したことが、色々と混じりあって夢に出てくるのがとても面白くて、夢日記をつけたりもしているんですよ。


 お父様にも是非、この世界樹の街と、そこで楽しく暮らしている私の姿を見てもらいたいのですが、もしかしたらきっと、何もかもお見通しなのかもしれませんね。


 私はきっと、お父様と同じ場所には行けないのでしょうけれど。

 それでもいつか、またお父様と会ってお話しが出来たら良いのにな、と思ってしまいます。

 ああ、なんて私は欲張りなのでしょう! 今こうして暮らしているだけでも、十分に幸運なことだというのに。

 でも、夢や希望があるのは良いことなのだと、ユージーンは言ってくれました。

 どんなにささやかなものでも、それこそが明日を紡ぐ力になるのだと。

 ですので、お父様が繋いでくださったこの命を使って、私はこの世界を存分に、わがままに、とことん楽しもうと思います。

 どうか、見守っていてください。


 あなたの娘より

 愛を込めて

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