ヴィッセラーダは聖夜を祝う

「さあヴィッセラーダ起きてヴィッセラーダ! 今日が何の日か覚えているでしょう?」


 カーテンが開く鮮やかな音と共に、朝の光がさっと船室になだれ込む。勢いよくカーテンを開いた栗色の巻き毛の少女が、踊るような足取りで二つ並んだベッドの間に歩み入り、思い切りよく両方のシーツを引っ張り上げた。


「もう朝なのよ、二人とも!」

「……嬢は……朝から元気だなあ……」


 少女が引きはがしたシーツの下から現れた大男は、天井を見上げたまま呆然と呟く。良く陽に焼けた男だった。大きくはだけたぼろシャツの隙間から、いくつかの刀傷が刻まれた分厚い胸板がのぞいている。そろそろ白髪の混じり始めた長い髭と頭髪は、幾本もの細い三つ編みにまとめられ、先端はピンクのリボンで結わえられていた。


「だって今日は特別な日だもの。心弾まずにはいられないわ。そうでしょうレータ? そう思うわよねレータ。いつまでもどこまでもベッドにかじりついているなんて、できるはずがないわよね?」


 少女は軽く節を付けて言いながら、大男とは逆側のベッドのシーツをもう一度引っ張る。引っ張られたシーツは頑強にベッドにしがみつきながら、あーとかうーとかかすれた声でうなった。

 少女はため息と共にシーツから手を離し、前髪を掻き上げながら大男へと振り返る。


「ねえヴィッセラーダ、困ったわヴィッセラーダ。どうしたら起きてくれるのかしら?」


 生成りのワンピースに身を包んだ少女を見下ろしながら、ヴィッセラーダはにやりと笑った。


「目覚めのキスでもかましてやるってのはどうだ?」


 ヴィッセラーダの言葉と同時に、ベッドにへばりついていたシーツが自発的にむくりと起きあがった。


「それは……困る」


 シーツの下から現れてかすれた声で呟いたのは、筋骨逞しいヴィッセラーダと対照的な、線の細い青年だ。ぼさぼさに伸びた黒髪の間から、眠たげに細められた褐色の瞳がのぞいている。着ているシャツはもともとはヴィッセラーダのものだったせいで、身体に合わずにあちこち余ってしまっていた。まばらに伸びた無精髭と長すぎる前髪が、あか抜けない印象を醸し出している。


「さあレータ、それからヴィッセラーダ。着替えてご飯にしましょう! それから船を飾り付けるの。だって今日は聖女ラフィアの生誕祭、年に一度の特別な日! 綺麗に豪華に飾り付けなきゃ!」


 レータが起きあがったことに満足した少女は、満面の笑みと共にそう言った。



 朝食の後、少女は船中をくるくると踊り回って、オアシスを行き来する船乗りたちが思わず足を止めて見上げるほど見事にヴィッセラーダの砂船を飾り付けた。舳先の女神像はひいらぎの葉や松ぼっくりをあしらった大きな花輪を抱えて微笑み、帆柱や帆桁にもポインセチアの造花やら金色のボールやら雪だるまやラフィアの御使いや雪車やトナカイや丸木小屋のミニチュアやらが飾られて、まるで船の上にラフィア生誕祭を祝う田舎の村が丸ごと一つ引っ越してきたようだ。


「アリス、これくらいでいいかな?」


 高いところの飾り付けを受け持っていたレータがマストから降りてきて、少女――アリスに向かって問いかける。アリスは小首を傾げてマストを見上げ、やがて満足した様子で微笑んだ。


「ええ、とっても素敵だわ」

「そう。良かった」


 レータも長い前髪の奥で瞳を細めて笑う。


「そうだわレータ。髪を切りましょう? 今日は特別な日なんですもの。おしゃれをしないといけないわ」

「そう?」


 間近からのぞき込まれたレータは、ぎくりと身を引きながら首を傾げた。


「ええそうよ。それにきっと目にも良くないわ。船乗りだったら目は大切にしなきゃ」


 アリスは踊るような歩調で踵を返して船室へ入り、再び出てきた時にははさみを手にしていた。甲板にデッキチェアを置いてレータを座らせ、アリスはその後ろに立つ。


「いつもの通りで良いのよね?」


 レータは黙って頷き、アリスがはさみを取りに行っていた間にその辺から見繕った本を開いて読み始めた。

 オアシスの外れに碇を降ろしたヴィッセラーダの砂船からは、果てなく広がる不毛の砂漠と雲一つなく晴れ渡った空が見渡せる。甲板の上、帆柱が作る影の中で、アリスははさみを動かして、レータの髪を切り始めた。最初は後ろ髪から。



「今日の今日まで連絡を寄越さないなんて、いったいどういう了見なんだい?」


 しわがれた老婆の声が、はさみを動かすアリスの耳にふいに飛び込んできた。アリスは思わず手を止めて、声がした方へ視線をやる。レータも本から顔を上げて、そちらの方へと目をやった。


 オアシスから延びる桟橋にかけたタラップに、一人の老婆が立っていた。長いローブを着てフードを目深に被り、節くれ立った樫の杖を手にしている。老婆の前にはヴィッセラーダが立ち、なにやら困惑した表情を浮かべていた。


「まさかとは思うが、忘れてたんじゃないだろうね?」


 老婆は長い眉毛の下からじろりとヴィッセラーダを睨み上げ、脅すような調子で尋ねかける。


「……忘れてた」


 対するヴィッセラーダは、信じられないとばかりに自分の額を叩いて呟いた。


「悪い、ばあさん。うっかりしとったよ」


 老婆は杖でタラップをどん、と叩き、不機嫌そうにヴィッセラーダを見上げる。


「まったく。しようのない男だね、あんたは。いいかい、忘れるんじゃないよ。今夜暗くなるころまでには、必ずあたしのとこに来るんだよ! すっぽかしたら承知しないからね!」



 アリスがレータの髪を切り終えるまで、老婆のお説教は続いていた。


「ヴィッセラーダ……今の、怖い人?」


 アリスたちが切り終えた髪まで掃除し終えた頃、老婆はようやく立ち去って、今まで遠慮し続けていたアリスが恐る恐る尋ねる。


「いやいやいやいや。気のいいばあさんさ。ちぃとばかし、気性が荒いのが玉にキズだけどよ」


 ヴィッセラーダは慌てて首を横に振り、それから彼女の名はレンガスと言って、自分の育ての親なのだと説明した。


「まあ、そういうことだ。俺様はばあさんの家に行くが、お前たちはどうするね?」

「決まっているわ、もちろんよ。ヴィッセラーダが行くのなら、わたしもレータもみんな一緒に」

「俺は行けない」


 思いがけず強い調子で、レータがアリスの言葉を遮った。


「ど、どうして? レータ、何かあったの?」


 慌てて振り向いたアリスにも、レータの強張った表情は緩まない。


「来るなって言われてるんだ、俺」


 アリスに向かって答えたレータは、またすぐにヴィッセラーダへ向き直った。


「だから、アリスだけ連れて行けばいい」

「うーん、確かにそういう手もあるけどなあ……」


 ヴィッセラーダは難しい表情でうなり、アリスはただでさえ大きな瞳を零れ落ちそうなくらい見開いて首を横に振る。


「そんなの駄目よ、いけないわ。今日はみんなでお祝いしましょうって、約束していたのだから……来るななんて……ヴィッセラーダ、どうにかできない? レンガスさんをこちらにお呼びするとか……」

「ばあさんも頑固だから……どうにかっつっても……」


 困り切ったヴィッセラーダを照らす陽光を雲が遮った。甲板を影が覆い、一同の上にも暗い雰囲気が立ちこめる。


「ヴィッセラーダ、だから、アリスは連れて行っても」

「悪い、本当、申し訳ねえ!」


 レータの言葉はヴィッセラーダの大きな声で、途中からかき消されてしまった。


「でも、ばあさんとの約束が先だったんだよ。この埋め合わせはいつか必ずする! だからすまねえ! 今日は、今日だけは、二人でいい子で留守番しててくれ」


 アリスは泣きそうな瞳を大きく見開いて、頭を下げるヴィッセラーダを見つめ、やがてゆっくりとうつむいた。


「わかったわ、ヴィッセラーダ。今日はお留守番しています。せっかくの生誕祭なんだもの、ヴィッセラーダも楽しんできてね。わたしもレータとお祝いするから」

「ありがとよ。嬢はいい子だな」


 ヴィッセラーダはアリスの頭を撫で、じゃあ準備してくると言って船室へ降りていった。



 夕刻、アリスは一人台所に籠もり、生誕祭のご馳走を作り続けていた。

 丸ごとのチキンをオーブンに任せ、生クリームをホイップしながら、寂しいな、と、アリスは思う。


 レータと二人きりなのが嫌なわけじゃない。家族が一人でも欠けてしまうのが嫌なのだ。せっかくの生誕祭なのに。


 ――こんなのは嫌だ。


 アリスは思う。

 どうせなら、お前が良い子じゃないから連れて行けないんだと言ってくれた方が良かった。そしたら、レンガスさんのことを恨んだりしなくて済んだのに。


 どうしてレータに来るななんて言ったのだろう。どんな理由があるにしろ、レータはきっと悪くないはずだ。何か失敗してしまっても、レータなら絶対ちゃんと謝って、償おうとするはずだから。なのに、どうして。


 考えれば考えるほど、どうしても恨みがましい感情が増していってしまう。

 レンガスさんのことを恨んでいる自分は嫌いだ。こんな、醜い感情を抱えた自分は。


 悔しくて惨めで、知らず知らずのうちに顔が歪んだ。喉の奥に何か嫌なものがこみ上げてきて、飲み下すたびにきりきりと痛む。


 ――こんな自分は嫌だ。


 顎の関節が痛むくらい必死で噛み殺しても、涙はどうしても溢れてきてしまって、アリスはクリームの跳ねが顔にかかった振りをしてこっそり涙をぬぐった。



「……ヴィッセラーダの所へ行く?」


 感情の波をどうにかやり過ごして、ほっと息を吐いたアリスに、背後からレータが呼びかけた。


「えっ?」


 思わず振り向くと、いつもの無表情なレータが台所の扉の前に立っている。


「え、ええ。できることなら……。だけど……だけどレータ、大丈夫なの?」

「うん。なんとかする……できる、と思う」


 レータは髪を切ったばかりだから、いつもよりはっきりと表情がわかる。今のレータの表情は、強い決意に引き締まっていた。


「でも、レンガスさんの家の場所は? わたし、全然知らないわ。それに、邪魔にはならないかしら? ヴィッセラーダと、レンガスさんの……」


 怖じ気づいておろおろと尋ねるアリスに、レータは小さく笑いかける。


「大丈夫。おいで」


 頷いて踵を返しかけたところで、レータはふと動きを止めた。


「あ」

「え、え? どうしたの?」


 アリスは忙しくレータの視線の行方を探す。


「料理」


 レータは言って、台所に並べられた料理の群れを指差した。


「持って行こう。せっかくのごちそうだし。俺は、食べたい」



 レンガスの家は、オアシスの外れにある横に大きく広がった茂みの下にあった。小枝と動物の骨と枯れ草で出来た粗末な小屋には、奇妙な文様が描かれた呪符やら飾り付けられた動物の頭蓋骨やら怪しげな品が所狭しと飾り付けられている。


「レンガスさんは魔女なんだよ」


 生誕祭を祝う料理がぎっしりつまったバスケットを両手に抱えたレータが言う。


「捜し物や薬草の調合や占いを請負ってる。船乗りにも頼みにしている人は多い」


 そこまで話したところで、ふとレータの表情が曇った。


「だけど、賤しい職業だと下に見る者もいる」

「レータ?」


 じっとレータの横顔を見上げて話を聞いていたアリスは、憂いを含んだレータの呟きに不安げな声をあげる。


「大丈夫。追い返されたりしない」


 レータはちらりとアリスを見下ろして微笑み、小屋の板戸を礼儀正しくノックした。


「誰だい?」


 ほとんど間をおかずに、不機嫌な声が中から答える。


「あ、あの、ヴィッセラーダの船に乗り組んでいます、アリスとレータです」


 扉が開き、顔中に渋面を貼り付けたレンガスが現れた。ここに来たことをどう説明すればいいのか、アリスが迷っているうちに、レータは一歩進み出て深く頭を下げる。


「私の親族があなたに対して行ってきた無礼を謝りに参りました。本当に、申し訳ありませんでした」

「れ、レータ? いきなりどうしたの? 一体何があったの?」


 困惑してレータとレンガスを見比べるアリスに、答える者はいない。レンガスは渋面を崩さず、レータは深く頭を下げたままだ。

 おろおろと慌てていたアリスの視線がやがて懇願するようなものに変わり、レンガスを見上げる。レンガスはじっとレータの頭を見下ろしていたが、アリスの視線に気付いて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「顔を上げな。まあ……あたしも悪かったよ。あんたの責任じゃないことはわかってたんだからね」


 言われて顔を上げたレータは、緊張と安堵が入り交じった複雑な表情を浮かべている。


「アリスとか言ったね」

「は、はい!」


 突然レンガスに向き直られて、アリスは真っ直ぐに姿勢を正した。


「パーティにそんな格好はないだろ。こっちおいで。あたしの若い頃の服を着せてあげるよ。型は古いが、まだまだ着れるからね」


 レンガスが扉を大きく開けはなって、アリスを招じ入れる。暖かな光の満ちた小屋の中は、おどろおどろしい外見に反してすっきりと住み心地が良さそうだ。


「あんたは髭剃りな。みっともないよ」


 レンガスは立ち尽くしたままのレータにカミソリを放り、代わりにバスケットを奪い取るとアリスを奥へ引きずり込んだ。



 アリスが着せられたのは、今のレンガスからは想像もつかないくらい少女趣味な型の、赤いチェックのワンピースだった。袖口や襟元にもレースやリボンがついていて、布のさわり心地もとても気持ち良い。こんなに可愛らしく仕立ての良い服に袖を通すのは初めてで、アリスは何だかどきどきしてしまう。


「そんな不安そうな顔するんじゃないよ。あたしの見立てが似合わないわけないんだからね」


 レンガスはアリスの肩に両手を置いて、言葉の割に優しい口調で言った。


「さあ行くよ。男どもが待ちくたびれちまう」



 小屋の奥からおずおずと進み出たアリスを迎えたのは、あんぐりと口を開いたヴィッセラーダと、無精髭を剃り終えたレータの目を見開いた姿だった。


「ど、どうかしら? おかしく、ない?」


 自信なく問いかけるアリスに、男二人ははっと姿勢を正す。


「似合ってる」


 まずレータがきっぱりと言い切った。


「すげえぞ、嬢。人形みたいだ。えらい可愛い。驚いた。ばあさん、本当にこれ昔着とったのかね? ばあさんに似合うとは到底思えねえんだが……」


 ヴィッセラーダは何かに騙されてるんじゃないかと疑うような口調でうなる。


「あたしにだってこういうのが似合う娘時代はあったんだよ。あんたみたいに想像力の乏しい人間には考えられないかもしれないけどね」


 レンガスはヴィッセラーダに向かってそう答えると、今度はレータに向き直り、値踏みするようにその顔を凝視した。


 髭を剃ったレータはあか抜けない印象も一緒に剃り落としたようで、意外と精悍な顔立ちがはっきりと現れている。表情はいつも通り、何を考えているのかいまいちよくわからないものだけれど、ヴィッセラーダのお下がりではなくちゃんとレータの丈にあった服を着ているせいもあって、何だか格好良い、とアリスは思う。


「ふん、いつもそうやってきちんとしてれば、あんただって見れない顔じゃないんだよ」


 レンガスもどうやら褒めているらしい意見を口にする。レータがそれにごく控えめな微笑と礼を返したことで、二人の間のわだかまりは消え去ったようだった。


 それからは妙に遠慮したようなぎこちなさも消え去り、夕食の間中ずっと和気藹々とした空気が場を満たしていた。アリスとレータが持ってきた食事は少し冷めていたけれど豪華で美味しく、レンガスの用意した素朴なスープも全員の体を芯から温めてくれる。


 レンガスは普段の三人の日常について聞きたがり、レータが朴訥と、しかし面白おかしく語ったヴィッセラーダの失敗談には手を叩いて喜び、家事仕事が中心のアリスの話も役立つ忠告を交えつつしっかりと聞いてくれた。



 夕食後、レンガスとヴィッセラーダが暖炉の前へ移動して話し込んでいる間に、アリスとレータは食事の後片づけをした。一通りテーブルを片付けた後で、レータはまだ開けていなかったバスケットから小さな包みを取り出し、アリスの元へやって来た。


「これ、プレゼント。あんまり上手くできてないけど……」


 レータは頑なに床を見つめながら、綺麗な布にくるまれた球体らしい何かを差し出した。


「レータが作ってくれたの? 私に?」


 驚いて見上げるアリスに、レータは赤くなった頬をごまかすように眉根を寄せながら頷く。


「開けてみても良いかしら?」


 やはり視線を逸らしたまま頷くレータに、アリスは微笑みながら包みを開いた。


「わあ……!」


 アリスは思わず感嘆の声を上げる。

 包みの中から現れたのは、両手に収まるくらいの小さなスノードームだった。透明な球体の中には、ヴィッセラーダの船の小さな模型が入っていて、生誕祭の飾りをつけたサボテンと一緒に砂の上に並んでいる。球体を満たす水には常に対流が起こっていて、静かに白い雪が舞い踊っていた。船の窓には暖かな光が灯っている。その中に小さなアリスやレータやヴィッセラーダがいて、本当に生活しているんじゃないかと思えるくらい、心地の良い暖かさがじんわりと伝わってくる。荒々しい砂漠も、この球体の中ではとても静かで綺麗だ。


「どう、かな?」


 思わずじっと見とれていたアリスは、レータの声にはっと顔を上げ、それから心底嬉しそうに顔中で笑った。


「ありがとうレータ。わたしとても嬉しいわ。本当に嬉しいの。だってこんなに綺麗なんだもの。あなたはいつも心の中に、こんなに優しい風景を抱えているのかしら? それってなんだかうらやましいことね。ああ、でも、本当に綺麗。ありがとうレータ。大事にするわ、絶対よ」


 どうにか気持ちを伝えようと一生懸命に話しながら、アリスの視線は再びスノードームへ戻っていく。言葉よりも何よりも、その笑顔と瞳が雄弁に想いを語っていて、その様子を見守るレータの顔にも、いつの間にか穏やかな微笑みが宿っていた。



「……ひ孫が見れる日も近いね」


 暖炉の前から無表情で二人を見守っていたレンガスが、おもむろに口を開く。


「あいつら俺様の子どもじゃねえぞ?」


 ジョッキで麦酒を空けていたヴィッセラーダは、不思議そうに首を傾げた。


「馬鹿だね。同じようなもんだろ?」

「む? そうか?」

「その理屈で言えば、あんただってあたしの子どもじゃないことになるよ」

「おお、そういえば」


 今思い出したと膝を叩くヴィッセラーダに、レンガスは呆れ顔だ。


「まったく……相変わらずだね」


 わざとらしくため息をつくレンガスの視線の先では、アリスが嬉しそうにスノードームをのぞき込んでいる。その姿を見守るレータの瞳は優しい。

 レンガスは幸せそうに目を細め、こう評価を下した。


「まあ、いい子たちなんじゃないかい? あたしは満足だよ」

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