相沢唯愛

春を喰らう犬がいた。

轟々と哭きながら、春を喰らう犬がいた。

春を呑み込み、口からサラサラと夢を零す犬がいた。

星と月の無い夜と同じ色した犬がいた。


夏を喰らう犬がいた。

呵呵と笑いながら、夏を喰らう犬がいた。

夏を呑み込み、口からドクドクと鮮血を零す犬がいた。

アスファルトを灼く太陽と同じ色した犬がいた。


秋を喰らう犬がいた。

ゴホゴホと咳き込みながら、秋を喰らう犬がいた。

秋を呑み込み、口からゼイゼイと命を零す犬がいた。

朝靄を蹴散らす凩と同じ色した犬がいた。


冬を喰らう犬がいた。

何の音も立てないままる、冬を喰らう犬がいた。

冬を呑み込み、口からボロボロと吐息を零す犬がいた。

凍てつく空に張り付いた雲と同じ色した犬がいた。


私を喰らう犬がいた。

ドクドクと脈打つ心臓を持った、私を喰らう犬がいた。

私を呑み込み、その両の目から涙を流す犬がいた。

私と同じ色した犬がいた。


春を喰らう犬がいた。

夏を喰らう犬がいた。

秋を喰らう犬がいた。

冬を喰らう犬がいた。

私を喰らう犬がいた。

私の心に犬がいた。

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