第11話

「殿下ぁ、このままでぇ、宜しいのですかぁ」

「よい訳があるまい。

 メイヤーの馬鹿が失敗するから、余まで愚か者と言われているではないか。

 そもそもシャーロット、御前がやると言ったのだぞ」


「そうですがぁ、私もぉ、養父がぁ、あれほど馬鹿とはぁ、思いませんでしたぁ」

「まあ、それは分かっているが」

「次はぁ、必ずぅ、成功させないとぉ、殿下がぁ、馬鹿にされますぅ」

「そうだな。

 次は絶対に成功させねばならん」


 最初は、時間をかけてサライダ公爵家を潰す心算だった王太子殿下だが、シャーロットの誘導で、今直ぐ自分が直接手を下してでも、潰さなければいけないような気になっていた。


 側近を使って集めさせた噂が、自分を馬鹿にするモノばかりだったことも大きかった。

 シャーロットに誑かされている側近が、王太子の判断を更に狂わしていた。


「直接ぅ、兵を送る前にぃ、火竜の砂漠をぉ、灌漑しましょうぅ」

「なに。

 やってくれるのか?」

「殿下の為ならぁ、やって御覧にいれますぅ」

「そうか。

 これでまた余の評判が高まるな」


 シャーロットは馬鹿ではなかった。

 王宮内での言動は、聡明さを感じさせるモノだった。

 だが王太子と二人きりで接する時は、愚かで可愛い女を演じていた。

 それが、王太子の自尊心を刺激していた。


 そんなシャーロットが、王太子の名声を高めるために、灌漑不可能と言われた、火竜の砂漠を更に灌漑させるというのだ。

 苛烈な税を課すことで、一時は多くの税を得ていた王太子直轄領も、領民全てが貧困にあえいでいては、税収が農園収入だけになるのも当然だった。


 そんな状態で贅沢な生活が出来るのは、シャーロットが創り出した火竜の砂漠の農園があるからだった。

 火竜が住むと言う伝説がある砂漠で、建国以来何度も地下用水路が引かれ、灌漑が試みられたが、その都度オアシスの水を無駄にするだけだった。

 その火竜の砂漠の灌漑に成功した事が、王太子の収入を激増させ、後継者としての絶対的な地位を築かせた。


 第一王子だったから、王位継承権は一位だったし、後継者争いによる内乱を嫌った父王から、早々に王太子に任じられてはいたが、度々愚かな行動をとっていたので、王太子の地位を剥奪する話まで出ていたのだ。

 それが、火竜の砂漠の灌漑に成功した事で、劇的に話が変わった。


 愚かで癇性な所はあるが、天下国家の大所高所は、理解している方だと言われるようになった。

 全ては、シャーロットが成り上がるためにやった事ではあったが、王太子の名声を高めることになった。

 今回のメイヤー公爵の失敗によるとばっちりも、更なる火竜の砂漠の灌漑で取り返そうとしていた。


 そして名声を取り戻した後で、サライダ公爵家を攻撃する決意を固めていた。

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