第8話

「閣下!

 襲撃犯が捕まりました!」

「ふん。

 所詮下民だ。

 役に立たなくて当然だ。

 だがこれで、腑抜けのキャスバルは震えあがっているだろう」


 犯行失敗の知らせを受けたメイヤー公爵は、最初は歯牙にもかけていなかった。

 失敗した領民の事など、何とも思っていなかった。

 むしろサライダ公爵に恐怖を与えられたと、ほくそ笑んでいたほどだ。

 策は謀臣に丸投げしていたので、事の重大さに全く気が付いていなかった。


「閣下、いかがいたしましょうか」

「いかがも何もないわ!

 この愚か者が!

 地下用水路に毒を流して、タダで済むわけがないであろう!」


「そうは申されましても、私も何人もの仲介人を間に挟んでおりまして、どのような方法を取るかまでは存じておりませんでしたので」

「言い訳など聞きたくない。

 さっさと証人を始末しろ」


「はい。

 直ぐに手の者を使って、密かに始末いたします」

「さっさとやれ。

 一分一秒でも早く、口を塞ぐのだ」

「御意」

 

 メイヤー公爵は馬鹿だった。

 公爵として、堂々と犯罪者を逮捕させればよかったのだ。

 抵抗するように誘導して、皆殺しにすればよかったのだ。

 そうすれば、真っ黒に近い疑いは残っても、証人がいなくなる。


 だが、いつもの謀略と同じように、密かに始末をつけようとした。 

 それでは、即座に軍や警察を動かすよりも時間がかかってしまう。

 それに犯罪者ギルドは、身内の結束が固い。

 犯罪者の集まりだからこそ、仲間内で助け合わないと生きていけない。


 それは、身内以外は信じていないと言う事だった。

 特に貴族士族からの依頼は、裏切られる事を前提に受けていた。

 その為に最初から、依頼人を殺す事も、アジトから逃げ出す事も考えていた。

 今迄は、全ての依頼を成功させて、莫大な利益を手に入れ、犯罪者ギルドを強大にしてきた。


 しかし今回の依頼は、成功しても失敗しても、自分達が始末されると確信していた。

 王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動は、その日の内に耳にしていた。

 今回の依頼が、それと連動している事は、馬鹿でも分かる事だった。

 だが、その場で断ることは出来なかった。


 その場で断れば、直ぐに刺客が派遣されるだろう。

 いや、軍が派遣されると考えたのだ。

 それでは逃げる事も出来なくなる。

 だからいったん依頼を受けて、時間稼ぎをする事にした。


 犯罪者ギルドの身内ではない者を使って、襲撃は行わせる。

 犯罪者ギルドの面目にかけて、最凶の方法を使って、襲撃を行わせる。

 成功すれば、犯罪者ギルドの名を高めることが出来るだろう。

 本拠地を移すことになっても、依頼に事欠くことはないだろう。


 メイヤー公爵の手の者が犯罪者ギルドを襲撃した時には、既に犯罪者ギルドの本拠はもぬけの殻だった。

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