虹の裏側

春豆風

第1話 始まりの街

 2054年6月17日午前2時52分21秒

 経度177、緯度31

 北太平洋/フィリピン海を跨ぐように直径1500km超の巨大な“孔”が出現した。

 観測した人工衛星イラミーⅡは、わずか1秒にも満たない出現の瞬間を最後に通信が途絶した。


 当初この孔を巡り、全世界でどこの国の兵器開発だ研究事故だと責任の追及が繰り返された。人類の誰もが、この孔を人の手を超えたものだと信じたくなかったのだ。


 合衆国の調査期間が、未知の粒子を観測した頃には、すでに世界は分断され常識という理は一度白紙に戻された。

 地続きであったこの星は、広がった孔に引き裂かれるように隔てられ交流を絶たれた。



2089年3月21日午後4時22分36秒

 元アメリカ合衆国アリゾナ州はサンカルロスの地で、孔の上を通るための発明が成された。

 それは人類史上最も望まれた永久機関の完成であったが、その稀代の発明は日の目を見ることなく闇に葬られた。


 人々が愚かな話し合いをしている間に、人類はその歴史と共に真っ暗闇に敗北を喫する事となった。


 二千年の有史と一万の全史は廃棄され、新たなる神の隷属へと巻き戻る。

 危険はない。

 誤つこともない。

 安寧と平穏の下に、人々は発展を忘れ新たなる世界に生きる。


 教えは絶対である。


 そして、教えは教わったものではないのだ……と。

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