其の拾捌 「ノウケン様」{不}
ついこの間まで、お盆の行事だと思いこんでた実家の風習を書いてみる。
実家と言うか、正確には母方のばあちゃん家の風習なんだけどね。
その風習には、ある昔話が関係してるんだけど、それは確かこういう話だった。
そのばあちゃん家は山奥にあるんだけど、大昔は水不足で苦労した土地らしい。
そこで、地元のそこそこ裕福な家の人が、私財をなげうってまで溜め池とか用水路を作ったから田んぼで米が作れるようになったそうだ。
でも、用水路を造るぞって時に殿様、というか藩?からなかなか許可が下りなくって、さっきの人の母親が造らせてくれって嘆願したんだって。
で、「そんなに言うなら認めていいけどお前の命と引き換えで」って感じで認められたらしい。
うろ覚えで悪いんだけど、こんな感じの話をばあちゃんから聞いたことがある。
ここまでが前置きな。
で、ばあちゃんの地元っていうか、ばあちゃん家をはじめとする
隣近所の数軒の家では、盆の頃になると川べりのある場所で、見張り番を最低でも二人つけて、焚き火を一晩中燃やすって事をやっていた。
時期もちょうどお盆の頃だし、俺は普通に迎え火、もしくは送り火とかだと思ってたんだけど、実は違ってた。
俺も、最近になって火番をしたんだ。
そん時聞いた話によると、この火は
「ノウケン様」っていう、此処にいるモノに、
「ちゃんと用水路を造るための測量をしていますよ」
って知らせる為の物らしい。
ばあちゃんや親戚の話をまとめると、どうも「ノウケン様」っていうのは、先の話で出てきた、「裕福な人の母親」のことらしい。
何故こんな事をしてるかって言うと、用水路が出来た当時の真夜中、土手に不審な明かりが点っていたので、村人が見に行った。
そこには提灯を手に持った、裕福な人の母親の幽霊が出たそうな。
そこで、それを聞いた長老の提案によって、彼女に代わって火を点すことにしたんだと。
それは成功し、そうやって夏の頃に何日間か火を点せば、ノウケン様が出ることはないらしい。
でも時々、予想外のタイミングで明かりが点るようだ。
また、一人で火を焚いてはならない。
連れていかれるから。という話も聞いた。
実際、大正生まれのばあちゃんが子供の頃、一人で火番をしたところ、川に落ちて死んだ知り合いがいたそうだ。
まぁばあちゃん曰く、
「エンコウ(河童のこと)も出る」
とのことなので、そっちに引っ張られたのかも知れないけどね。
俺自身の体験としては、
一緒に火番をした叔父さんが用を足しに離れた時、ふと気がつくと数メートル離れた暗がりに、半分透き通った時代劇で見るような野良着の腰から下だけが見えた。
しばらくして、叔父さんが戻ってきた時に
「なんかいた!」
と訴えたところ、
「あー、ごめんなー。やっぱり出たかぁ」
って軽い感じで言われた。
やっぱりってなんだよと思ったので訊いてみたところ、トイレついでに煙草吸って来たとか言われて、もうめっちゃビビった。
それ以来不思議体験はないけど、火番はおばあちゃんの田舎で今でもやってる。
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