プラネタリウムの君の声

奴尾

第1話 へびつかい座

「お客様、終わりましたよ。プラネタリウム」


 いつまでもシートに座っていると、君が来てくれた。

 柔らかく声をかけてくれて、いつも通り「今日も来てくれたんですね」って話してくれる。



「今日はオリオン座の話だったね」

 と僕が言うと、


「ええ。昨日テレビで見たので、つい」



 私情です。と付け加えた彼女とお互い、ふふっと笑い合う。

「よいしょ」と立ち上がって、ゆっくりと非常口まで歩いた。


「明日もいらっしゃいますか?」


「うん。誰かにあげたいほど、時間あるからね」


「待ってますよ」


「毎日来てるストーカーに言うことじゃないよ」


「ストーカーしているのは、ドームにある天象機に、ですよね」


「へえ、そんな名前だったんだ」



 そして気付いたら、いつも科学館の玄関まで付いて来てもらっている。



「待ってますよー!」



 そしていつも、これでお別れする。








 ☆彡☆彡☆彡







「本日はA科学館までお越しいただき、ありがとうございます。さて、投影するまでの3分ほど、星座を幾つかご紹介したいと思います」



 そのあとは、いつも夢中で星座のことを話す。



 もうずっと、小さい頃から星が好きで好きでしょうがなかった。

 暇さえあれば星を見ていたし、夏休みなんて昼夜逆転してまで眺め続けた。

 なんで人間は星の見えない時に起きているんだろう。

 いっそのこと、自分たけ夜を活動時間にしようかしら、なんて思っていた。


 そんな私だからこそ、プラネタリウムを初めて見た時の衝撃はすごかった。


 将来の夢が、星から科学館のプラネタリウム解説員に変わった。

 そして一つ夢を叶えて、順風満帆…なんて、人生はそーんな甘くないなんてこと、分かりきっている。


 でも今は、プラネタリウムの余韻に浸っていたい。

 なんてったって、昼夜逆転しなくても星が見られるんだから。


 しかも、私の大好きなものほしを延々と語れるんだから。










 そして、そのうちプラネタリウムの常連さんに出会った。














 今日は、来なかった。













「あの人、来なかったねー」


 いつもロビーを掃除している先輩から声をかけられた。


「そうですね。何か用事があったのかな」


「来るって言ってたよね?」


「まあ、そうですね」


「ていうか、あの人結構イケメンじゃない?どう?タイプ?」


「タイプって…、というか先輩、いつもどんな目で見てるんですか」


「だってここ出会い無さすぎでしょ」


「先輩彼氏いるって言ってましたよね」


「イケメンは常に補給したいのよ」


「ちょっと言ってることが分からないんですけど…」



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