異世界でハーレム女王目指します!

ユリシーズ

第1話 女神リルスのお願い

「あれ、ここどこだ……?」


 いつものように高校の屋上で昼寝をしていたら、いつの間にか真っ白な空間の中にいた。


「これは夢?」

「夢じゃないわよ」

「うわっ!」


 あーびっくりした。


 突然私の目の前に純白の12枚の羽根をまとった女性が現れた。

 作り物めいた造形美に思わず息をのむ。


「天使?」

「んー惜しい。私は女神よ」


 なるほど。女神様か……。


「やっぱりこれは夢——じゃないんですね」


 女神様の表情が険しくなってきたので慌てて取り繕う。


 よし、ひとまず深呼吸しよう。


「すーはー。で、私はどうしてここに連れてこられたんですか?」


 これはアレだろうか。ライトノベルでよく見かける設定のいわゆる異世界転生ってやつ。もしくは異世界転移か。


「どう? 合ってます?」

「まあ概ねあなたの想像通りだけど、私があなたの心を読めるのは前提なのね」


 そりゃ神様ともあろうものが私如き凡人の思考を読めないはずがないですし。


「あなたが凡人……?」

「こほん。ひとつ聞きたいんですけど、私は死んだんですか?」


 もし命を落としてここに来たのであれば転生することになる。もし転生するのであれば、どうせなら今度は男に生まれ変わりたいな。男と付き合うなんてゾッとしない話だからね。


「あー、一応言っとくとあなたは死んでないわよ。だから転生ではなく転移という形になるわね」

「えー」


 また男どもの視線にさらされなければならんのか。いい加減うっとうしかったんだよね。いやらしい目で私のおっぱいとおしりをじろじろ見るなっての。あ、おっぱいは全然なかったから(Aカップ)胸に視線がいくことはほとんどなかったわ。ちくしょう(血涙)。


「気にしてるならおっぱいを大きくするオプションつけましょうか?」

「余計なお世話です」


 女神様に気遣われてしまった。女神様は爆乳なだけに余計に腹が立つ。


「話を進めるわよ。…では改めまして。一条凪いちじょうなぎさん、どうか私の造った世界ヴェルスに来ていただけないでしょうか?」


 口調を丁寧なものに変え、そう言って深々と頭を下げる女神様。


 んーいきなりそんなこと言われてもな。現世に未練は正直ないけど知らない世界に飛ばされるのは怖い。とりあえずいくつか質問して、それから異世界に行くかどうか決めよう。


「あ、ちなみに拒否権は——」

「ないわ♡」

「そーっすか。では一つ目の質問。どうして私なんですか?」

「私の好みだったから♡」


 ……は? いきなりの私の好み発言に頭がついていかない。


「これは私のお願いに関係する話なんだけどね……」


 女神様いわく、女神様は創作ではなく百合ハーレムをリアルに見てみたいらしい。それを聞いてますます私の頭上に疑問符が湧いた。


「私よく日本の漫画を創造して暇つぶしに読んでるんだけど」

「なにやってるんですか女神様」

「それで百合ものにハマっちゃってね。女天使を創造していちゃこらさせるのは簡単なんだけど、それじゃ面白くないというか」

「えーと、つまり?」

「つくりものじゃない生の百合を見たいのよ。で、その主役に私の好みであるあなたを抜擢したというワケ」


 なんじゃそりゃ。そのためだけに私異世界に転移させられるの?


「あなたにとっても悪い話じゃないと思うわよ。だってあなたどちらかというと同性愛者寄りでしょ?」


 自覚はなかったけど、改めて言われると確かにそうかもしれない。男と恋愛なんてミジンコほどにも考えなかったし、かわいい女の子は大好物だ。だからといって女と付き合うという発想はなかったけど。


「私が言うのもなんだけど異世界にはかわいい女の子がいっぱいいるわよ~。基本的に地球人と比較して美形揃いだから、日本のアイドルや女優なんて目じゃないわ」

「それは楽しみだ。でもふと思ったんだけど、そんなに美形揃いなら私の平凡な顔なんて見向きもされないんじゃ……」

「は?」


 今度は女神様に意味がわからない的な反応をされてしまった。


「ナギあなたね~。私が好みと言った意味を考えなさい。私が平平凡凡な顔つきの女を気に入るわけがないでしょ。ただでさえ我が子たちで美形には慣れてるというのに」


 わお、女神様けっこう毒舌ですね。


「とにかくあなたは自分の顔に自信を持ちなさいな。言っておくけどその美貌で『私平凡な顔なんですけど』なんて嫌味にしか聞こえないわよ」


 お世辞でもそう言ってもらえるとうれしい。


「この子どうしてそんなに自己評価が低いのかしら? ……あーなるほど。ナギ。あなた親に恵まれなかったわね」


 確かに私の両親はクソだった。思い出したくもない。


 幸い私はそのクソ親から早い時期に引き離され、優しい祖父母の元に引き取られた。もし私が祖父母のところに行かせてもらえてなかったら、私の性格はゆがみにゆがんでいただろう。


 その優しい祖父母はつい先日天に召された。私が現世に未練がないと言ったのはそういうことだ。学校では男には性的な目で見られ、女の子には遠巻きに見られてたから友達なんてのもいない。


 そんなことを考えていると、私は女神様にギュッと抱きしめられる。


「ナギ。あなた辛い人生を歩んできたのね」

「……すみません。ちょっと泣いていいですか?」


 私は女神様の胸でしばらく泣いた。

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