この世界に生まれて二十数年、人生最大のピンチが訪れた!

文月蜜夜

人生初の好機は同時にピンチである

 私の名前はルイ・ペリエット。25歳。転生者だ。

 よく覚えていないが事故にあって死んでしまったらしい。その後、役所みたいなところで書類を書いて提出したら異世界に赤ん坊で転生していた。何を言っているか分からない?大丈夫、私にもわからない。

 そんな私は田舎の村に住んでいる。この片田舎で私は買取所の受付所として3人の職場仲間と共に第二の人生をそれなりに楽しんでいる。職場の仲間たちは優しいし、村の人たちも親切にしてくれる。ただ1つ不満があるとするなら未婚だということだろう。

これでも顔はそれなりに整っており、15歳の時は村一番の美人と言われていたぐらいだ。しかし、運が悪いことに数歳上の年代は既に結婚しており相手がいない。ならば逆に下の年代はというと15歳離れた子しか男の子がおらず、その間には女の子しかいない。そもそも、15歳以上離れた子供に手を出したら犯罪だ。この世界でショタに手を出したら犯罪なのかは置いておいて…

 そんなわけで、私は25年間彼氏がいたことがない。前世も合わせれば50年近く彼氏がいない。悲しい。


 そんな私だが、今現在今世で一番の、それこそ人生における最大のピンチが訪れていた。


「お姉ちゃん!」


 可憐な少女の声で私を呼ぶ声が聞こえる。

 彼女はフィリア・エルウィッド。村人の中では珍しい艶やかな金髪で碧眼の瞳をしている。ストレートに伸ばされた髪は黄金の川のようで美しい。彼女は、第一線級のハンターで巷では黄金の勇者と呼ばれているらしい。そんな彼女が頬を染め熱っぽい視線で私のことを見つめてくる。同性だというのにその怪しい魅力に翻弄され眩暈に襲われる。


「お姉様!」


 そんな黄金の少女の横にもう一人。私のことを熱っぽく呼ぶ少女の声が聞こえる。

 彼女の名前はマナリア・スウェル・ウェルダウン。褐色の肌に、ふんわりとウェーブのかかった銀髪が夜空に浮かぶ天の川を連想させる。そして、そんな銀の髪を掻き分け一対の角が側頭部から伸びており、背中には蝙蝠のような翼、お尻付近から伸びる尻尾がゆらゆらと揺れる。そう、彼女は人間ではない。魔族、それも魔王の実の娘でお姫様だ。そして何より目を引くのがそのたわわに実った果実だ。でかい。それはもう説明不要な程でかい。Fカップ以上あるのではないだろうか…正直、羨ましい。


「「と結婚を前提にお付き合いしてください!!」」


 そんな女勇者と魔王の娘に求婚されていた。どうしてこんなことになってるんだ…

 私は天を仰いだ。あぁ、神様。一体私が何をしたというのですか…


「えっと…私たち女同士だよね…?」

「関係ありません!私は子供の時からお姉ちゃんと結婚するために頑張ってきました!!」

「魔国に同性婚を禁止する法律はないのです!なので、大丈夫です!!」


 いや、回答になってないんだけど…

 でも、考えてもみよう。そもそもこの村には出会いがない。男はいるのに皆既婚者か年齢が足りないせいで彼氏に使用にも人がいない。その点、告白してきた彼女たちはどうだろうか。どちらもかなりの美少女でなんと私に好意を抱いてくれている。財力も申し分ないだろう。フィリアは第一線で活躍するハンターで竜種も何度も狩ったことがあるらしい。その実力は折り紙付きだ。

 片や、マナリアは魔族の姫。言うまでもなくお金持ち。尚且つ、マナリアは魔術研究者として優秀な成果を収めていると聞いたことがある。彼女が作った魔法は魔族全体の魔法水準を一気に30年は進めたといわれている。


 …ありでは?正直、50年…半世紀近く生きてなお彼氏ができないのは私の人生が呪われているからではないだろうか。この際女同士でもいいのではないだろうか。しかし、問題がある。どっちと付き合うかということだ。


 選べない。誠実じゃないだろうとなんとでも言うがいいさ。

でも、こんな美少女2人から求婚されて同性とはいえ断れる人物はいるだろうか?――否、いない。断言しよう、絶対に居ない。二人とも娶ろう。いや、二人ともに娶られよう。きっとそれが私の運命なんだろう。


 覚悟を決めろ、ルイ・ペリエット。


「二人ともそんなに私のことを思ってくれてたんだね…」

「お姉ちゃん♡」「お姉様♡」

「こんな事を言うのは不誠実かもしれないけどどっちかだけなんて私には選べない…」


 心臓が早鐘の様にうるさい。こんな答え方をする私はずるい女だろう。彼女たちに嫌われたとしても仕方ないだろう。

 彼女たちを真っ直ぐ見つめ不安そうに揺れる瞳を見ながら言葉を紡ぐ。


「私を二人のお嫁さんにしてください」


 勢いよく頭を下げる。

 二人から困惑したような気配を感じる。


「お姉ちゃん…」「お姉様…」


 心臓の鼓動がうるさい。

 どうなるかは一切わからない。

 どくどくと高鳴る心臓、もしかしたらこの音は外に聞こえてるんじゃないだろうか…それほど緊張している。


「えっと…お姉ちゃん顔上げて?」

「うん」


 フィリアに言われ顔を上げる。

 赤くなっているのがわかるぐらい顔が熱い。


「妾たちの告白を受け、両方のお嫁さんになると…そういうことですよね、お姉様?」

「うん」

「どうします?フィリア?」

「うーん、本当はお姉ちゃんを独り占めしたかったけどマナリアちゃんとなら私はいいよ?」

「ということなので、お姉様は今日から妾とフィリア共通のお嫁さんです!」

「じゃ、じゃあ!」

「「末永くよろしくお願いします!お姉ちゃんお姉様」」

「こちらこそ、末永くよろしくおねg――「ちょっと待ったぁああああああ!!!」—―へ?」


 返事をしようとするとどこからともなく声が響く。

 声がした方を向くと、流星のような速度で箒にまたがった茶髪縦ロールの少女が近づいてくる。


「…二人だけ先行するのずるい。…セッカもルイ姉と結婚したい」


 隣から小さな声が聞こえてきた。

 いつの間に手を繋がれたのか、雪のように全身が白い少女が私の手を掴んでいた。

 そして、私の隣に箒から降りてきた少女が近づいてくる。


「アタシだってルイと結婚したいわよ!ていうか抜け駆けしてんじゃないわよ!!」

「レインちゃんに、セッカちゃん!?」


 フィリアが驚きの声を上げる。

 箒に跨っていた魔女っ子エルフがレイン・アルバトレーヌ。茶髪碧眼で縦ロールが特徴的な勝気の女の子。エルフ族随一の弓使いで魔法を付属した様々な矢を使って戦う子だ。

 もう一人、私の手を握っている子がセッカ・アマノ。雪のように白い肌。上質な絹のように手触りの良い薄水色の白い髪。眼だけが赤く光っている。この白さはアルビの体質ではなく、彼女の種族によるものだ。彼女は東洋の国に伝わる妖族の雪女なのだ。握られている手からはひんやりと冷たい彼女の体温が伝わってくる。


…て、あれ?この二人も私と結婚したいって言ってなかった?


 私の頭が状況を整理できず混乱してるとグイッと体を引かれ体勢を崩す。

 体勢を崩した私をマナリアは支えると、お姫様抱っこする。セッカの手は私が転びそうにになった際驚いて手を放していた。


「もう追いついてきたのか…フィリア逃げるよ!」

「りょーかい!」

「え?ちょ、まっ!」


 マナリアが私を抱えたまま全速力で走る。

 森の木々が一瞬で過去の風景に代わり、それだけでマナリアがどれだけのスピードを出しているか分かる。そのくせ、お姫様抱っこされている私にはほとんど衝撃が来ないのだから一体どんな修練を積めばそんなことが可能なのだろうか…というか、マナリア身体能力高すぎない?バストだけじゃなく全てにおいて完璧なの?

 そんな思考をしていると私の顔の横を矢が通り、ビタッ!と空中で制止する。いや、私自身神速で放たれた弓は見えていなかったがフィリアが片手で矢を掴んでいる状況から察するに矢を放たれたのだろう。


「絶対逃がさないわ、アタシの王子さま」

「…セッカだってルイ姉を諦めない」


 セッカは地面を凍らせると山肌を滑って移動する。

 対してレインは木から木へ飛び移り移動する。エルフは自然と調和する人類族。森の中はお手ものだ。


「マナリアちゃん、あの二人は任せて!」

「任せるよ!」

「その代わりお姉ちゃんをお願い!」

「任せて!」


 短く言葉を交わすと二人は追跡者二人から逃げる。

 まだまだ逃走劇は始まったばかりだった。


 最後に一つだけ言っておこう、私の人生最大の危機。どうしてこうなった!?

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この世界に生まれて二十数年、人生最大のピンチが訪れた! 文月蜜夜 @7moonMituya

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