ヤクザな商売

真野てん

act.1 [宮殿前広場/公開処刑]

[宮殿前広場/公開処刑]


 ゆらゆらと陽炎の燃える熱砂の国。

 王のおわす宮殿玉座は遠く広場に集った民衆らを見下ろしている。


 嘆きにゆがむその顔を。


 恐怖に怯えたその声を。

 

 救うべき者達の悲しみを吸い上げて、王が作りし処刑台はそびえ立つ。群衆の中央、逃げることも目をそむけることも禁じられた只中に、一本の巨大な丸太が吊り下げられている。さながら中世の断頭台。はね飛ばすは罪人の首ではなく、民衆の心。

 

 今また群衆の壁を割って、男が引っ立てられてくる。とても身なりのいい、少なくとも上流層の人間であることがうかがえる。両脇を武装した兵士に抱えられ、声が涸れてもなお泣き叫び続けて引きずられてきた。


 彼は群衆の中央、そうあの巨大な丸太の下にて組み伏せられる。

 そしてにわかに彼に対する罪状が読み上げられた。


「……右の者、こたび国王陛下への不敬これあり。その罪をもって潰頭の刑に処す。ならびに金銭の不当なる隠匿これあり。著しく国家への不利益となるは明白であり、これ詮議にあたわじ。即刻処罰せよとの陛下の仰せである。また右の者、白昼堂々と酒に酔い、戒律につばせし行いは言語道断である。よって末代までの身分を取り下げる処分とする」


 浪々と読み上げる男の手には、彼が犯したとされる罪が事細かに書き連ねた書簡がある。

 組み伏せられた若い貴族は、断末魔の形相で「違う!」と最後まで否定していた。

 やがて罪状が読み終わり、書簡が巻き上げられる。するとそれにならうかのように、彼の頭上にある巨大な丸太も同時にキリキリと天高く吊り上げられた。


 使い込まれた滑車が矢倉を軋ませながら回転する。ロープを引っ張る屈強な男達は、その褐色の肌に珠の汗を噴出していた。


 いよいよ若い貴族の叫び声は狂気を帯びる。不条理に打ちのめされた悲痛な姿。


 それを見て群衆達は皆一様に青い顔をしている。明日は我が身と思いながら、今まさに死にいこうとする男の狂乱を目の当たりにした。


 もはや逃げられない。手足をつながれた大地はすでに何百人という人の血を吸って、どす黒く変色している。彼の流した涙など、雨露ほどに目立ちはしない。


「た、たすけて~! たすけてく――」


 ついに処刑は執行された。

 罪状を読み上げた男の合図で、巻き上げられた丸太が一気に地面へと叩きつけられる。


 ぐしゃり。


 潰頭台は読んで字の如く、頭部を潰す器具である。ゆえに“鉢割り”とも呼ばれ、この国はおろか海外にまでその名を轟かせている。


 処刑された男の頭はトマトのようにひしゃげている。すでに原型すら留めていないだろう。丸太は引き上げられずにそのままだった。ただ残された首から下の胴体だけが、兵士の手によって広場の中央から引きずられていく。


 その光景を見て群衆達は恐怖にすくんでいる。


 しかしその中には、ただ怒りによってのみ打ち震える不屈の輝きを放つ眼差しがあった。


 群衆にまぎれてひとり爆発しそうな憤りに耐えている。頭から覆う布で顔を隠し、その小さな身体を民族衣装で包んでいる。大人にしては小さく、子供にしては目に憂いが満ちていた。


 だがその瞳の輝きは、こんな時代にも消え去ることのない正義を象徴しているかのようだった。


 やがて巻き起こるこの国の奇跡を、その目には人知れず予感させるものがある。


〈つづく〉

























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