第6話 キャッチ&リリース
がちゃ、ばたん。
「お、お久しぶりです、皆さん」
「アフロ」
「ギャル……姉さん」
「ええっと、なんだっけ。ああ、ロッくんだ」
「ロッくん、自分のあだ名忘れないのぉ」
「うるせぇ、お前らが勝手に決めたんだろ。気に入ってないんだよ、俺は」
「じゃあ何がよかったんだ」
「……ビリー」
「ぶはっ、ビリーだってぇ似合わない似合わないぃ。絶望しちゃうよぉ私はぁ」
「あぁうるせぇ。わかったよ、ロッくんだよロッくん。それでいいよ」
「じゃあ、もう一度」
「あ。お、お久しぶりです、アフロ、ギャル姉さん、ロッくん」
「お久しぶり、ワンピース」
「お久しぶりぃ、ワンピースぅ」
「お久しぶり、ワンピース。生きてたんだな?」
「あ、はい。い、生きてしまいました」
「しまいました、は無ぇだろ。しまいました、は」
「そこのロリータ・コントラストはぁずっと心配してたよぉ」
「もうツッコミにくいんだよ、そのボケ」
「ホント、どうしてるかは気になってたけど、また会うとはね。もう二ヶ月経ったからね。もう逢わないと思ってたよ」
あの日から二ヶ月。
あの日は結局海に着くこともなく、身柄を確保すべき少女が乗った誘拐犯らしきアフロ頭の男が運転してる車に、果敢に体当たりをかました正義感溢れる無鉄砲な警察官殿の功績により事態は収束に向かった。
俺達は、飛び降り自殺を目論んだ少女の誘拐犯として警察に連行される。
数時間で済むかと甘く見てたら数日間もかかった事情聴取の末に、解放。
「わ、私が、い、言うことを聞いてくれないと、じ、自殺しますと、お、脅しました」
と、ワンピースが言ったとか言ってないとか。
とりあえず俺達は、警察にお説教を散々言われて解放された。
「ま、普通なら捕まってるよな」
「普通ならねぇ。カツ丼食べたかったなぁ」
「それって自腹らしいな」
「嘘ぉ。なんか夢、ぶち壊しぃ」
どんな夢だよ。
古い刑事ドラマの見過ぎなんだよ。
「んで、今日の用事は何?」
アフロがハンドルにもたれかかって聞く。
ミラーにはアフロ頭だけが写る。
「お、お礼がいいたくて、き、来ました」
「お礼参りぃ」
「意味違ってくんだろ、それ」
「お礼とか別にいいよ。何かしたわけじゃないし。キャッチ&リリースも失敗したわけだし」
「リリース失敗って事はぁ、バケツに入れっぱなしぃって事ぉ?」
ギャル姉さんの言葉に、アフロはアフロ頭をぽんと叩いた。
いつから閃いた合図になったんだそれは。
アフロキャラ、作り出してないかお前。
「そうだよ、良いこと言うなぁギャル姉さん。よぉし、海に行こう。リリース再挑戦」
ぶるるるるるるるる。
エンジンがかかったと思ったら、いつもの急発進。
ワンピースは、シートベルトをしてなかったので前のシートに顔面直撃。
「あ、あの、わ、私……」
「ああ、知らない知らない。キミの事情とか知らない、聞かない、聞いてない、気にしない」
「あ~あ、ダメだこりゃ」
鼻頭を擦りながら、ワンピースが困惑した顔で俺の方を見る。
とりあえず、シートベルトを締めろとジェスチャーしておく。
「この車、いつも目的地は決めずに走るんだけど目的地が決まったら何がどうしようがそこに向かって走るルールなんだよ」
「アフロのぉ一存~」
俺とギャル姉さんは笑った。
ワンピースは困った顔のままだった。
「こ、困りますよ、わ、私塾がありますから。ぐ、偶然見つけたんで、あ、挨拶しようと思った、だ、だけですから」
「休んでも構いはしない。そんなもんで世界は変わらない、変えられない、気にしない」
「今度はぁ紛れもなく誘拐だねぇ」
「うぉぉい、不吉なこと言うんじゃねぇよ。もう説教地獄は嫌だ」
「年中聞いてるからぁ?」
「その通り。ってうるせぇ」
俺とギャル姉さんのつまんない漫才もそっちのけで、アフロは運転に集中しだして、ワンピースはそのアフロを見つめていた。
「わ、私を海に連れてって、な、何か意味あるんですか?」
「意味なんてあるかどうか関係無い、興味無い」
「じ、じゃあ何で?」
「やり残しがあるのが嫌なんだよオレは。すげぇ気になるんだ。気にしない、と心に決めてもいつか気にしてしまうんだ。心残りになってしまう。それは嫌なんだよ。こんな面倒な世の中に、これ以上面倒な私情を遺して死にたくはないんだ。立つ鳥跡を濁さず。それがオレのモットーだ」
「でかいアフロがぁ人々にぃ余韻を残しますがぁ、そこら辺はぁ気にしないんですぅ」
ギャル姉さんはいつも通り、アフロに小突かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます