第4話 ロックンロール

「ロックンロール節、炸裂だねぇ」


「シラフなのにぃ、いつもより熱いねぇ」


 アフロとギャル姉さんは、ねー、と声を合わせた。


 これで三回目。


 お気に入りですか、そうですか。


「ろ、ロックンロール?」


「そ。ロックンロール。彼はロックンロールを熱く語る男なのだ。だから、ロッくん」


「でもぉ、ビートルズもジョン・レノンもボブ・ディランも語れないんだよぉ。ましてやぁ、エアロスミスとかクイーンとかも語れないしぃ」


 ミラーを見なくても前の二人が笑ってるのはわかるし、隣の少女が不可思議な顔でこちらを見てるのはなんとなくわかった。


「うるせぇ、知識を語るのがロックンロールじゃねぇ、ロックンロールは魂を語るんだ!」


「イェェ、ロックンロール」


「イェェ、ロックンロールぅ」


「い、イェェ、ろ、ロックンロール?」


 三人に言われて何だか小馬鹿にされている気分になった。


 ふてくされたところで、小馬鹿にされるのは決まってるので、俺はこんな事ではめげない。


「あ、あの、わ、私はそういうのはわからないんです。そ、その、ろ、ロックンロールとかって考え方」


 睨まれる事は無くなったみたいだが、視線からするとむしろ距離を取られたように感じる。


 俺は、未知の生物扱いか。


「わかんない、でいいよ。オレ達もわからないもん」


「わかんなぁい」


「お前らなぁ……」


 アフロとギャル姉さんの頭が愉快そうに揺れる。


 結局、こいつらは俺を小馬鹿にして楽しんでるだけじゃないのか?


「人それぞれ、考え方があるんだよ。飛び降り自殺だって、ワンピースが考えた一つの結論、答えなんだからロッくんが否定しちゃっていいもんじゃないと思う」


「自分で死ぬなんて結論、俺は断固反対だし否定だし認めないね」


 思っても願っても叶えたくても、行っては駄目だ。


「私たちはぁ、別にワンピースを説得するために乗せたんじゃなくてぇ、成り行きで乗せちゃったわけじゃん。だからぁ、ワンピースの人生には介入いたしませぇぇん」


 今度は、いたしませぇぇん、とアフロとギャル姉さんは声を合わせた。


 無責任だなこいつら。


 でも、俺はいつから責任を感じていたのか。


 てか、勝手に責任を感じてるのは俺じゃないか。


 てか、責任って何?


 目まぐるしく頭に責任の文字が駆け回る。


 責任なんて、嫌いだ。


 初めの目的地、ワンピースの落下予定地だった場所にはパトカーが止まっていた。


「おお、予想的中」


 アフロはそう言ってアクセルを踏み込んで、その場を通り過ぎた。


「さて、ワンピース。空には行けそうにないんで、もう一度質問だ。何処に行ってほしい?」


 ワンピースは車の窓から上を見つめていた。


 上、彼女の行きたがってる空を。


「あ、あのそれじゃあ、う、海が見たいです」


「わぉ、ノッキングヘブンズドアぁだねぇ」


「いいね、ノってきた。了解だ、オレ達は海に向かう」


 まだ海開きしてもないし、夏前の海って冬の海より寂しいんだぞ。


 嵐の前の静けさみたいな空気漂ってんだぞ。


 それでも行くのか、お前ら。


 止めはしないけどな。


「出発進行ぅ」


「イェェ、ロックンロール」


 ノリノリな前の二人組に合わせる様に、車の後方からサイレン。


「げ、もう見つかった」


「ワンピース拾った時に、誰かにカーナンバーとか見られたんじゃないのか?」


「いやいやぁ、違うでしょぉ。カーナンバーより目立つもんあんでしょぉ」


「何だよ、一体?」


「そのアフロ」


 ギャル姉さんの言葉に、ワンピースがむせていた。

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