海が太陽のきらり
京路
第1話 浄化隊の少年
夏期のセクション552は灰色に沈んでいた。
俺は、厚い雲に覆われた空を眺める。瘴気と磁気嵐が織りなす地球の蓋だ。アーカイブによれば百年も前なら夏期は太陽という恒星が照らしていたようだが、今の時代、
もちろん、二等民である俺はそんな光景、見ることはできないわけだが。
結局、荒廃したこの星のどこへ行こうと、
「何をしてる海斗。行くぞ」
親父が俺を呼んだ。
隊の最後尾をついていく。道々には、繁殖した巨大植物に突き破られた家屋の残骸が散見する。瘴気に飲まれた集落だ。
「そういや、親父はセクション552、知ってるんだっけ」
「……昔、住んでいた」
短い答えは、初耳だった。
「へえ。じゃあ、懐かしいんじゃないの?」
「さあな」
親父が左手に視線を一瞬だけ向ける。
そこは崖になっていて、眼下には淀んだ緑色の海が見える。高濃度の酸が泡吹き、瘴気をボコボコと生み出している。
この世界の荒廃の元凶。
昔から疑問だった。なぜ親父は、俺の名に忌々しい海の入れたのか。この海が見下ろせる土地が関係するのだろうか。
「なあ――」
親父に声をかけようとした瞬間、
瘴気の海の中に人影を見た。
「ンなっ」
ありえない。そもそも事前のブリーフィングでは、セクション552に人は住んでいないとのことだった。実際、大気中の瘴気の濃度は致死量だし、その瘴気を生み出している海の中など地獄そのものだ。
目を凝らすが、濁った瘴気が渦巻き視界を遮る。
「おい、親父、あれ――」
俺の言葉は轟音にかき消された。
振り返ると、廃屋が粉砕し、粉塵の中から黒い巨体が突き出てくる。
――
黒い甲殻と触覚。大きく開かれた口内に無数の触手がうごめいている。
視界の端で、親父が背負っていた浄化銃を構えるのが見えた。即座に電磁パルスが装填、銃口から濃縮したエネルギーが紫電となってにじみ出る。
砲火。
空気を焦がす軌跡を残し、
それが、いけなかった。
首だけになった
「うおっ!」
とっさにかわそうと体が反応し、思わず後ろに飛びのく。
だが、そこは崖だ。
「あ――」
一瞬の浮遊感。
遠のく親父の背中。
俺の意識は、そこで途絶えた。
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