第13話 説教と告白と

「雅美ちゃん」

「はい・・・」


 私は今幸子さんの家で幸子さんに説教をされている。今正座とまではいかなくとも、私がソファーに座っていて幸子さんがその前に立っていて、つまり見下ろされている形で説教をされている。


「なんでもう少し自分を大切にしないの?」

「すみません」


 私が清水先輩の家にお泊りしたことを美智子から聞いて幸子さんはとても怒っているようだ。


「なんで・・・もう馬鹿・・・」

「え・・・?今なんか言いました?」

「いや、何でもない。」


 何か幸子さんが小さい声でつぶやいたのは分かったのだけど、私は上手く聞き取れなかった。聞き返したのだけど、幸子さんは焦ったみたいに言葉を濁してしまった。


「雅美ちゃん、これからさ、こんなこと無いようにしなきゃ私悲しい」


 本当に辛そうに言う幸子さんに何も言えなくて、私はどう答えたらいいのか正直わからなかった。自分がとんでもないことをしでかしてしまったということは幸子さんの表情から分かっている。幸子さんにとっては可愛い妹分を心配するということなのかもしれないけど、それって家族みたいに特別だからということだろうから。私はそれほど心配される存在なのだという事は少し嬉しくもあったりするのだ。


「幸子さん・・・私、ごめんなさい。もうしませんから、そんな顔しないで」

「・・・うん」


 そんな顔されちゃったら私、幸子さんにこんな感情抱いてしまってることますます後悔しちゃう。


「幸子さん優しいですね。私幸子さんみたいなお姉さんができて嬉しいです。」

「え・・・?」

「だって、美智子が羨ましいって思ってましたから。」

「そうなんだ。」

「私一人っ子だから兄弟とかいなくてずっと兄弟欲しいって思ってて、こんな優しいお姉さんがいるのってやっぱりいいですね」


 そう私が言うと、幸子さんは驚いたみたいな顔をして、でも少し寂しそうな顔をした。


「じゃあ、雅美ちゃん約束してくれる?お姉ちゃんの前じゃなきゃ限度以上のお酒を飲まないって」

「えっと、それはいいですけど」


 それって幸子さんとだけはお酒を記憶無くすまで飲んでいいよ?ということなのだろうか。しかしながらそれは非常にまずい事だったりする。好きな人の前で記憶を無くしてはいけないでしょ。手出しちゃったかもなんて後悔するかもしれないし、

 何よりも幸子さんの前であんまり恰好悪い姿を晒すのはいただけない。後悔するまでは飲まないように心に決めた。


「記憶無くすまでは飲まないことに決めました。しばらくは禁酒します」

「禁酒するの?そっか・・・」


 え、何か残念そうなんですけど幸子さん。私は何か間違えてしまったのだろうか?


「幸子さんとだったらいいですけど」

「ほんとに?」


 次は嬉しそうにする幸子さんに驚く。幸子さんは私と飲みたかったのだろうか?わけがわからなくなって幸子さんをただただ見つめていた。


「じゃあ今日飲む?家に少しお酒あるけど」

「あの、幸子さん?」

「お酒はいいですけど、まだ朝なんで夕方にしません?」

「あ、そうね。うん夕方にしよう」


 幸子さんは今日は何だか変な気がする。昨日呼び出されて、今日の朝から私は幸子さんの家に来たわけだけど、怒ったり悲しい顔したり、そして笑ったり。色々な表情が見れて嬉しくはあるのだけど、少しいつもと違う気がするのだ。


「幸子さん、もしかして私に何か言いたいこととかあります?」

「言いたい事っていうのはないかな」


 いつも大人で余裕がある幸子さんなのだけど、今日は何だかそわそわしてる気もするし。


「彼氏いないんだよね雅美ちゃん」

「え、いませんけど」

「でも、清水さんのとこにお泊りしたんだよね」

「それはそうですけど」

「それってやっぱり・・・」

「ち、違います!それはなかったんです本当に」

「雅美ちゃん可愛いからわかんないじゃん。清水さんだって我慢できないでしょうし」


 それに清水さんイケメンでしょ?とさらに言ってくる幸子さんに私はというと完全に焦りまくってしまっていた。


「先輩じゃなくて、私は幸子さんがいいんです!」


 しまったと思った時には遅かった。私は言ってしまっていた。なんで今何だろう。幸子さんは清水先輩とのこと聞きたかっただけだったはずなのに。


「えっと・・・」

「私がいいって?」

「私、幸子さんが…好きみたいです」


 これほど幸子さんの顔を見るのが怖いと思ったことはない。私はうつむいたまま幸子さんの言葉を待った。


「雅美ちゃん顔上げて?」

「っ」

「大丈夫だから。」


 そう言って幸子さんは私を抱きしめてくれた。言葉なんてどうでもいい。私は幸子さんの柔らかい腕に包まれていた。幸子さんはその後は何も言わなかった。しばらく抱きしめてくれた後ゆっくり離してくれた。


「お茶入れるね」

「はい」


 お茶を入れにキッチンへと行ってしまった。さっきの私の告白は幸子さんに伝わったのだろうか。幸子さんは何も言わなかったのだけど、抱きしめてくれたということは分かってくれたということなんじゃないだろうか。


「雅美ちゃんはさ、恋愛ってどう思う?」

「えっと、好きな人同士が一緒にいて幸せな事ですかね」

「そうだよね。じゃあ結婚は?」

「んー、それ以上を望むならばするものでしょうか」

「それ以上か。それも悪くはないけどね。雅美ちゃんは将来好きな人と結婚したいとか思わないの?」

「それはあまり思ったことはないんです。昔から女の人ばかり好きになってましたから」

「そうなんだ」


 幸子さんは困ったようなそれでいて悩んだように私の話を聞いてくれた。私はそれから幸子さんに今まで好きな人とは上手くいったことが無い事、それで逃げてしまっていたことを正直に打ち明けた。


「雅美ちゃん告白ありがとう。嬉しかったよ。」


 幸子さんは最後にこう言った。これはやっぱり振られるってことだろう。次に出るのは「でもごめんなさい」に決まってるのだから。


「もう少し考えさせてくれるかな?」

「え?」


 幸子さんの言葉に驚いた。考えてくれるということは少しだけでもチャンスがあるということなんじゃないだろうか。絶対ダメだと思っていたのに、少しだけチャンスがあることにさっきまで落ち込んでいた心が急浮上したのがわかる。今日は少し話した後帰ることにした。お酒を飲むのは今度にしよう。幸子さんの提案だ。幸子さんが考えてくれている間私はきっとそのことばかり考えてしまうだろう。幸子さんもたぶん少しは私のことを考えてくれると思うと嬉しくてスキップしそうだ。幸子さんにこの思いが届きますように本当に大好きです。



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