なぜ私は安心して異世界転生を楽しめなくなったのか? 第一章 メアリー・スー救出編
@58jw4368
なぜ私は安心して異世界転生を楽しめなくなったのか?
私は安心して異世界転生を楽しめなくなったのか?理由ならいくらでもある。
自分の場合、ある出来事から異世界転生って奴をさせられた敗北者だが、行き先は酷い有様だった。
「タカさん。タカさん。今日もやられていますよ。」
サポート役のホムンクルス オムさんが駆け寄って来た。薄緑色のトーガっぽい衣服を着用し、背中には妖精的な羽が生え、茶色いショートカットの頭部には月桂冠を戴いている。小学生ぐらいの見た目で大変かわいい。だが男だ。
「あれがそうなのか・・。これで何度目だ?」
「そうは言ってもいられませんよ。これも彼女達にしたら仕事みたいなもんですから。」
俺とオムさんは早速中世ヨーロッパ的な街の石畳の広場に駆けつけた。そこには神殿があって正面には鉄の柱に括りつけられた少女がいた。見上げてみると、柱の上部には次のような看板が掲げられている。
『この者メアリー・スー罪により私刑云々。』と。
「とうとう捕まったのか。いったいどういうことなんだ?」
「転生者がサンドバックにする為に定期的に送り込まれるのですよ。」
「それはもう知ってる。オムさん、助けるぞ!」
俺は慎重に人だからに紛れも込み、接近しようと試みる。オムさんは姿を消して上空から接近だ。なら彼女だけにやらせれば良いではないかという意見もあるだろう。ところがどっこいそうは行かないのだ。
さて、俺は確認された三十三人目のメアリー・スーさんのご尊顔を拝し奉る。頭部はきらめくような金髪に飾られ、紅と碧のオッドアイ。典型的なメアリー・スーの亜種である。しかし、無残にも髪は引きちぎられ、服も乱れている。顔は痣だらけで太ももには切り傷が何か所もあって出血もしている。
「メアリー・スーは縛り首、メアリー・スーは縛り首!やっちまえ、やっちまえ!」
広場の転生者達はリンチを楽しんでいた。一方、現地人は一人もいない。俺は投石用のまじないがかけられたリンチ石を五テロで買うと、列に並んだ。にやついた転生者共は唾を吐きかけたり、石を思いっきりぶつけて楽しんでいた。これは一種の『娯楽』なのだ。
さてあと一人で俺の番が来るわけだが、まず背後からそいつの喉を特殊な短剣でかき切ると、そのまま半死半生の盾として利用し突っ込んでいく。転生者は死ぬとただの死体だが少しでも生きていれば頑丈な防御力を発揮するのだ。しかし、無傷では抵抗されるのでこれくらいが丁度よい。
「おらあああああああっ!」
邪魔をする神官共を転生者効果で突き飛ばし、そのまま鉄柱の鎖をそいつのルーンブレードで叩き切る。しかし、鎖自体は切れたものの一度の使用で破損してしまった。どうしようもない安物である。
「オムさん頼むぞおおおお。」
俺は転生者の加護を逆利用して盾にしつつ、弓矢や神官共の神円術をふせいでいる。つまり俺は切り込み役でオムさんは救出役だ。
「行けます!」
オムさんは三十三代目メアリー・スーと俺を空中に釣り上げ、逃走を図る。こっちも肉の盾を捨てると素早くオムさんの手を握った。後はカバンに仕込んだ煙幕でそのままおさらばだ。
「メアリーさんの容態は?」
「外傷はありますが、命に別状はありません。治療すれば間に合いますよ。」
俺はほんの少し安心した。だが同時に相当冷え汗もかいている。メアリー・スー救出作戦は初めての事だったからだ。もしも今の相棒に出会ってなければ、自分も残酷な傍観者でいた事だろう。
「どうしてこの子がこんな目に・・・。」
俺は怒りで顔を歪ませる。これは自分自身への負い目も込みだ。
「詳しい説明は治療を済ませてからにしましょう。それに、彼女特有の理由もあるかもしれませんしね。」
俺は黙って頷くしかなかった。
政令(誤字にあらず)の泉で彼女を介抱した後、俺は改めてオムさんから説明を受けた。
「メアリー・スーはみんなの嫌われ者として送り込まれて来るのです。何者かが裏でその出現を管理しているようなのですが、僕にも詳しい事はまだ分かりません。後は直接本人に話を聞くしか・・。」
相棒もうなだれてしまう。俺はそんな相棒に焼き菓子を分けて一緒に食べたのだった。
しばらくしてメアリー・スーなる少女が目を覚ました。流石政令法術である。内臓への損害が軽微ならばこんなもんだ。大したものであると俺も思う。
「意識はあるか?助かったぞ!良かったなあ。」
俺はほっと胸をなで下ろした。少女はまだ状況を飲み込めていないようで辺り一帯をきょろきょろ見回している。
「使命を果たさないと・・。」
オムさんがいぶかし気な顔をする。使命とはいったい何なのだ?
「君の名前は?ご両親は?」
「私はメアリー。メアリー・スー。退治されると契約を交わした。契約は履行されなければならない。」
そういうと、彼女はフラフラと立ち上がった。まるで亡霊の様に。
「待って下さい、まだ安静にしないと傷が。」
相棒がメアリーを押さえにかかる。ところが、次の瞬間怪しげな発光現象を引き起こしながら俺に向かって突進して来たのだ。何の備えも無かった俺は、血走った目を見てとっさに例の短剣を構えてしまった。そして・・。
「ば、バカ野郎!何やってるんだ。」
三十三人目のメアリー・スーは短剣に心臓を突かれて絶命した。俺が獲物をいつも獲物を仕留める為、刃が肋骨で防がれないよう水平に伏せていたせいだった。
「メアリー・スーが力を使いました。自爆するつもりだったようです。残念ですが・・・。」
オムはバラバラに四散した肉体の破片に祈りを捧げていた。
「畜生・・。俺はいったい。」
夕暮れ時の泉のほとりで、残された2人はただ悲しみに暮れるしかないのだった。
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