二つの枷と魔法の剣
シキ
追われる少女
第1話
「はっ。はぁっ。」
暗闇の中、声を漏らしながら無限にあるようにも思える螺旋階段を一つ一つ、こつこつとヒールのかかとで音を鳴らしながら駆け上がっていく。
早く、一歩でも早く足を動かさなければ追いつかれてしまう。
だから、早く。
追いつかれたら。
追いつかれたら…?
「きゃああああああ。」
部屋中に響き渡るような悲鳴をあげ、目を見開き、ガバッとベッドから身体を起こす。
「また、この夢…。」
左手で頭を抱え、右手で胸を抑える。
いつもの部屋の景色、いつものベッドの感触、冷たい空気が自分が生きてるんだなと実感させる。
夢の中で見たものと言っても今でも心臓の鼓動がドクドクと鳴り止まない。
「疲れてるのかな。」
ようやく心臓の音が緩やかになり、落ち着いてきたなとベッドから足を降ろし、冷たくなってしまったカーペットに足が触れる。寒いなと肩を震わせながら手を摩った。
パジャマのまま台所に向かいケトルに水を入れ、お湯を沸かす。その間にトースターに食パンを入れ少し待つ。ジジジというトーストを焼いている時の独特を聞きながら、いつものホットコーヒーを煎れる。美味しそうな匂いが部屋中にぶわっと広がった。一人暮らしを始めてから朝のルーティンはいつもこんな感じである。出来上がったコーヒーを机の上に置いた時、ちょうどチンとトーストの焼きあがった音がする。私は焼きあがったトーストをお更に乗せ机に運び椅子に座る。
「いただきます。」
私は手を合わせてからパンを齧る。特に味付けなどはないが、ザクっとパンを噛むとだんだんと甘く感じてくるのだ。私はパンを囓りながら朝の夢をぼーっと思い出す。
私は何に追われているのか。
振り向いたら何かいるのか。
あの螺旋階段は何なのか。
白いドレスに高いヒール…。
夢の中で見たものを考えれることはたくさんあった。だが、思い出そう思い出そうとする度にうっすらとした記憶しか思い出せない。それどころか、どんどん頭の中の記憶は霧がかかったように何も見えなくなっていく。
「はぁー。」
ひとつため息をついて、コーヒーに触れるとだいぶ冷たくなってきていた。
「いけない、もうこんな時間!?」
冷たいコーヒーに触れると時間の流れがどれぐらい経ったのかは容易に想像することができるが、一応掛け時計の方に目をやると時刻は今から家を飛び出せばギリギリ朝礼時間には間に合うかな?ぐらいの時間帯だった。
私は急いでコーヒーを飲みほし、食器を洗い場に置き、服を着替え、歯を磨いて、家を飛び出した。
私が1人で住んでいる所から学舎まではそう遠くはない。
駆け足で学舎に向かい、キーンコーンと朝礼のチャイムが鳴り終える前に私は部屋の後ろの方にある自分の席になんとか着席していた。
遅刻になったところで、罰とかそういった類のものは無いが、なんとなく遅刻するのは嫌だった。
朝礼中の私は、はあはあと息を切らしながら手拭いで額の汗を拭う。
朝礼が終わるとすぐ授業が始まる。その頃には私の身体は汗で逆に寒くなっていた。
「つまらないなあ。」
いつもの景色にいつもの学舎。教師はいつも同じようなことを言う。戦闘になったらお前らは前には出ない。ただ炎の魔法を練習すればいい。炎の魔法は振動数によって威力が変わるとか。そんなことを言われても私に才能がないことは分かりきっている。どれだけ想いを込めたとしても私は掌に炎を出すことだってできない。
「はぁー。」
私の席は教師から一番離れた部屋の端の窓際にある。私は左の肘を机につき、頬を手で支えながら窓の外を眺める。この後の実技の授業があると思うとため息しかでてこない。
魔法専門の学舎に入学した私が悪いのかもしれない。でも魔法使いってみんな憧れるものじゃない。変身したりしてかっこよく人助けができたらなんて思っていた時期が私にもあった。入学してからは魔法使いは後方支援が主流とかの授業を受け、私が将来どのようになるかなんての予想は今でもできない。
「モカさん?聞いてます?体調が悪いんですの?」
モカというのは私の名前である。私自身コーヒーを飲む時のほとんどが特にブレンドなんてしたりしないが恥ずかしながら
「うん?ごめん、大丈夫だよ。」
私は友人のマサコに返事を返す。マサコは長い黒髪を頭の後ろをゴムでまとめた
私はマサコに声をかけてもらうまで、ずっと流れる雲をぼんやりと眺めていたらしい。
「モカさんの変なの。ちゃんと夜寝てますの?」
「う、うん。寝てるよ。」
寝てるには寝てる。あんな夢さえ見なければもっと快眠であることは間違いない。でも、ここ最近変な夢ばっかり見るんだー。なんて話しだせば変な子に見られるかもしれないし、マサコには黙っておいている。
「早く着替えて実技に行きましょう?」
「うん、そうだね。」
マサコが言う着替えると言っても、怪我防止のローブを羽織るだけなのだが。私達はローブを羽織り、マサコと一緒に実技の授業がある校庭にでた。
「お前ら!今日という一日はここからが本番だからな!気合入れていけよ。」
そう言って大きな声を出すのが実技の教師だ。魔法に憧れて魔法専門の学舎に入学する男も少なからずいるにはいる。だが、ほとんどの男は魔法専門の学舎にには行かず武闘学校に入学する。それ故に男の声がこんなに大きく聞こえる授業は実技だけだ。
私にはあのような暑苦しい感じの男はちょっと苦手だ。マサコともその意見が一致し、よく一緒にいることが多い。だが、それとは逆に男が少ない学校だからか、あれにちやほやしている女子もいるわけで…。私はチラッと教師にキャーキャーとたかる女子達を眺める。あれのどこが良いんだろうか。確かに目鼻立ちは整っているようには感じるが。
教師の話の後、実際に的当てが始まった。教師に教わりたい人は順に教わるという感じだが、私もマサコもいつものように2人で離れた場所で的当てをする。それ故に、サボってると他の人に思われることが多い。だから実技は嫌いだ。
「今日こそ当ててみせます。」
マサコは衣服の乱れを直し、両手を前にして気合を入れる。マサコは私とは違って火の玉を飛ばすことができる。私より才能があるんだろう。見た目も綺麗で魔法の才能もあるなんて羨ましい。ただ、思ったところに飛ばないことが多く本人も苦労しているようだった。
ちなみに私は火の玉を飛ばそうとするとボシュっと音を立てるだけで特に何も起こらずに消える。
「ファイアボール!」
マサコが声を張り上げると両手の掌の前に火の玉が現れ、真っ直ぐ的に向かって飛んでいき…的のど真ん中に命中した。おお!と知らない間に集まっていた外野の方達から歓声の声が上がる。やったと言わんばかりにマサコが笑みを浮かべる。
だがその歓声の中に舌打ちのようなものが混じって聞こえた。私は不安を感じ後ろを振り替えるとマサコが放った火の玉ではない火の玉がマサコ目掛けて飛んできていた。
マサコは自らが放った火の玉に夢中で自身目掛けて飛んできている火の玉に気づくことができないだろう。
「マサコッ!」
私は気づけばマサコと火の玉の間目掛けて走り出していた。
マサコも私の声に気づき、後ろを振り替えると、火の玉がすぐそこまで迫ってきていた。
避けられない…。マサコがそう思った瞬間、モカが火の玉との間に割って入った。
辺りの歓声や響めきだったものが悲鳴に変わったのが私にも分かった。
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