第3話 号令の言い訳

「ちょっと、おハト様!」

「ぽっ!」

 外側に開くはずの観音扉を、スイは構わず蹴り抜いた。内で小刻みに震えるハトに、秒針よりも鋭い視線をお見舞いする。

「なんでまたも出てこなかったのよ!」

「いやあ、そのお、バネが軋んで思うように動けんでの」

 お得意の言い訳だと、すぐに察しはついた。夜の間は、このヨルの国のハトが一時間毎に「号令」をかけるのが唯一絶対の大切な仕事だというのに。

 人間は働き過ぎだが、我が国のこのハトの、なんと怠惰なことだろう。バランスを取るというのは本当に、糸を爪先で渡るよりも難しいと、スイは頭を抱えた。

「だから病院行きなさいって言ったでしょう」

「病院は嫌いじゃ」

「…そんなこと言って、ただの出不精がバレるからでしょう?」

「仮病じゃと言いたいのか!」

「だったら行きなさい!」

「…スイこそ行ったらどうじゃ、その怪我」

 しばし、スイとハトは睨み合う。

「…今日からは、5時までが私たちヨルの国だからね。寝てないでちゃんとお鳴きなさいよ!」

「…ぽっ!」

 スイが去った後、足形がくっきりと残された扉の残骸を、ハトは呆然と見つめる。また時計屋の主人に修理してもらわねばならないと嘆息しながら、羽を手入れして。迫る4時のお務めに備えるのだった。

 破り放たれた扉の向こう、日は昇らない。今はまだ、夜だから。

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