第28話 夢のあと

「…くん、木村くん、大丈夫かい?」

 佐久間先生に呼ばれて気付くと、診療所の天井が目に映った。

 ああ、俺は魔物の夢を見ていたのか…。頭がぼうっとして、まだまどろみの中にいるような気がする。東の窓から陽が差し込んでいる。夜が明けたのか。

「大丈夫かい?君は丸二日眠っていたんだ。酷くうなされていたから心配したよ」

「イタタ…!」

 起き上がろうとして、諦める。そうだ、背中をやられたんだった。

「大丈夫…です」

 苦笑いする。背中がズキズキ痛んで、汗で患者衣が気持ち悪い。

「あとで鎮痛剤を持ってこよう。少し熱があるからまだ寝てなさい」

 


「佐久間先生~、おはようございます」

 裏口から聞きなれた声がして、おケイが顔を覗かせる。

「おはよう、竹下くん。ゆっくりしていきなさい」

 二人は良く知った仲のようだ。先生と入れ替わりで彼が入って来る。

「やあ、おケイ。差し入れに来てくれたのかい?」

 彼はよほど慌てていたのか、後ろで束ねている髪がボサボサだ。アクセサリー類もつけていない。

「もう…心配したんだから。ほら、これでも見て元気だして」

 差し出された雑誌には『セクシーな推しメン』という見出しがついている。頁をめくると甘いマスクの男たちが爽やかにポーズを決めている。

「…おケイ」

「良いでしょ。目の保養になるわ」

 彼はニヤッとえくぼを作る。俺はぷっと吹き出したついでにしばらく笑った。情けない自分自身を笑い飛ばしたかった。



 差し入れの林檎ジュースを飲みながら、夢の続きを話す。太めのストローから、冷たくて甘い林檎のすり身が口に入る。果実の栄養が体に染みわたっていくようだ。

「ふぅん。神様は森の番をキムティに任せて眠るのね?クロティもついでに眠ると…。なら良かったじゃない。ってどのぐらいかしら?」

「さあ…もう怯えなくて良いと黒右衛門は言ったよ。そもそもが夢の話だ。俺に都合の良い幻かもしれないけどね」


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