第18話 吹雪の満月

 おケイこと竹下さんに貰ったナットをポケットに忍ばせてその意味を考えること数日、急に閃いた。

「優子さんの指のサイズ?」

 なぜそう思ったのかは自分でもわからないが、昔から色々と指に嵌めるのが好きであった。スナック菓子を嵌めてみたり、裁縫の指ぬきにいたく感激して何日も嵌めているような変な子供だった。



「優子さん、これ…」

 俺はポケットからナットを取り出し思わず彼女に声をかけた。

「ユニクロはこっちよ。そっちはステンレス」

 バラ売りの商品を売場に戻そうとしていると思ったようだ。同じサイズの物でも材質で色艶が違うが、彼女は一見してすぐに判る。

 最近俺と話す時は敬語じゃなくなってきたのが妙に嬉しい。先程まで店先に出ていたのだろう。少し鼻が赤い。予報では夕方から雪が酷くなるような事を言っていた。

「…木村さん?」

「いや、何でもないよ。ありがとう」

 彼女の指に嵌めてみてどうしようというのだ。俺はそいつをポケットに仕舞い込んだ。



「俺、今夜はおやっさんについていくよ」

 雪雲で確認出来ないだろうが、月齢では満月だ。

「駄目。足手纏いになるわ。父は大丈夫」

 優子さんが険しい顔になる。

「でも、腰痛は大丈夫なの?」

 先週からおやっさんは腰にコルセットを巻いている。

「痛みはあるけれど、身体能力が上がるから平気よ。木村さんは危ないから行かないで」

 あれから俺は夜回りの度に納戸に泊まり込んでいた。寝るには些か狭いが、階段を上ってすぐなので何かあれば真っ先に気付く。今夜は底冷えする。寝袋に二重にくるまって座る。



 はっと目が覚める。しまった、うとうとしていたようだ。すぐに優子さんの無事を確認して、次いでおやっさんの寝室をのぞくと、ベッドに彼がいない。

 夜回りが長引いているのだろうか…。嫌な予感がしてダウンジャケットを羽織る。額にヘッドライトを装着する。

 外は吹雪で立っているのがやっとだった。吹きつける雪で顔が痛い。鳥居をくぐり社の裏手に回る。御神木の紙垂しでがちぎれんばかりに揺れている。


 ――真っ白な狼が倒れている。


「おやっさん!」

 俺は叫んだ。鼓動が激しい。

 視界の悪い中、すぐに発見出来たのには理由があった。彼の首の辺りが紅く染まっていたのである。







































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