11/26にじむ「ひとつになる」

 あなたと私は別の人間。そんな当たり前のことが厭になることがある。どれだけ言葉を尽くしても、体を重ねても、あなたと私が一つになることはできない。それがたまらなく悲しい。

「このまま、溶けてしまえたらいいのに」

 二人の体の境界線がにじんで、どちらがどちらかわからなくなって、最後にはひとつのものになるのだったらいいのに。あなたの体を受け入れたところで、〇.〇三ミリの隔たりよりも絶望的な境目がある。そんな境界なんて全部わからなくなってしまえばいいのに。

 私は悩んだ。どうしたらあなたとひとつになれるのだろうか。悩んだ末に私はひとつの結論に達した。私たちの境界を完全に無くしてしまう方法。私たちがひとつになる方法――。


 いつのまにか、私は真っ白な部屋に放り込まれていた。今どき病院でもこんなに白くはない。ここはどこなのだろう。

 あなたが花束を持ってやってくると、白い部屋に色が生まれる。けれどあなたはいつもすぐいなくなってしまう。私に怯えたような目を向けて、何かわけのわからないことを呟いて。

「ねぇ」

 帰ろうとするあなたを呼び止める。ねぇ、ひとつになりたいの。私たちの輪郭をなくしてしまいたいの。ただ、それだけが私の望みなの。

「……もう、君とは一緒にいられない」

 あなたは暗い声でそう言った。視界に赤色が滲んでいく。ねぇ、今なんて言ったの? 一緒にいられないなんて嘘だよね?

「君は自分が何をしたかわかってるのか?」

 あなたは包帯を巻いた腕を私の前に突き出した。どうして怒られているのかわからない。私はちゃんとあなたにひとつになりたいか聞いて、あなたはそれに頷いたのに。

 視界に赤色が滲んでいく。ねぇ、苦しいの。あなたとひとつになれたら、こんな苦しみは消えてなくなってしまうのに。

 憎らしいあなたと私の境界をにじませるには、私の中にあなたが、あなたの中に私が入り込むしかない。皮膚の隔たりも粘膜の隔たりもない体の中へ。

 ――ねぇ、どうしてわかってくれないの?

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