11/27銀の実「才能の代償」
あの、銀の実さえあれば。
校舎裏に植えられた七竈の木には、ときどき銀色の実がなる。それを見つけて食べれば、誰も寄せつけないほどの才能が手に入る、という伝説があった。
そんなの迷信だと人は言うだろう。けれど本当に銀の実を食べた同級生の演奏が急に変わるのを見てしまったのだ。まるで悪魔に魂を売り渡したかのように、技巧的かつ人を魅了する音楽を奏でられるようになった。あの実の力は本物だ。あの実を食べれば、僕でも、彼に勝てるほどの才能を手に入れられる。
そして僕は毎日銀の実を探し続けた。七竈の無数の赤い実の中から、銀色のものを探す。けれどひとつも見つからないまま、実の季節が終わろうとしていた。
ほとほと才能には縁がないらしい。努力でなんとか埋めようとしても、壁を越える最後の一押しは才能なのだ。あと少しの高さが僕には超えられない。
「銀の実を探してるの?」
気付けば、僕の後ろに彼が立っていた。その顔には余裕の笑みが湛えられている。
「そうだよ」
「……やめた方がいいよ」
お前に何がわかるんだ。僕とは違って、銀の実の力で才能を手にしているお前に、僕の気持ちがわかるわけがない。
「銀の実を食べた人間は才能を手にする。でも、その代わり――」
背後に立っていた彼が僕の目の前に腕を突き出し、そっと袖をまくった。
「この腕はもってあと半年ってところだ。腕どころか俺も死ぬだろうけどな」
「どういうことだよ、それ……」
「悪魔の力なんか借りるもんじゃないってことだよ」
銀の実は悪魔の誘惑。その人間に才能を与えるかわりに、暫くすれば命を奪う。
「代償なしに何かを得るなんて無理なんだよ。……まあ、お前は待ってるだけで一番邪魔な奴が消えてくれることになるけどな」
代償なしに何かを得ることはできない。その事実が、僕の体を貫いた。才能がほしかった。一番になりたかった。けれど――彼を、失いたくはなかったのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます