11/24蝋燭「図書館登校」

「『赤いろうそくと人魚』だね」

 図書館の児童書コーナーの一番端。そこが美玲の指定席だ。美玲はいつもそこで本を読んでいる。大人向けの本を読んでいることが多かった美玲が今日は絵本を読んでいたから、何を読んでいるか気になってしまったのだ。

「これと同じ蝋燭、この前買ってもらった」

 美玲が私に気付いてスマホの写真を見せてきた。白い箱に入った絵入りの蝋燭と、真っ赤な蝋燭。

「ああ、和蝋燭ね。好きなんだ?」

「うん。すごく綺麗」

 美玲はまだ永久歯が生えていない前歯を少し見せて笑った。最近美玲はよく笑うようになった。いや、おそらく最初は警戒されていただけなのだろう。

「いっぱい買ってもらったから由真ちゃんにもわけてあげるね」

「ありがと。じゃあ真っ赤なやつがいいな」

「そっちでいいの?」

「うん」

 美玲はきっとわかってくれるだろう。私はどちらかというと滅びゆくものの方が好きだ。愚かさゆえに沈む村。繁栄していくものよりも、そういうものが好きだ。

「由真ちゃん、あのね」

 美玲はいつも一人で図書館に来て、児童書コーナーの端でいつも本を読んでいる。大人のコーナーで読む勇気はまだなくて、でも難しい本は読めるようになってきた。そんな年頃の少女だ。私もかつてそんなときがあった。もう通り過ぎてしまったけれど。

「夏休みが終わったら、学校に行こうと思うんだ」

「そう。でも無理しちゃだめだよ」

「ダメそうだったらまたここに来るから」

「私はいつでもここにいるから」

 美玲と違って、私はもう学校には戻らないと決めた。図書館の、静かなものが降り積もっているような雰囲気があまりに心地よすぎるのだ。快適すぎて、もう学校には戻れない。

「由真ちゃん、この本読んでくれる?」

「美玲の頼みとあらば」

 もはやこの図書館の職員よりも図書館に来ている自信がある。何か図書館のためになるようなことをしようと、平日の昼間だけ勝手に読み聞かせをしているが、美玲がこれを利用するのは初めてだった。

 きっと美玲はここを卒業していく。美玲は私に似ている気がしていたから少しさびしいけれど、ここはそういう場所なのだ。

「『人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません』――」

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