11/8天狼星「本番前夜」
「これは冬の星座だね」
投影機を操作した柑奈が丸い天井の一箇所を指差した。
「あれが冬の大三角。あの赤い星がオリオン座のベテルギウス」
「柑奈って星も詳しいんだね」
「空見るのが好きなだけだよ」
私たちは夜中に学校に忍び込んで、天文部が文化祭のために用意したプラネタリウムを見ている。文化祭ライブの本番は明日。最後だからと学校に泊まる計画を立てた理紗たちはもう寝てしまった。寝れなかった私たちは軽音楽部の部室を抜け出して、二人だけで地学室に来ている。
「私も空見るの好きだけど、星は全然わかんないよ」
柑奈は興味があるものはなんでも知りたいと思う質だ。だから星のことにも詳しいのだろう。私はぼんやり眺めているだけで、それがなんの星なのか知ろうともしなかった。
「あの一番明るいのは?」
「あれはおおいぬ座のシリウスだね。太陽を除けば一番明るいの恒星なんだよ」
「月は?」
「月は衛星だから、自分で光ってるわけではないんだよ。火星とかの惑星もそうだね」
「ふぅん」
柑奈は色々なことを知っている。私が知らなすぎるだけかもしれないけれど。
「……蒼はあの星みたいだね」
「え?」
「すごく明るく輝く星」
「いやぁそんな大それたものじゃないでしょ」
柑奈は答えずに天井を見つめていた。他の星を寄せ付けないほど明るいシリウス。それが私とは結びつかなかった。むしろ私からしてみれば、夢を目指して走っている柑奈の方が輝いて見える。
「だって蒼がいなかったら、あの曲はできなかったから。それに、シリウスって名前はギリシャ語で『焼き焦がすもの』って意味の言葉からきているから」
柑奈の瞳が熱を持っていて、私はそれ以上何も言えなくなった。何故か胸の辺りに痛みが走って、それがじんわりと身体中に広がっていく。
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