【第4回】お隣さんと一緒の部屋で、唐揚げ作るよ。

 俺とやまさんが通う高校は文武両道をかかげており部活動が盛んである。

 部活動が盛んな高校ではあるのだが俺は部活には入っていない。

 理由は簡単で部活動に入ればお金が掛かるからである。ただでさえ、一人暮らしで親にはかなり手痛い出費をさせているのだ。部活に入れば、部費や部活動で使う道具でかなりお金が掛かってしまう。

 母には一度きりの青春だし部活には入って良いのよ? と口を酸っぱくして言われたけれども入らなかった。

 まあ、よくよく考えれば、中学に入っていた部活はバスケ部。シューズとマイボールに加え練習着と、かなりお金が掛かっていただけで、文化系の部活を選んでいればお金はそこまで掛からなかっただろうし、入っておけば良かったとこうかいしている。

 そんな後悔をしている俺はと言うと、授業が終わり放課後は何も予定などないのでつうに家に帰るしかないのだ。


「今日も今日とて何かをしますか」


 部活に入っていない俺にとって放課後は何もすることが無い時間とも言えるし、何かをすることが出来る時間だとも言える。


「にしても、暑い」


 一応、夏前だというのに、暑さはすでに夏と同じくらいだ。

 暑さにえきれずにエアコンの電源を入れてしまう。

 食費だなんだで節約しても夏場のエアコン代で帳消しになりかねないと思いつつも、暑さには耐えられない。

 しかし、逆に考えれば食費を節約しているおかげで帳消しになっているとも考えられる。

 苦しい思いをしてまで遊ぶためのお金を増やしたくないし、これで良いのだが……。


「やっぱり電気代が気になる」


 部活に入っていない俺は人よりも部屋に長く居る。長く居れば居るほど部屋の消費電力は多くなるわけで電気代が掛かるのは決定こうだ。


「なんか電気代を節約できるいい案がないだろうか?」


 と思いネットで電気代を節約する記事を調べるも、どれもいまいち。

 やっている手間に比べ、節約できるお金が少ないのだ。

 仕方がないとあきらめて、普通にネットサーフィンをしていた時だった。


「こ、これは!」


 俺が好きなゲームの続編が発売されるという記事を見つけてしまう。

 とも発売日に手に入れようと思うのだが……難しそうだ。


「本体を持ってない……」


 ゲームをプレイするためのゲーム機本体を持っていなかった。

 つい先日に出たさいしんえいゲーム機での発売となるらしい。

 ゲーム機の価格は何とおどろきの4万5千円。

 正直に言うと、友達と一緒に遊びに行かないで、食費を切りめれば、ゲームの発売日までに何とかギリギリお金はまるだろう。


「ま、好きな作品のゲームとはいえ、そんな風に色々とせいに出来るわけが無い」


 結論はゲームを買うために無理してお金は貯めない。

 発売日にこうにゆうできなくとも、いつかは買えるように節約してお金を貯める事にした。


「エアコン代……」


 数か月後に発売されるゲームは小さいころからずっと追ってきたシリーズもの。

 思い入れはすさまじく、発売日にプレイは諦めたものの、出来る限り早くプレイしたい。

 ゆえにいつかは買えるようにと割り切ったが、節約という意識が一層表に出てきた。

 エアコン代を節約するため電源を切ろうと手がびるのだが、


「……」


 エアコンを切れば暑くて苦しいのだ。

 でも、苦しい思いをすれば、ゲームを手に入れるのは着実に早まる。


「ダメだ。やっぱ無理」


 体は快適さを選ぶ。でも、発売日は無理でもなるべく早くにゲームが欲しい。

 何か出来る節約はないかネットで調べたところ、結局、食費と電気代を節約しろという記事しか見つからなかった。

 そして、気が付けば夕方。

 節約のためにもスーパーへ買い物に行こうとげんかんを出た。


みや君。今日は暑いね。スーパーに行くの?」


 ちょうどお帰りの制服姿でたっぷりあせをかいている暑苦しい山野さんと出会う。

 俺と違って帰りがいつも少しおそい山野さん。とはいえ、部活動に入っていないと聞いた覚えはあるし、何かしらの委員会に入っており、その活動で帰るのが少し遅いかただ単に友達と少し話してから帰って来ているのだろう。

 そんな、帰る時間が違うことについて少しばかり考えながらも、適当に話題をつくろう。


「はい、これからスーパーに行こうかなと。なにせ、これからの節約はより一層気を引き締めないといけませんし」

「金欠になっちゃったの?」

「いえ、違います。実は欲しいゲームが発売される事になりまして。でも、ゲーム機本体を持っていないのでそれも買うとなるとお金がかなり必要なんです。だから、節約をもっと頑張ろうという訳です」

「なるほどね。私も似た感じかな……。最近、ノートパソコンの調子が悪くてね……。親が使ってたお古で中々にぼろいから新しいのが欲しいな~って感じ?」

「今時の女子高生なのにノートパソコンを使うとか意外ですね」

「そう? なんだかんだで、画面は大きいし、調べ事をしながら動画を見られるし、画面が大きい分一度に表示できる情報量がたくさんだから使い勝手が良いじゃん」

「確かにそうですよね。今時はスマホやタブレットで事足りるとか言われてますけど、パソコンに慣れると全然物足りないですよね」

「うんうん。で、私もこれからノートパソコンを新調するために節約を頑張るけどさ。こうも暑いと、スーパーまで買い物に行くのがめんどうだよね……」


 頭をなやませる山野さん。

 何かいい方法は無いかと考えているりを見せた後だ。ちょっぴり申し訳なさそうな表情で俺にお願いをしてきた。


「間宮君が私の分も買って来てくれないかな~」


 確かに俺はスーパーまで買い物に行くし、山野さんの分も買って来ることは可能。

 一方的で俺だけが損する感じが否めないなと感じるも、山野さんの一言でき飛んだ。


「あ、もちろん、今日は間宮君がってだけで今度は私が間宮君の分も買いに行くから」

「分かりました。二人でスーパーまで買い物に行くのではなくて、こうに行けば時間の節約になりますしね。それで、山野さん。今日、俺に買って来て欲しいものは何ですか?」

「んー、悩むね。ところで今日は何を作るつもりなのかな?」


 山野さんは俺が作る料理が何なのかとたずねて来た。

 今日、俺が作ろうとしている料理は野菜炒めである。一人暮らしを始めてから、野菜が不足しがちな気がするからだ。


「今日は簡単に野菜炒めでも作ろうかなと。一人暮らしを始めて野菜が不足しがちなのを実感しているので」

「なる程ね。じゃあ、私もさせて?」

「ちなみに、キャベツとかを一玉買うのは使い切れないかもしれないのでふくろめされたカット野菜ですけどね」

「カット野菜の方が高いけど、使いきれなかったらもつたいないもんね。って、待った、間宮君。キャベツとかをさ、私と間宮君で半分にすれば使い切れちゃうんじゃない?」

「確かに」

「でしょ?」


 買い物に行く回数も減らせるのに加えて、山野さんと買って来たものを半分にすることで余らせてくさらせることを防げる。

 山野さんという心強い味方を手に入れられてラッキーだ。


「じゃ、色々と買ってきますね」

「うん、任せた。もちろん、明日は私がスーパーまで買い物に行くからね」


    *


 時間は過ぎるのが意外と早く、気が付けば節約を始めて1週間と少しが経った。

 節約を志す仲間である俺と山野さんはスーパーまで買い物に行くのを交互に行う事で時間を節約するのに加え、野菜を半分にすることで余らせるリスクを減らすという関係へ。

 そのおかげでほぼ毎日の様に山野さんとは話をしている。

 現に今も、今日はスーパーで何を買ってくればという話をしている最中だ。


「今日は俺がスーパーまで行く日ですけど、何を買ってくれば良いですか?」

「あ、今日はだいじようだよ。色々と買いたい物があるし間宮君がスーパーまで買い物に行く日だけど、私も行く。さすがにたくさんお買い物をお願いするのは申し訳ないからね」


 買いたい物が多くあるとの事で、今日は久しぶりに山野さんと二人でスーパーまで買い物に行くことになった。

 その買い物をしている際であった。

 お総菜コーナーでげ物をジーッとながめている山野さん。


「どうしたんですか?」

「揚げ物にちようせんしたいなって。ほら、もう1週間以上もがんってるし難しい料理に挑戦してみたくない?」

「確かにそうですよね……。揚げ物に挑戦したいのは俺もです。でも、手間とか油ねがこわいんですよね」

「一人で挑戦するのは心細い。という訳で、間宮君。私といつしよに挑戦してみない?」


 心細さを解消するために俺も巻き込む。

 実にいい案である。

 実際問題、俺も揚げ物を作ってみたいと思っていたし、一人で油をあつかうのが山野さんと同じく怖いと思っていた俺にとってもまたとない機会だ。


「分かりました。俺も一人で挑戦するのは心細いのでお願いします。何を揚げるのか決まってるんですか?」

「普通にとりからげにしようかなって思ってる。多めに作っておけばれいとうしてお弁当に使えるからね。あと、てんぷらとかフライは難しいイメージだし」

「じゃあ、唐揚げにしましょうか」

「だね。唐揚げを作るためのお肉を買って帰らないと」


 話が決まったので、おそうざい売り場をはなれお肉売り場に向かいなるべく良いものを選ぶ。

 意外とお肉というのはせんの差があって、色がつややかな物ほどしんせん美味おいしいらしい。

 肉料理における味の決め手はやはり肉の味。ここだけはきようするなとクラスメイトのみっちゃんの姉である家庭的なけいせんぱいから教わったからな。


「ところで、間宮君。どのくらい唐揚げを作る?」

「たくさん作りましょう。油とかをたくさん使うのならたくさん作らないと勿体ないので」

「じゃ、がっつりと作らないとダメだよね」


 鶏モモ肉を大量に購入してスーパーで買い物を終えるのであった。


「いやー、にしても間宮君が居るおかげで安心して揚げ物に挑戦できるよ」

「意外と怖がりなんですね」

「まあね。帰ったら気合を入れて作らないと。なにせ、鶏肉を大量に買ったんだからね」


 失敗したら大損の量。これは骨が折れそうな調理になりそうだなと思っていた時だ。


「という訳で、間宮君。どっちの部屋でやるの?」

「ん?」


 どっちの部屋でやる?

 一体、山野さんは何のことを言っているのだろうか?


「言い出したのは私だし、私の部屋だよね」

「待ってください。ナンノコトデ?」

「そりゃあ、揚げ物だよ。一緒に挑戦するんだからね」

「一緒に挑戦って文字通りに一緒にという事ですか? てっきり、それぞれの部屋で別々に調理すると思ってたんですけど……」


 揚げ物を作るまでは一緒。

 でも、たがいの部屋でそれぞれ作ると俺は思っていたのだがどうやらちがうらしい。


「意味なくない? 油を使うのが怖いんだし二人で立ち向かわないと」

「いや、まあ。そうなんですけど」


 もっともな言い分だがていこう感が凄まじい。

 山野さんと一緒に料理をするためにはどちらかの部屋に上がり込むという事だ。

 それはそれは、思春期真っ盛りな俺にとってはかなりの大事件である。


「もしかして、女の子の部屋に上がるのにきんちようしちゃってる?」


 思春期真っ盛りな俺のうろたえ方に向けられる山野さんのにやにやとした視線。

 そのことに対し俺は抵抗を感じてしまう。


「全然ですね。思い返せば、つうに女の子の部屋に入ったことがありますし」


 ……ま、小学生の時だけどな。

 せいよく山野さんのにやけ顔にたいこうしてみた結果は何ともむなしい事にかされている。

 普通に小学生の時とかそういうあれでしょ? という顔で見つめられているのだから。


「山野さんこそ俺の部屋に上がり込む時、緊張はしないんですよね?」

「そ、それは……まあね。緊張しないよ?」


 絶対にうそである。俺の部屋に上がり込むのに緊張するという顔をしている。


「分かりました。じゃあ、山野さん。俺の部屋で揚げ物に挑戦しましょう」

「わ、分かったよ。間宮君の部屋で唐揚げを作るって事でオッケーかな?」

「はい。部屋で待ってるので来てくださいね」


 気が付けば、俺の部屋で一緒に唐揚げを作る事となったのであった。

 スーパーから帰宅後。

 揚げ物はだんよりも服がよごれてしまうので、汚れても良い服にえてから来るそうだ。

 そんな山野さんが来る前に俺はと言うと台所周りをれいにする。普段生活している部屋は別に片付ける必要などないのは言うまでもない。

 なにせ、台所と部屋はドアで仕切る事が出来るのだから。

 わざわざ唐揚げを作るためだけにドアをまたがせて部屋に入れる必要などない。

 台所周りを軽く綺麗にし終えた時だ。

 チャイムが鳴り、山野さんが来た事を知らせてくれる。

 部屋に招き入れるためにげんかんを開けると、そこにはなんと言うか普段じゃ絶対に見る事の出来ない山野さんの姿があった。

 はんそでのTシャツ。少し短い気のするハーフパンツ。部屋で過ごすためだけの格好だ。


「お待たせ。入っても良い?」

「どうぞ」

「おじやしますっと」


 くつぎ、すぐに直結している台所を見つめる山野さんの第一声はこうだ。


「男の子の部屋に上がるのって初めてだけど、意外と緊張しないもんだね!」


 と言っているが、なんと言うかものすごかたの位置が高く、あからさまにいつもより姿勢が正しい気がしてならない。


「さすが山野さん。と言いたいところですが、だれでも異性の部屋に初めて上がれば緊張しますって。肩のちからいてリラックスしてください」

「間宮君に私の部屋に上がるのに緊張してる? とかあおった身としてはくつじよくだけど、やっぱり異性の部屋に上がるのはちょっぴり緊張するね」

「ぼちぼち、唐揚げを作り始めましょうか」

「だね」


 山野さんと一緒に唐揚げづくりを始めた。

 最初は鶏肉の処理だ。

 二人でまな板にせた鶏肉の小骨や、ちょっとした筋を綺麗に取り除く。

 綺麗になった鶏肉を食べやすいサイズにカットするのだが、俺の部屋には包丁が一つしかないので代わる代わる切ることに。

 山野さんが部屋から包丁とまな板を持ってこようか? と言うも、まな板をもう一枚置くスペースなどないので包丁が増えた所で意味が無い。

 一度、鶏肉を切る作業だけは別々にとも考えたが、せっかく二人での料理。

 わざわざ別行動するのはつまらないのできやつである。


「一個はこのくらいで良いよね?」


 カットした鶏肉がこの大きさで良いかと俺に確認を取る山野さん。


「そのくらいで良いんじゃないですか?」

「おっけー。じゃあ、ドンドン切るね」


 鶏肉を手際よくカットしている最中だ。


「指切れちゃった……」


 山野さんが指を切ってしまい、血がにじみ出す。


「大丈夫ですか?」

「このくらい、へーき、へーき。少し待てばすぐに血が止まると思う」


 少し待てば血は止まるだろうが、処置をしておかないとダメなのは言うまでもなく、台所から離ればんそうこうと消毒液を手にして山野さんの下へもどる。


「山野さん。絆創膏を巻きますね」

「女子力高いね。私の部屋には絆創膏も消毒液も無いよ?」


 切った指先は俺の方を向く。

 つめが綺麗に切りそろえられた指に付いている血をふき取りながら話を続ける。


「姉さんが買ってくれたので、俺が買い揃えたわけじゃありません。たぶん、姉さんが居なければ普通に部屋に絆創膏も消毒液も置いとかないでしょうね」

「間宮君ってお姉さんが居るんだ」

「一人暮らしも姉さんのえんで出来ているようなものですから本当に頭が上がりませんよ」


 親と姉さんの支援によって今の生活は成り立っているのだ。

 ゆえに親と等しく姉さんには頭が上がらない。とか考えながら山野さんが切った指先に消毒液をきかける。


「ひゃっ!」


 あられもない声。

 その声を上げた本人はと言うと、顔を真っ赤にしてか細く文句を垂れる。


「急に間宮君が消毒液を吹きかけるから変な声出ちゃったじゃん……」


 変な声を出してずかしがっている姿が可愛かわいらしくて、ついもう少しだけ見てみたいという気が働いた。


「そうですか? 可愛い声だったと思うんですけど……」

「くぅ。生意気な間宮君め。でも、私のためを思って消毒液を吹きかけてりようしてくれてたのを考えるとおこれないじゃん!」


 煽る俺に怒っても良いのに、怒れないと言ってしまうところがまた可愛い。

 そんな彼女の指に絆創膏を巻いた。

 それから何事もなく、落ち着いてから鶏肉をカットするのを再開。

 かなりの量の鶏肉を一口大のサイズに出来た。

 特大のフリーザーバッグを広げて、その中に入れてしよう、すりおろしたにんにくとショウガ、料理酒、かくし味のはちみつを入れてみ込む。


「次は……30分かせる」


 普段なら道具の片づけをしていればあっという間に時間は過ぎるが今日は違う。

 俺が唐揚げに味を付けている際に山野さんが切った指先をかばいながら包丁やまな板を洗い終えてくれている。

 そのため30分間というひまな時間が生まれてしまったのだ。


「暇ですね」

「だね。ところでさ、間宮君。ちょっとだけ、さっき絆創膏と消毒液を持ってきたあの部屋のドアを開けても良い?」


 あの部屋のドアとは台所とベッドのある居間を区切るためのもの。

 絆創膏と消毒液を取りに行く際に少しばかり見えたのだろうが、それでもぜんとしてはっきりと見えたわけじゃ無いしな。

 分かる。俺だってそうだ。

 確かに、同年代の一人暮らしの部屋だ。どういう部屋に住んで居るのか気になる。


「……まあ、良いですよ」


 別にやましいものがあるわけでもなく、普段から綺麗にしている。

 普通に許可を出すと山野さんはおそる恐る俺の部屋のドアを開けた。


「普通だね」

「でしょうね。なんにも面白い事なんてありませんよ?」

「で、どうなの? エッチな本とかってあるの?」


 しれっととんでもない事を聞かれたが、この程度で狼狽うろたえる俺ではない。


「ご想像にお任せします」


 えて答えは出さない。

 俺がそういう本を持っているのか、持っていないのかで大いになやんでくれ山野さん。


「そっか。間宮君はエッチな本を持っていると」

「ちょ、なんでそんな勝手な決めつけを……」

「間宮君がご想像にお任せしますって言ったんだよ? という訳で、私に消毒液を急に吹きけて変な声を出させるような子だし。エッチな本を持っててもおかしくないからね」

「すみませんって」


 軽いじようだんで話に花をかせる。

 普通に部屋を見せた。

 からげを寝かせている間、ずっと立っているのもあれなので山野さんを部屋に招き入れるとしよう。


「部屋で時間が経つのを待ちましょうか」

「え、良いの?」

「部屋に上がられたところで別にどうって事は無いので。適当にクッションの上にこしを掛けてごゆるりとくつろいでください」

「お言葉に甘えてお部屋で休ませてもらうね」


 友達が来ることをして多めに用意してあるクッションをしりき、山野さんは俺の部屋に座り込む。


「テレビでもけましょっか」


 適当に点けたテレビを見ながら、どうでも良い事を話していたらあっという間に30分が過ぎ去った。


    *


 唐揚げの調理はいよいよきよう。油はすでに高温。

 んだお肉に小麦粉をまぶし油でげるのみ。

 言葉で言えば簡単なのだが、高温に熱した油を前にしてビビらないわけが無い。

 何せ1週間前から料理を始めた素人である。


「……きんちようしますね」

「うん。緊張する。じゃあ、まずは私からお肉を油に投入するね」


 緊張しながら熱した油にとりにくを入れる山野さんの腰は変に引けていて、つい笑ってしまいそうになるも本人は至って本気なので笑うわけには行かない。

 もし、笑って山野さんの集中力がれてつながったら大変だし。


「山野さん。こわいからって投げ入れちゃダメですよ?」

「わ、分かってる。そーっと、そーっとでしょ?」


 山野さんはそーっとなるべく波を立てないように鶏肉を投入した。

 すると油で揚がって行くのを知らせる小気味良い音が部屋中にひびわたる。

 油はねているが、しっかりきよを置いていればなんてことは無い。

 とはいえ、跳ねるものは跳ねる。パチンと大きな音を立てて油が山野さんをおそう。


「っつ!」

「だ、だいじようですか?」

「大丈夫だよ。ちょっと熱かったけどね。ま、こればかりは仕方ないね。揚げ物だし」


 油跳ねは仕方がないと割り切る山野さん。

 そんな山野さんと俺は油を恐れながらも唐揚げを揚げて行くのであった。

 そして、だいいちじんが揚がった。

 まだまだ、揚げていない状態の鶏肉は残っているので、揚げなければいけないが、それでもまんが出来ない俺達。


「味見しないとね。ちゃんと成功してるかどうかを」


 味見をするためにたなからはしを取り出し山野さんに渡す。

 こんがりと色づいた唐揚げを箸でまみ口に入れる山野さん。

 熱そうに口をはふはふとさせながらもしやくしていき、口の中がれいになったたんに山野さんは感想を発した。


火傷やけどした」


 だろうな。あれだけ、熱そうに口を動かしていれば火傷して当然。


「で、かんじんの味はどうでした?」

すご美味おいしいよ! サクサクで冷食とは全然ちがう」

「じゃあ、俺も」


 火傷すると分かっていても、我慢できずに熱々の唐揚げを口に入れた。

 口いっぱいに広がる唐揚げのにくじゆう

 隠し味のはちみつの効果のおかげか、お肉は心なしかやわらかい。


「美味しいです。じゃんじゃん、揚げましょう!」


 それから、俺と山野さんはたくさんの唐揚げを揚げていくのだった。

 で、気が付けばすべてを揚げ終わったころには30分が過ぎている。


「これで、全部だね。いやー、苦労したよ」

「結構時間が掛かっちゃいましたね。さてと、後はこの唐揚げでご飯を食べるだけです」


 出来上がった唐揚げをおかずにご飯を食べる。

 本日のメインイベントなのだが、山野さんの顔つきが凄くやってしまったという顔だ。

 ……ああ、そういう事か。


「もしかして、ご飯をき忘れました?」

「あはは、うん……。あと、れいとうご飯も無い」

「分かりました。せっかくの出来立ての唐揚げ。白いご飯が無いのはもつたいない。なので、うちで炊いたご飯を山野さんにおすそけします」

「え、良いの?」

「はい、多めに炊いたのでたくさん食べて大丈夫ですからね。と言うか、せっかくなのでもうここで食べて行きませんか?」


 つうに山野さんを部屋に入れた。

 わざわざ、部屋にもどらせて食べさせるよか、いつしよに食べた方が効率的。

 いいや、二人で食べたほうが楽しくて美味しいのが一番の理由だ。


「分かった。お言葉に甘えてここで食べて行くね」


 それから俺と山野さんは二人で唐揚げをおかずにご飯を食べるのであった。

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