【第2回】お隣さんとの、新しいカンケイ。

 次の日。

 別に山野さんと仲良くなったところで何かが大きく変わるわけでもなく、いつも通りに時間は過ぎ去り普通にむかえた昼休み。

 俺はこうばいでパンと飲み物を買う。

 合計450円。仕送りがまあまあ貰えているとは言え俺にとってそこそこ痛い出費だ。

 遊ぶ金が欲しいし、本格的にお弁当とまでは行かなくともおにぎりくらい作って持ってこようかなと考えてしまう。

 はあ……せめてバイトが禁止でなければと思いながら一緒にご飯を食べている友達の下へと戻るのであった。


「おいおい、てつ。暗い顔してどうしたんだよ」


 哲とは間宮哲郎である俺のあだ名。

 あまりに暗い顔をしていたのだろう。友達であるこうに心配されてしまったらしい。


「金欠ではないけど、もっと遊ぶ金が欲しくてさ」

「金に困ってんのか? だったら、昨日はカラオケにさそって悪かったな」

「いいや、カラオケは楽しかったし全然オッケーだ。というか、貧乏だとかそういうせつまった感じでお金に困ってはいないから安心してくれ。お金にまったくゆうがなくて遊べてないわけじゃない。でも、もうちょっと遊ぶ金が欲しいなって思ってるだけだ。どうにか遊ぶお金が増えないかと色々と考えてたせいで暗い表情をかべていたという訳だ。だって、購買で買ってきたこいつらは合計450円なんだぞ?」

「んで、哲。もっと遊ぶためのお金を手にするための方法はなんか思いついたか?」

「お昼ご飯に手作りのおにぎりを持ってこようと思う。これだけで結構なお金が浮くだろ? 後はすいとうで飲み物を持ってくれば遊ぶ金を工面できるかも知れない」

「哲。それってめんどうくさくね?」

「そこが問題だ。だが手間の分、自由にできるお金が増える。そう考えれば、俺なら成しげられるはず……だ」


 自信は無い感じだが、きっと俺なら出来る……。で、出来るよな?


「んで、いつから始めるんだ?」

「明日から」


 という訳で、おにぎりを作るために必要なお米と中にめる具が部屋には無いので、手のひらにマジックペンで書いておくことで忘れないようにした。


「っぷ。手のひらにお米と具って……なんだそりゃ。男子高校生の手に書かれていい言葉じゃねえだろ」


 友達の幸喜に笑われた。

 確かに普通、男子高校生の手にお米と具なんて書かれているわけないもんな。


「お米と具とマジックペンで手に書かれてるとか笑えてくるな。だが、幸喜よ。俺は自由に使えるお金をもう少し増やしたい。きっと、この手に書かれた字が無ければ意志の弱い俺は成し遂げることは難しい」

「知らねえよ。そんなこと。ま、手に書いとけばよっぽどの事が無い限り忘れないだろうしな。ちゃんとがんれよ。哲、俺はお前の事をおうえんしてっぞ!」


    *


 友達の幸喜にげきれいを送られ、俺は節約のための一歩をみだすべく迎えた放課後。

 早速、明日お昼ご飯として持っていくためのおにぎりを作るため、材料を買いにアパートから結構はなれているスーパーへと来ていた。

 すいした経験が無い俺にとってスーパーでのお買い物は地味に気分をわくわくとさせる。

 そんなうきあしつ俺の手にはお米と具の字。

 早速、まずはお米を買おうと思ったちょうどその時だった。


「あ、どうも」

「ん、間宮君じゃん。どうしたの、こんなとこで」


 出会うはおとなりさんである山野さん。

 スーパーに来ているという事は家庭的な人なのか? と思うも、手には『今日から節約!』という字がでかでかと書かれており家庭的な人というのを真っ向から否定してくれた。


「って、なにその手に書かれてる字。お米。そして、具って。男子高校生の手にそんなことが書かれてるなんて、ぷっ……。ごめん、結構笑える」


 俺が山野さんの手を見ていたのと同じく、俺の手も見られていたようで、書かれている『お米 具』という字を見つけられ笑われてしまう。


「そう言う、山野さんの手だって女子高校生なのに『今日から節約!』とか笑えてきますけど?」

「やっぱり? 昨日、間宮君との話のせいか、友達の前で節約しようかなーとかつい口にしたんだよ。そしたら、あんたは意志が弱いからこのくらいしないとって、手にこれを書かれた。ひどいと思わない? 女子高生の手にマジックペンでデカデカと字を書くなんてさ」

「ですね」

「分かった。生意気なこうはいが酷いって言ってたと伝えとく」

「ちょ、やめてください」

「冗談だよ。冗談。そんなこと言わないから安心しといて。さてと、ここで出会ったのも何かのえん。一緒にお買い物しよっか。スーパーで一緒にお買い物だなんて言われてもうれしくないだろうけど」


 同年代女子の中でもはっきりと可愛かわいいと言える山野さんと一緒にお買い物。

 それがスーパーであったとしても、友達に言いふらせるぐらいのありがたみはある。


「じゃあ、せっかくなのでご一緒させてください」

「うん。分かった。それで、間宮君は何を買うの?」

「お米と具ですかね」


 わざとらしく、真面目な顔で手に書かれた『お米 具』という字を見せつける。


「っぷ。ちょ、ほんとやめて。な顔で手に書いた言葉を言うなんてずる過ぎだから」


 可愛らしく、き出して笑ってくれた。

 ふざけてみたがすべったらどうしようかと思っていたし何よりだ。


「ところで、山野さんは何を買うんですか?」

「私? 取りえず、コンビニでご飯を買う事が多いから、なんか適当にスーパーで買えば安くなる。って感じで来ただけ。何を買うかは全然決めてない。というか、なんでお米と具なの? もっと、他に何か買わないの?」

「最初から本気を出し過ぎても空回りしそうなんで。出来る事から始めよう。という訳で、自炊と言ってもお昼ご飯用に持っていくおにぎりから始めようと思いまして」


 最初からやる気を出しても空回りするだけ。

 ゆるく始めてこそ長続きしそうであるという勝手な考えだ。


「じゃあ、私もしても良いかな?」

「もちろん良いですよ。とは言っても、お米と具、以外でも良さげで節約につながりそうな食材があれば買うつもりですけど」

「だね」


 そんな感じで、スーパーの店内をうろつく俺と山野さん。

 野菜売り場から始まり、お魚売り場、お肉売り場、お総菜売り場、取り敢えず色々な所を歩いてみた。

 その際に俺は水筒にめるお茶を作るための茶葉を買い物かごに入れる。計算しなくとも、ペットボトルのお茶を買って飲むよりかは安いと判断しての行動だ。

 店内をある程度回った後、おにぎりを作るための材料をかごに入れ始める。

 おにぎり用のお米と中に詰める具。おにぎりを巻く用の海苔のり。おにぎりを包むためのラップ等だ。


「おにぎりはこれで良し。後は今日の夕食をどうするかだ」


 気合いを入れ過ぎてすぐにヘタるよか、ゆっくりと着実にステップアップした方が長続きするだろう。

 ゆえに夕食はつうに出来合いの物で済ませてしまおう。

 おにぎりの材料をかごに入れ終えた後、お総菜売り場に向かう。

 どれを夕食にするか出来合いの総菜たちをながめる。

 眺めていると嬉しい事に、このスーパーでは割と値引きされるのが早いようで、すでに4割引きのシールがられていた。


すごいね。コンビニのお弁当より量が多くて安い。コンビニじゃなくて、毎日スーパーで買い物すればだいぶ節約になるかもね?」


 いつしよに歩いていた山野さんがお弁当の値段と量にうなずきながら問いかけて来た。


「でも、コンビニとちがってちょっと遠いのがつらいと思いませんか?」

「分かる。コンビニは5分。でも、ここに来るには20分以上歩くとなるとね」

「でも、絶対に節約になるので頑張ります」


 スーパーで買い物すれば節約につながるはずだ。明日からだつコンビニ生活を始めよう。

 時間は少しせいにするがバイトが出来ないじようきようの中、支出を減らす事しかできないのだから仕方がない。


「私もちょっと遠いけど、これからはスーパーで買い物をすることに決めた。ところで、どのお弁当にするの?」

「俺ですか? このかつどんにしようかなと」

「じゃあ、私はこのマーボーどうどんにしよ」


 買い物かごにお弁当を入れる。ちょっとさびしい食事な気もしたのでふくろめされたサラダとドレッシングも買った。

 それなのにコンビニよりも安いとか、本当におどろきである。

 こうして買い物を終えた俺と山野さん。

 帰る先は同じアパート。当然の様にかたを並べてゆっくりと歩き始める。


「いやー、スーパーって凄いね。コンビニより全然安くて驚いたよ」

「今までコンビニばかり使ってた過去の自分をなぐってやりたいくらいです」

「あはは……。間宮君はまだいいよ。私なんて2年生で、1年生のころからずっとコンビニを使ってばっかり。もし、スーパーで毎日お買い物してたら服が何着買えた事か……」


 もったいない事をしてたなあ……とちょっとくされている山野さん。


「でも、スーパーの方が安いのに近いコンビニを使っちゃいそうなんですよね……」

「私も。だって、スーパーまで歩くのは面倒だもん。さすがに20分も歩くのはね……」


 本当に似た価値観をお持ちらしい。話していて、まるで自分と話しているかのようだ。


「と言うか、だいじようですか? お米はかなり重いですよね。良ければ、持ちますけど」


 俺達の手にはかれる前のお米。

 入っているキロ数が多ければ多い程、少し割安だったので量が多いのをこうにゆう

 重いという事もあり、ここは持ってあげたほうが良いのでは? と声をけてみた。


「優しいね。心配してくれるなんてさすが男の子。気持ちだけで十分。自分で持つよ」

「辛かったら言ってくださいよ?」

「うん、ありがと」


 重いお米を持ちそれぞれの部屋のげんかんまで帰って来た俺達がいだく感想はただ一つ。


「本当にお米が重かった」


 山野さんの分も持つことになっていたらもっとヤバかったかもしれない。

 持つことを断ってくれて良かったと心の底から思う。


「うん。これは明日、筋肉痛だよ」


 ボヤキながらかぎをカバンから取り出す俺と山野さん。

 鍵を開けて、さあ部屋へ。

 そんな時だった。山野さんが俺に話しかけて来た。


「こうして話すようになったんだし、せっかくだかられんらく先をこうかんしよ?」

「そうですね。この際ですし交換しましょう」


 連絡先としてメッセージを簡単に送れるコミュニケーションアプリのIDを交換。

 連絡先に同じ高校のせんぱいが追加される。地味に同じ高校に通う先輩では初めて連絡先を交換した相手だな、とか少し思うところがありながらも、たがいの部屋へと帰って行く俺とお隣さんであった。

 部屋に入り、スーパーで買ってきたかつ丼を食べ、来たるべき決戦に備える。

 お米のふうを解き放ち、引っした際に買ってもらってはいたが、出番が無かったすいはん器に洗ったお米をセット。

 今時の炊飯器にはタイマー機能という便利なものがあるので朝に炊き上がる様に設定。起きた後におにぎりを作れるよう海苔やらラップやらを用意した。

 ついでにすいとうに詰めるお茶の茶葉も分かりやすい位置に置く。


「これで、あとはいつもより早く起きて作るだけだ」


 ようようと朝にはおにぎりを作ってやる。

 準備を終えて、ちょっとしたを宿題やら動画を見てすごしたのちしゆうしんした。


    *


 節約をするためにおにぎりを作るべく、少し早めにセットした目覚まし時計を止めた。

 顔を洗ってさっぱりした俺は手始めに炊飯器と同様に買って貰った、置物と化していた水筒にお茶を作って注ぐ。

 次にするはおにぎり作り。

 用意したラップの上に朝に炊き上がったばかりのお米に具をのせてにぎる。

 ラップしにお米を握って形を整えた後、塩をりもう一度握って海苔を巻いた。


「完成だな」


 そのままラップに包んで持ち運べるように。

 あ、そう言えばれいざいを用意した方が良かったかもな。

 季節は刻一刻と真夏へと向かいつつあり、傷んでしまう場合がある。

 料理をしない俺がこの事を知っているのは、母親が保冷剤を入れ忘れてお弁当がダメになった経験があるからだ。


「まだ大丈夫だろ。教室にはエアコンもあるし」


 おにぎりをしき代わりのバンダナで包み学校のカバンに詰め込んだ。

 ちなみに朝ご飯は残ったご飯で作ったもう一つのおにぎり。

 いつもはパンで済ませているので、この時点でかなり節約した気がするなと自分で自分をめていると、けいたいに一枚の写真がメッセージ付きで届く。


「ああ、山野さんか」


 写真はおにぎりの写真。れいな三角形をしていて美味おいしそう。えられたメッセージは『私はこんな感じだよ! れんらくさきこうかんしたし、せっかくだからメッセージを送っちゃった』

 とてもフレンドリーで気さくな感じであり、俺もそれに応ずる。


「握るのがうまいですねっと」


 メッセージを打ち、ただそれだけじゃつまらない気がしたので、俺も少し形が悪いお手製おにぎりの写真をりメッセージと共に送る。


『ぶきっちょだね』

『ですね』

『今回は私の勝ちだね』


 勝ち負けを競い合っていたわけでもないのだが、じようだんで勝ったと言い張られてしまう。

 そんな冗談交じりのノリについて行くべく俺もジョークを交えたメッセージを送る。


『っく、次は負けませんから!』


 といった感じでおにぎりの話題で軽いやり取りをしていると、気が付けばそろそろアパートを出ないと不味まずい時間になっていたのでアパートを出る。


「あ」

「あ」


 ちょうどであった。

 先ほどまで、やり取りをしていた相手と出くわし、あ、とつい声が出てしまうも、別段あわてることもなく普通に会話が生じる。


「山野さん。さっきはどうも」

「ううん。朝から、メッセージを送りつけてごめんね。めいわくじゃ無かった?」

「いえ、全然」

「そっか、なら良かったよ」


 二人とも行き先は同じ。気が付けば、肩を並べて歩き始めている。


「間宮君。おにぎりを作ったのは良いんだけど、保冷剤って使ってる?」

「今日は使ってないですね。というよりも、お弁当なんて作ることが無かったので、保冷剤なんて代物が無かったです」

「私もだよ。で、今日の気温的に大丈夫だと思う?」

「多分……大丈夫だと思います」


 今日の最高気温は25度くらい。このくらいなら、保冷剤を入れなくても大丈夫なはずではあるが、気になり始める時期のせいか心配しかない。

 今まですいを経験したことが無い者が色々と手探りになっている状況であるのだから。


「お昼時ににおいをいでダメそうなら捨てれば良いだけだしね。もつたいないけど」

「ダメになった場合、むしろ節約じゃ無くなると思うと、保冷材は必要ですよね……」

「だね。ところで、間宮君はおにぎりの具になりそうなのを色々と買ってたけど、何をおにぎりの中に詰めたの?」

「一つはさけフレークともう一つはこんですね」

「私は梅干しとおかかだよ」


 色々な話をしながら学校へと向かう。

 気が付けば校門。学年ごとに使っているしようこう口が違うため、山野さんとは校門をくぐればすぐにお別れだ。


「ばいばい、間宮君」

「あ、はい」


    *


 それからなんだかんだお昼をむかえた。

 たいていは幸喜と昼食を共にしており、今日も今日とて同じだ。


「ほら見てみろ。成しげたぞ?」


 机におにぎりとお茶の入った水筒を置く。


「おうよ。一応、聞いたから知ってはいたが、改めて見ると感激もんだな。おめでとさん。節約に一歩近づいたな」

「まあな、これをきっかけにドンドン自炊に切りえて行くつもりだ」

「でもよ、今日は思っていたよりも暑かったし、保冷剤を持ってきてねえみたいだが、大丈夫なのか? まあ、今日の気温なら確かに暑いがなんとかセーフだと思うが……」


 俺も心配していることだが、幸喜もこう言っているし、きっと平気だ。

 傷んで無いはずだと信じながら、おにぎりを食べようとした時だ。

 とある人物からメッセージが送られてきた。


『……なんかヤバそうなんだけど』


 そんなメッセージを送ってきた相手は山野さん。


『どうしたんですか?』


 すぐに返信が来た。


『なんかさ、おにぎりから酸っぱい匂いが……』


 同じく、おにぎりを包んでいたラップをがすと、心なしか少しだけ酸っぱい匂いがするようなしないような……


「幸喜。このおにぎりの匂いを少し嗅いでくれ」

「お、おう。って、少し酸っぱい? 匂いがするな」

「……だよな」


 どうやら幸喜でも酸っぱいと口にする匂いらしい。

 ……さて、気温的には大丈夫だと思っていたんだが、食べたらヤバそうである。


「くそ……、節約どころか損した。取りえず、おにぎりを食べるのはやめといて、こうばいでパンを買ってくる」


 悪態をつきながら、俺は昼食を求めカウンター式でパンや飲み物を売っている購買へ。

 昼休みが始まり少し経っているため、購買には生徒達の列が長々と出来ていた。

 そんな長い列に並ぶと、横にはおとなりさんの山野さん。


「だよね」

「ですよね」


 何がと言わず通じあってしまう。

 互いに作って来たおにぎりを口にせず、代わりの物を買いに来たことを察したのだ。

 購買の列は長く、ひまを持てあましている俺と山野さんは自然と話を始める。


「で、間宮君。原因は何だったと思う?」

「原因ですか?」

「そうそう。だって、確かに今日はあせばむ気温だけど、さすがにこの気温でくさるっていうのは聞いたこと無いよ?」

「調べてみましょうか」

「だね」


 購買の後ろの方で待っている俺達にはたんまりと時間がある。

 文明の利器を使って、どうしておにぎりがダメになってしまったのかを探り始めるとそれらしき理由に辿たどり着く。


「私が腐らせた理由は熱を冷ましてからラップに包んで無かったのが原因かも」

「同じくそうかもしれません」


 理由はおにぎりの熱を冷ましてからラップに包まなかったからにちがいない。

 温かいおにぎりはラップのすきすいてきを生じさせ、それがざつきんはんしよくさせるおんしようとなり結果としてしよくそくしんさせてしまったのだ。


「はあ……。こんなんなら、自炊なんてしなきゃ良かったよ。ほら、おにぎり代をにしちゃったわけだしさ」


 山野さんがかたを落としながらそう言うので、俺もそれに続いて『そうですね』と言いそうになるもグッとこらえる。


「今日はダメでも理由が分かれば、明日からはきっとうまく行きますって」

「そうかなあ……」


 昼食をおにぎりに替えて、飲み物を持参する。

 この効果は大きい。支出をかなり減らしてくれるのは違いない。

 今日は失敗したが明日以降は成功させれば良い話。ここであきらめるのもおかしな話だ。


「という訳で、明日はリベンジマッチをしましょう」

「間宮君の言う通りだね。明日こそはきちんとがんらないとだね」


 話しているのも束の間、購買の列は短くなり順番が回って来た。

 並び始めたのがおそかったせいで、まともなパンはあまり残っていない。まともなものと言えば……体育会系ですら買うのをためらうちよう特大4種のチーズが入ったパン。

 サイズで言うと、コッペパンの4倍くらいの大きさであり、ずっしりとした重量。

 なんでこんなパンを売ろうと思ったのかを疑うレベルなのだが……なんだかんだで今日は残っているが、人気商品。

 友達とシェアすればつうのパンを一つ買うよりも安く済むし、なによりも味はばつぐん

 そのため、割と売れ残る事が少ないパンなのだ。

 ……とはいえだ。一人で食べきれるものではないわけで、ここは諦めて不人気で残っているジャムもマーガリンも何も入っていない、ただのコッペパンを買うほかない。ジャムとマーガリンは別売りであるのだが、40円とちょっぴりお高いので今日はおにぎりという失敗もあるし買うのは諦めよう。

 なにせコッペパンは他のパン、例えば焼きそばパンよりも安くなっている訳では無く、ジャムを買えば普通に焼きそばパンよりも高くつくし。

 諦めて購買のおばさんにコッペパンだけをたのもうとした時だ。


「間宮君。いつしよにチーズのパンを買って分けない?」

「え、あ、はい」

「おっけー。おばさん。この特大チーズパン一つお願いします」


 購買のおばさんとやり取りをして特大チーズパンをこうにゆうした。

 ほぼほぼもう人が居なくなった購買を少しはなれてから立ち止まる俺達。


「んじゃ、分けっこしないとね」


 山野さんがパンをにぎり二つに分ける。

 包装のふくろに入ったままで直接れてはいない。

 こうして、二つに分けられたパンの片割れを手にする。ちなみに購買のおばさんが気を利かせて袋をくれたので、持ち運ぶ際にそのまま手にするという事はない。


「じゃあね。間宮君!」


 パンを分けるや否や、その場を離れて行く山野さん。

 それもそのはず、お昼休みはだいぶ時間がっている。


「俺ももどらないとな」


 そうして、自分のクラスに戻ってきた時だ。


「おやおや、それは超特大チーズのパンだね。しかも半分になってるという事はだれかと分けっこしたの?」


 クラスメイトのみっちゃんが話しかけて来た。

 グイグイ来る系女子で何かと物事を仕切りたがる。高校生活初日にれ馴れしい感じのあいさつを交わして仲良くなった友達の一人だ。


「ちょいとな」

「えー、哲君は幸喜君以外に友達がいないと思ってたのに」

「おい、ひどいことを言うな。みっちゃんよ。俺にだってな、友達くらい……」


 部活に入っていないので、クラスメイト以外の友達は……山野さんだけだな。


「で、誰と分けたの?」

ないしよだ」


 みっちゃんはグイグイ来る系女子。

 言いえれば、何事にも首をんで茶化すようなうざい系なのだ。

 ここで山野さんの事を話そうものなら、グイグイ聞いて茶化してくるに違いない。


「こんなに仲良しな私にすら話せない友達……さては、女でしょ?」

「……さあ?」

「哲君の様子からして大体そうなんだろうけどね。で、どうなのその女とは」

「だからなあ……」


 正直に言うとみっちゃんのこのグイグイとした感じが苦手だ。

 本人自体は別に苦手ではない、どころか親しみを覚えるくらいだが、いかんせんこのグイグイ来る感じがどうしようもなく俺は苦手である。


「あはは、ごめん。ごめん。んじゃ、私はこれからお花をみに行ってくる」


 うざい系女子みっちゃんから解放された俺はと言うと幸喜の下へと戻るが、


「まさか、俺以外の友達が居たとはな……」

「お前もか……。まあ、お前の言う通りなんだけどな」


 昼休みは残り少なくなったが、幸喜と一緒に昼食をいつも通りに済ませた。

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